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MMK(モテてモテて困る)

定期的に打ち合わせをする若い女子Kは本業以外にもいろんな副業をしているため、いろんな職場のいろんなタイプの人との出会いが多く、彼女の話を聞くのは私にとっても大変楽しみである。

Kの目下の悩みは、スキあらばマウントを仕掛けてくるAさんの存在だ。Aさんのマウントタイプは「MMK」つまり「モテてモテて困る」アタクシという存在を設定し、そのキャラづけに基づいた自慢話をするというものだ。

実際、ようおモテになる人というのは存在する。
違う違う、そうじゃない。若くてキレイだからチヤホヤされるという話じゃない。ネットでよく言われる「ただしイケメンに限る、だろ?」みたいな決めつけの話でもない。美人でもイケメンでもないし、若くもないのに、いつまでも人の気持ちを集めてしまう人がいるという話だ。

例えばYちゃんのお母さんだ。優しそうではあるが、取り立ててどうということはない風貌。付き合った男性もY父ひとりだけで、若い頃はそうモテていたわけではないらしい。ところが中年に差し掛かってから、彼女のモテスイッチが急に入った。市民センターの句会に入れば、師範が彼女の作品ばかりを褒めちぎり、個人指導を申し出てきたりする。スーパーのパートに出れば上司がやたら肉をくれたりする。ドトールでバイトした時は、Y母と話をしたい常連客が次々と追加注文をするため売上が倍増し、引越しのため辞めるとなった時は店長に泣かれたそうだ。今もとある街のミスドでやたら常連客にプレゼントをもらったり、ちょっと多めのドーナツを買わせているらしい。うちの会社で働きなさいというスカウトも日常茶飯事だそうだ。

Dくんもよくモテていた。彼は触れるものをみな黄金に変えてしまうミダス王のごとく、彼と少しでもお話をした女子をみんな惚れさせてしまう能力があると評判のモテモテだったが、正直ぱっと見は冴えない中年男でしかない。中肉中背、顔は平凡、賢そうでもバカそうでもなく、身につけているものもごく普通のものばかり。
ところが会話をすると印象は一変する。あの魅力をなんと表現したらいいのか。相づちの完璧なタイミング、切り返しの柔らかさ、こちらへ質問してくる時のポイントの確かさ。ほんの短時間しゃべっただけで「この人、私が聞いてほしいことをちゃんと聞いてくる」と驚いてしまう。それがしばらく続けば「この人、私のことわかってくれる!」と惚れてしまうだろう。私も危ないところだった。もう少し長く話してたら人生狂ってたかもしれない。

というようにモテてモテて困るくらいモテる人というのはいるものだ。さて若い女子Kちゃんよ、あなたにマウントとってくるAさんはどうなの。そういうタイプなの。どんな話をしてくるの。

それはなかなか厳しい話だった。結論から言うといわゆる「嘘松乙」だろうし、Aさんをそこまで追いやったのはもしかするとKちゃんの存在なのかもしれないからだ。

Aさんは最初、やたら親切な先輩として振る舞っていたようだ。わからないことはなんでも聞いてね!私が教えてあげる!と、よく世話を焼いてくれていたらしい。ところが先輩というのは1人だけではないし、業務内容によってはAさんはまったく関係ないことも多かったため、Kは他の人にも指導してもらって仕事を覚えていったという。

それがAには気に入らなかったのだろう。ある時呼び出され「私が教えてあげると言ったでしょ?なんでも最初は私に聞いて?私を頼って?」と少々怖い距離感で詰め寄ってきた。Kが「でも〇〇の仕事はAさんの管轄外だから他の人に聞かないと」と正論を言っても「それでも私を通すのがスジでしょ」と引き下がらない。

それじゃと上司に相談して「〇〇のことはAに聞いても仕方ないだろ。それは今まで通り他の人に指導してもらって」とお墨付きを得たのだが、それで黙るAではない。上司の見えないところで呼び出しては「自分に聞け、自分を頼れ」とゴリ押ししてくる。それが面倒で、Kは段々と「はあ、そうですか」とスルーするようになった。

そこで始まったのが、MMKマウントだった。ある日また呼び出され「ウザいな」と思って行くと、なんの脈絡もなく突然「私さ〜すごいモテるんだよね」とモテ自慢を語り始めたのだという。

それからは毎回、顔を合わすたびにMMKマウントだ。聞いてもないのに「今日もここ来るまでに3人声かけてきてー」とか「こないだなんかさー男が追いかけてきちゃって大変だったー」とか自慢する。Kはもともと「え、すごーい」とかお世辞の返しをしないタイプなので「へえ」とか「はあ」とかモヤモヤした反応に終始する。それが気に入らなくてマウントはさらにスケールアップする。今はその最中なのだという。

Kがいつまでも「すごーい」と言わないから、Aさんも大変だ。Kの度肝を抜いてやるため、よりすごい話を盛らなきゃいけないから必死なのだ。今はどういう状態かというと

大阪でアイドルやってて将来は弁護士志望の遠距離恋愛中の彼氏がいるってのに、男が寄ってきて困る。こないだなんか同時に7人の人に告白されちゃった☆ でもその7人が全員ストーカー化しちゃってもう大変♡ 彼氏は明日にも東京行ってそいつら殴ってやるって言ってるんだけど、彼氏も彼氏でJK(韓国アイドル事務所のオーディションに受かったくらいかわいい)に追いかけ回されて大変だから、私がなんとかしなくちゃ。でも今また別な人から告白されそう。どうしよう〜


盛り盛り。

他人事で申し訳ないが、私としてはもうしばらく様子見をしていたいと思う。どこまで行くのか気になるじゃないか。そのうち日本を出て世界のMMKになるかもしれないじゃないか。そしていつの日か、広げきった風呂敷をきれいに畳んでくれたらいいなと思う。それができたらもう彼女は嘘松などではない。一流のストーリーテラーとして別の仕事についていることだろう。待ってる。

めちゃくちゃくだらないことに使いたいと思います。よろしくお願いします。