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子どもがはじめてであう料理本

先日ツイッターに突如「ポテサラ爺さん」が現れた。ある人は怒り、ある人は美味しいポテサラの店情報を放ち、またある人は我が家のポテサラレシピを語り、結果多くの人がポテサラのことを考えた1日となり、多くの人にその夜ポテトサラダを食べさせた。

うちもまんまとポテサラを食べたクチだ。そして食べながら考えた。私がはじめてポテトサラダを作ったのはいつだろう。どうやって作り方を知ったんだろう。家庭科の時間?いや違う。家庭科の調理実習で作ったのは、粉ふきいもだ。そしてその時私はすでに、家で粉ふきいもくらいは作ったことがあった。なぜか。ポテトサラダを作るためだ。ではポテサラ黎明期はその前となる。

記憶の海を深く潜っていくと、一冊の本のことを思い出した。
それは母親の本棚にあった、料理の本だ。

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これは「きょうの料理」や「暮らしの手帳」などの雑誌ではなく、単行本のかたちで私が生まれてはじめてであった料理の本だ。昭和47年刊、430円。中学生になって自分で料理本を買うようになる以前、小学生のごく短い期間に、私はこの本に載っているいろいろな料理を作った。うん、作った。作ったといえば作った。同じ料理というには語弊があるが、作りはした。

どうしてこんなに歯切れが悪い物言いをするかというと、初心者のくせに最初からめっちゃアレンジして作ったからである。今ワークショップなどで口を酸っぱくして「はじめて作る時は絶対アレンジしないで」と言ってるくせに、自分はやりたい放題で正解から程遠いものを量産していたからである。
だって分量を測るのはメンドクサイし、材料をきちんと揃えるのはメンドクサイし、手順を遵守するのもメンドクサイもの。仕方ない。

おまけにこの本は、初心者にまっっったく優しくない。元は婦人倶楽部という昭和を代表する婦人雑誌だから、対象は主婦のはずなのに優しくない。「手作りの料理百科」のタイトルに恥じぬ、あらゆるものを手作りしてしまおうという趣旨でゴリゴリ押しまくる。まあとにかく目次を見て欲しい。「こんなものまで主婦が手作りしたいか?」と驚きのライナップである。

目次

目次2

目次3

目次4

ね、最初が「食パン」だもの。いきなりトップギアのフルスロットルで始まり始まりだもの。この後も推して知るべしである。以下、気になった料理をいくつか紹介していこう。

・シューマイ

シューマイ

まさかの「皮から手作り」
いきなりのハードルの高さに、麺棒を持つ手も震える。いやわかる、わかるよ。昭和47年だ。今みたいにスーパーで気軽にシューマイの皮が買えないし、そもそもスーパーの数だって昔は少ない。下町の商店街に住んでいたら話は別だろうが、地方の町ならばシューマイ皮を手にするには車で1時間とか平気でかかるだろう。それなら手作りした方が早い。編集部はそう判断したんだろう。わかるけど。

・ワンタンとギョーザと豚まんと

ワンタン

ギョーザ

ぶたまん

ハイハイ、小麦粉! ぜんぶ小麦粉からやります! 手抜きしません!
そしてワンタンの材料にある「スープのもと」も、味の素とかウエイパーじゃない。鶏ガラと長ネギ、生姜で1時間かけてとる、まっとうな清湯(チンタン)だ。なんちゅうレベルを要求するんや...婦人倶楽部。

・スパゲティミートソース

スパゲティ

ハイハイ!手打ち! スパゲティと言ったら手打ちですよね! パスタフレスカですよね! 昭和ですけどね!
てっきりミートソースの作り方だと思ったら、またもや小麦粉から始まるワンダーレシピ。ワンタン皮と違い、昭和47年ならさすがに乾燥スパゲティは手に入ったと思うが、そうでもなかったんだろうか。それとも「手作りできるモノは手作りしてもらうんで!(キラッ)」という確固たる信念なんだろうか。

・こんにゃく

こんにゃく

ハーイ! こんにゃくだって簡単手作り! 本当はこんにゃく芋をすりおろして使うんだけど、手抜きしてこんにゃく粉を使っちゃうよ!
...とか本当に思ってそうで怖いw でもこんにゃくの手作りは、今でもやってる人はたまにいて、「うちのおばあちゃんが作った」なんてのをおすそ分けしてもらったことが何度かあるので、そんなに難しいものではないのかもしれない。実はやってみたいもののひとつ。

・ウスターソース

ソース

ソースがなかったら作ればいいじゃない。材料21種。加熱時間1時間、瓶詰め後2週間の熟成期間を経て、ようやく完成。醤油や昆布など和の材料が使われているのは驚いた。犬印のあのソース屋さんも使っているんだろうか。

・カルピス

カルピス

カワイイは作れる!カルピスも作れる!
市販ヨーグルトを使うので、手抜き?と思っただろう。違うんだ、これは市販のヨーグルトをタネにして、脱脂粉乳をヨーグルトに発酵させるとこから始める、ガチなレシピなんだ。ちなみに本物も脱脂粉乳から作られるので(脱した脂はご存知カルピスバターに)意外と近い味かもしれない。

カルピス2

ホントの手抜きカルピスはこちら。2つもレシピを載せるなんて、カルピスは当時から愛されてたことがうかがえる。

・豆腐

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ハイ、もう驚かない。大豆。大豆から作るに決まっている。
そしてこのレシピの白眉は「ほんの30分くらいで作れます」と、さらっと抜かしているところだろう。材料もたった3つだし、ここまでいろいろ手作りしてきた猛者には物足りないくらいだ。たぶん。

◆ ◆ ◆

とりあえずこのくらいにしておこう。改めて見ると、小学生が勝手にアレンジしていいレベルの本ではない。ページの汚れ具合から判断すると、私がチャレンジしたのはクッキーやケーキなどのスイーツ、ジャム、ブリオッシュ、ソーセージ、そしてポテトサラダである。ではそのポテトサラダのレシピを見てもらおう。

ポテトサラダ

ハイ!ここまで読んできた人は、もうわかりますね。
フレンチドレッシング、マヨネーズ共に手作りである。他のページにレシピが載ってるから参照してくれなのである。インスタントの固形スープの素だけが異彩を放つが、もしかすると最初の原案では「他のページにレシピが載ってる洋風スープのレシピを使う」だったのではないか。そんな邪推すらしてしまう。

最後にいくつか写真を見てもらいたい。昭和47年・写真がめちゃくちゃカワイイ。色合いも、盛り付けも、レトロでカワイイ。特にシビれたのはこのババロアだ。見てこのバラのつぼみ。かわいすぎるでしょ。

ババロア

ビーフシチューもカワイイ。

ビーフシチュー

いちごジュース


めちゃくちゃくだらないことに使いたいと思います。よろしくお願いします。