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みんなまあるくタケモトピアノ





”ねえ、いっしょにあそぼうよ”
声にならぬからこその本音の音、
それが幼く黄色い嫉妬と
小さな胸のうちに和音となり
吹き荒れるぼくのひねくれのホルン
「へたくそ!へたくそ!」
「うるさい!」
悩める幼きピアニスト、
鍵盤を打ち間違えては固まる指と首、
関節、関節、小休止。
震える両腕の沈黙と意地の悪い弟の合いの手、
鍵盤と楽譜以外の音に彼女のピアノの実力が
如実に現れては怒り、鍵盤に鼻息、
呼吸が整わぬうちハタ打ち間違えては
「へたくそ!」「うるさい!」、鍵盤に虐待、
ホルンと10本の指の連歌応報。

姉ちゃんのピアノはいつになっても
うまくならない。
それは彼女の音楽とは程遠い。


凝り固くなるばかりの指と首、
過(あやま)てる鍵盤の短い残響音にビリビリ、
共振する目尻口もと、
テイク煮詰まれば荒唐、
無形の「もういい!」が無慈悲の鍵盤に
おろされる漆葢うるしぶた
けなかった指が裁きの手と団結し
バタン、自主練に棺桶。

皮切りに弾けてぼくの嫉妬のシャボン、
割れてあらわれた
悪童の笑顔と邪気のない接続詞、
「じゃあ」
暇つぶしの音いじり鼻いじり
その成果を天高く飛ばす中指、
待ちわびた本音がぼくとともに腰を上げ、
さて、
「いっしょにあそぼ」
子鹿のワルツがふくらはぎ、
呆れと安堵がせめぎ合う姉ちゃんのため息、
そして、ゆるむ小さな口もと。
ピアノより解き放たれた手と足と、
窓の外に放たれた彼女の本来の音楽と。

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