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世界で1番太る食べ物

誰から聞いたのか、何で読んだのかはすっかり忘れてしまっても、その情報だけは記憶に残り、いつまでも人生に影響を与えていることがある。

たとえば「鈍行」だ。

今は各駅停車と言わないと通じないらしいが、昭和の時代あれは「どんこう」と呼ばれていた。実家の最寄り駅は、1日に2本くらいの特急以外すべて鈍行だったため、なんなら列車のことを「鈍行」と呼んですらいた。それくらい身近な言葉だった。そんなある日、誰かが私に言ったのだ。

「うどん粉って、鈍行からつけられた名前なんだって」

いやいやいや!単に語感が似てるだけ!あーりーえーなーいー!
…と今の私なら即答だが、当時はバカな小学生だ。何でもいったん「え!そうなの?」と取り込んでしまうのが基本仕様。何でも信じる。何でも鵜呑みにする。たとえ「うどん粉」って言葉がよくわからず、その場で聞いて初めて「小麦粉のことか」と知ったとしても鵜呑みにする。

幸い現代社会においてもう「うどん粉」という語句を耳にすることはまれなので助かっているが、たまに聞くと心の中の8歳が「鈍行?」とつぶやく。わかってる。わかってるんだけど。

そういえば「ベーシスト」にも誰かに言われた刷り込みがある。

「ベースの人って、自分がいなきゃこのバンドは崩壊するって全員が思ってるんだって」

誰にいつどんなタイミングで吹き込まれたのか、まったく覚えていない。だがこの言葉は深く深く心に刻み込まれ「ベーシストって傲慢なんだ」との偏見をずうっと持ったまま育った。のちにバンギャになり、いくつもバンドを掛け持ちするような人と付き合ったり、結婚したりして何人ものベーシストと知り合って初めて誤解が溶けたのだ。そんな腹黒い人はほぼいなかった。むしろ「ベースがビシッと決まってないとバンドの音全体が悪くなるから、頑張らなくちゃな」とかカッコいい人が多かった。世界中のベーシストに心から謝りたい。

そしてチャーハンだ。

みんな、知ってるか。
世の中のあらゆる食べ物の中で、1番太るのはチャーハンなのだ。

もちろん嘘である。
そりゃそうだろう。たかが米とわずかな肉、野菜だけで構成されているチャーハンが、あらゆる食べ物の中で「1番」の訳がない。同じ量を摂取した時、チャーハンよりカロリーの高いものなどこの世にごまんとある。

ラードで揚げたとんかつとか
バターをくるんで揚げたチキンキエフとか
マヨネーズをこれでもかと入れたポテトサラダとか
アヒージョの残りのオイルを全部パンに吸わせて平らげてしまうとか

つまり油だ。脂でもいい。カロリー爆誕させるもの、それはいつも油なのだ。米じゃない、卵でもネギでもない。チャーハンに罪はないのだ。冷静に考えたらわかるはずだろう。

しかしいったい誰に吹き込まれたんだ。誰が私を洗脳したんだ。男だったような気がするがわからない。もしかすると大して親しくない友達の友達とか、飲み屋で隣り合わせただけの一期一会とかかもしれない。だがとにかく「チャーハンは世界一太る」の文言は常に脳内に待機していて、チャーハンを食べようとする私をほんの少し苦しめる。

めちゃくちゃくだらないことに使いたいと思います。よろしくお願いします。