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家カレーに隠し味、入れますか?

東京を20年ほど離れていたため、その間にできた店や流行などにはウトい傾向がある。私がいた頃は清澄白河で休日を過ごすデートプランなんてあり得なかったし、銀座プランタンはオシャレで、渋谷にはプラネタリウムがあった。下北沢と呼ばれる範囲も今よりずっと狭く、一番街はもうシモキタとは思えなかったし、南口の王将ができた時は「またずいぶん町はずれに作ったな」と友達と笑ったものだ。

なので繁華街でとあるカレー屋の行列を見たときも、そこが有名店だとは知らなかった。オットに「ここ知ってる?美味しいの?」と尋ね、何でこんなどこにでもあるチェーン店を知らないんだと驚かれた。知らないよ。東京にしかないローカルチェーンだもの。

この店のカレーは「隠し味が隠れてないカレー」だとオットは言う。日本のカレーの魅力は渾然一体としたまろやかさにアリ、がオットの持論だが、こちらのカレーは「セロリでーす!」「バナナでーす!」「リンゴでーす!」と使ってる食材が、我も我もと主張してくるのだという。それはそれで面白いではないかと思ったが、なぜかこの店の前を通る時はいつもオットと一緒で、そのたびに「隠し味が隠れてないからな!」と謎の攻撃を仕掛けるので、いまだ食べたことがない。

やたらカレー

あらゆる料理に隠し味はあってもいいものだが、特にカレーは隠し味を呼び込みやすいと思う。料理初心者から上級者まで、人はなぜか家カレーに何かを仕込みたくなる。俺だけのちょっとしたアイディアを盛り込みたくなる。市販のカレールーはそれだけで美味しくなるように開発されているのに、何かひと工夫したくなるのが人間のサガなのだ。私だってやってる。

そこでTwitterで「あなたのカレーの隠し味」を募集してみた。定義は
・家で自ら作るカレーであること
・市販のルーを味の主とすること
・食材ではなく手順でもよいこと

あるある。みんな嬉々として、微に入り細を穿つ工夫を凝らしている。中には細かすぎて誰にも伝わらない隠し味もあるが、いい。それでいい。それをやったからといって味が激変しないのが、隠し味の本分なのだから。隠れてなかったら隠し味じゃない、とオットに謎攻撃されちゃうのだから。

とはいえ私は「隠し味は隠れてなければいけない」とは思わない。答えてもらった中には、かなり味に変化をもたらすものもある。かなり出しゃばるものもある。でも自分が好きならそれでいいじゃないか。では皆さんの隠し味をご紹介していこう。

金曜日のカレー

1・スパイスもりもり派

市販のカレールーを使う時も、本格へのアプローチは忘れたくない。そんな「ニットはユニクロだけど、スカートは〇〇だから」みたいなひねり技が、これだ。味のベースは市販ルーにおまかせするけど、スパイスで自分色に染め上げたい欲張りさんだ。

作り方は普通だけど、仕上げにホールのカルダモンとクローブ、シナモンスティックを粉砕したパウダーをパラパラ。
最初にホールのクミンとマスタードシードを使い、適当にパウダースパイスを入れる。ルーはその時々でいろいろだけど、スパイスの使い方はだいたい同じ。
クミンはいつも入れる。あとは気分でコリアンダーパウダー入れたり、いろんなメーカーのガラムマサラを試したりする。

スターターでクミンとマスタードシードを使いがちな私も、この一派に所属しているといってもいい。国民食とも称されるカレーは今や立派な日本料理でもあるけれど、スパイス料理のルーツを諦めきれない、そんな気持ちだ。

ザカリー

2・カレールーのブレンド派

「混ぜれば混ぜるほど美味しくなる」概念は、コーヒーや調味料の分野においてもよくあるものだ。昔のバイト先にも「お客様に出すお茶は、ひとつのメーカーのものだけ使ったら失礼。必ず3つくらいブレンドすること」という謎の「お茶しぐさ」があった。科学的根拠はわからないが、なぜか情念に訴えかけてくる理屈がある。それがブレンド派の強みである。

熟カレー中辛と辛口を半々で混ぜるのが実家のやり方。自分は今、こくまろとZEPPINを半々に混ぜるのにハマっている。
チョコレート状の固形ルーには必ず、フレーク状のルーを混ぜるようにしています。たまに切らした時は固形だけでも食べますが、どうも物足りない気がします。
どのカレーでもいいんだけど、必ずハウスとS&Bをブレンドするようにしている。メーカーが違うと味に深みが出ていい。
ブレンドするのが当たり前だけど、必ずメーカーは揃えるのがコツ。そうすると味がブレない。ジャワとこくまろを2:1で混ぜるのが黄金比率。

メーカーを違える派、合わせる派の真っ向勝負! 

パンとカレー

3・特定の食材にこだわる派

よく「カレーに入れる肉は牛か、豚か」というような戦いがあるが、肉だけでなくさまざまな食材が「我が家のカレーに欠かせない隠し味」として挙げられている。そういえば私にも「小海老を叩いて細かくしたものを仕上げに混ぜ込む」ことに夢中になった時があった。海産物の旨味がカレーを底上げしてくれるように思たんだろう。どこで見つけたアイディアなのか、今ではさっぱりわからないけど。

大根入りがうちのカレーです。大根の甘さと独特の匂いが入ると、カレーが締まるんです。店で食べてる時も「このカレー、大根を入れたらもっと美味しくなるのに」と思ったりします。
こんにゃくとピーマン
茅乃舎の野菜だしを粉のまま混ぜ込む
私が作ると『カレー風味のトマト煮込み』に近い風合で、ピーマンとかナスとかキノコとか豆とかとうもろこしとか入れがちですよね。食べるときに粉チーズはマストです。なんだろうこの料理(笑)
昔、母は市販のルーに小麦粉を混ぜていました。父が固めのルー好きだって理由からです。翌日、お玉ぶん回しても落ちないカレールーを必死に牛乳で溶かすんですが、自分はそれがイヤでたまらなく、見事カレー嫌いに
メーカーも味つけも普通でいいけど、炒める油をごま油にすること。これがカレーを香ばしくさせて必殺の隠し味になる。

「隠し味」と言って想像する三種の神器は、もちろん多数お寄せいただいた。まあ誰しもやってみた過去はあると思う。私はチョコとココアのどちらがいいのか実験したこともあった。結論からいうと、よくわからなかったw

インスタントコーヒー(多数)
チョコレート(多数)
果物いろいろ(多数)

あ、もうひとつの三種の神器も、多数お寄せいただいた(すでに六種じゃん、とか言わない)

醤油
ソース
ケチャップ


◆ ◆ ◆

レンコン

隠し味を尋ねたというのに「何も入れない、何も足さない」と胸を張って答える人が少なからずいたのは、とても面白かった。中には「隠し味を入れないことが、自分の隠し味だ」という禅問答のような答えもやってきた。

本当の意味で「隠し味」とは「カレーの自分ルール」のことかもしれない。普遍的なものほど、自分ならではのスタイルが生まれる。そうして生まれた自分ルールを遵守したくなる。そのルールは月日によって変わるかもしれないが、それでいい。それはまた別のおはなしだし、変化がまた愛おしい。

実はこのアンケートは数年前に聞いたものなので、また尋ねてみたいと思う。2020、コロナ禍の今はまた違うルールが生まれていることだろう。どうやって尋ねようかな。こんな↓答えが返ってくるような問いがいいんだが。

ハウスジャワカレー中辛一択。じゃがいも(メークイン禁止、男爵推奨)、にんじん、玉ねぎ、豚肉。ルーの箱のやり方通り。隠し味特になし。盛り付けはご飯とルーが半分半分になるタイプ(米陸+ルー海タイプ)。私はらっきょうも福神漬もいらない派。おかわりする派。

完璧じゃない? 私も「おかわりする派」だ。

めちゃくちゃくだらないことに使いたいと思います。よろしくお願いします。