寺 次郎
男は『自分の』タクシーの後部座席に座っていた。深酒をして目を閉じているが、寝てはいなかった。 タクシーは見慣れた夜の国道を走っていた。この辺りまで来ると店もまばらで、その店もとうにシャッターを下ろし営業を終えている。 (俺のタクシー。なんで乗ってるんだっけか。そうだ、飲んだんだ。元々気乗りしなかった。やはり会うんじゃなかった。) 男はゆっくりと目を開くと窓の外を流れる風景を眺めた。 (自分が運転していた頃と何も変わらない。景色は変わらないな。) 誰もいない運転席では、