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トランスジェンダー差別をしたくない人のための書籍・記事紹介


<はじめに>

この文章は私自身がトランスジェンダー差別に反対することを目的として書いた、トランスジェンダー差別問題に関心があるけど何をしたらいいかわからないシスジェンダーの人が読むことを想定したものです。トランスジェンダーの存在を否認したい人や、フェミニストを攻撃したいだけの性差別主義者のための言葉はありません、立ち去ってください。また、タイトルでトランスジェンダー差別をしたくない人のための、と書きましたが、トランスジェンダー差別だと「言われたくない人」ではなく、差別をしたくない人のための、です。
それから私自身は生まれてからこれまで自分の性別について一切違和感を感じたりしたことのないシスジェンダーなので、慎重に書いたつもりではありますが誤った情報や偏見を助長するような表現があった場合は見つけ次第訂正します。
この文章は「中立」なものではありません。トランスジェンダー差別に反対している人間の書いた文章です。

声を上げなければ差別に加担していることと同じだ、という言い回しがありますが、これを言ってしまうことに問題があることを承知の上で敢えて書かせてもらうと、私は(とくになんらかの責任ある立場を明らかにして発信しているわけではないのなら)必ずしも何か表明する必要があるとは思いません。とくにSNSのように不特定多数の人が投稿を目にし、ふとしたきっかけで拡散してしまうプラットフォームでマイノリティの人権問題について発言するのは慎重になった方が良いことだと思っています。そうは言っても差別者は自然に差別をやめてくれるわけではないし、過去の何もできなかった自分を正当化するような言い方だとも思うのですが、何かしたいという気持ちを勉強に当てるという選択ができると私は思います。勉強することは少なくともSNSで不用意なことを書くより直接的に当事者の人を傷つけるリスクが低いのではないかと考え、私的な書籍・記事紹介を作成した次第です。あと明らかに悪質なツイートは通報しよう(ツイッター社は悪質なツイートを放置しないでほしいです)


<トランスジェンダーについて学ぶ>

私と同じくゼロからスタートしたい人のための本を紹介します。

「はじめて学ぶLGBT」
「LGBTを読みとく クィア・スタディーズ入門」

上記はトランスジェンダーだけでなく性的マイノリティについての概論を把握したい時の2冊だと思います。「はじめて~」の方は現代社会で暮らす上で知っておきたい実践的な知識、「読みとく」の方はこれまで性的マイノリティについてどのような権利運動や議論や批判があったのかについての知識を学ぶことができる本だと思います。どちらも良いブックガイドになっているので、この本を起点として紹介されている参考文献を読んでいくと良いのではないでしょうか。これは「読みとく」の方の受け売りですが、トランスジェンダーに関する文献は日々新しいものが発表されるので、書籍だけでなくciniiを利用して情報を得るのも良いと思います。

次に、当事者の視点を知ることができる本や記事を紹介します。

「女装と日本人」
トランス女性で、性別越境についての文化社会史の研究をされている三橋順子氏の著書です。日本の歴史において性別越境者はどのように存在してきたのかについて書かれています。正直に言えばヤマトタケル伝説や女形などの文化を持つ日本人が性別越境者に寛容であるという論には賛同しかねるのですが、個人的に性別を越境するとはどういうことか?ということを考える手助けになる本でした。

「変えてゆく勇気: 「性同一性障害」の私から」
世田谷区議会議員を務めているトランス女性・上川あや氏の著書です。自身の生い立ちから性別移行や、議員としての活動などの経験をもとに、性同一障害にまつわる医療や社会保障、法整備など現代日本の事情について学べる本だと思います。(2007年の本なので当時とはまた変わってきているところもあると思いますが)


「LGBTインタビューメディアサイト LGBTER」
https://lgbter.jp/
トランスジェンダー当事者の方が書かれた本は他にもたくさんあり、自分でまだ読めていないのもあって紹介できないのが申し訳ないのですが、書籍以外だと上記のインタビューサイトで様々な人の話を読むことができます。

杉田水脈氏の「生産性」論考や、ツイッター上のトランス差別を受けての記事も紹介します。

「(トランスジェンダー)女性が綴った葛藤「男でも女でもなく、社会問題化した“LGBTQ”でもなく、“わたし”として生きる自由を」」
https://www.bookbang.jp/article/625992

「すでに隣人である私からすでに隣人であるあなた達へ」
https://snartasa.hatenablog.com/entry/2020/06/12/203657


<ツイッター上のトランスジェンダー差別問題について知る>

トランスジェンダー差別自体はこれ以前から存在していますが、とくに2018年から続いている主にツイッター上で行われてきた(そして現在も続いている)差別問題について把握するのに手助けになると思う資料を紹介します。

「誰をいかなる理由で排除しようとしているのか? ―SNSにおけるトランス女性差別現象から」
https://note.com/horry/n/ne0ae4c540671
2018年7月にお茶の水女子大がトランスジェンダーの学生を受け入れることを発表したことを発端とした、どのような差別・排除言説がなされてきたかの流れについての記事です。冒頭で「この論考はあくまで私(筆者)の位置からまとめたものであることを断っておきたい」という但し書きがついている通りなのですが、文中引用でトランス差別・排除言説の具体例を知ることができます。

「Women's Action Network シリーズ・トランスジェンダーとともに」
こちらはツイッター上のトランス差別に対して、ジェンダーやセクシュアリティ、フェミニズムなどの研究者が発表した記事をまとめたシリーズになっています。
2020/8/31追記:WANにトランスジェンダー排除的なエッセイが掲載されたこと、それに関連するWANの対応に疑問があることを鑑みてリンクを削除することにしました。これまでに掲載された記事で、WAN以外のサイトで読めるものを以下にリンクを貼ります。
「「女性専用スペース」とトランスフォビア」
https://frroots.hatenablog.com/entry/2019/01/12/100233
「Where We Are Right Now :多義的に進化するフェミニズムの現在地」
https://www.facebook.com/notes/shimizu-akiko/where-we-are-right-now-or-where-we-thought-we-are/2272381666119622/
「トランスジェンダーとフェミニズム ツイッターの惨状に対して研究者ができること」
https://wezz-y.com/archives/62688
「「トランスジェンダーとともに」あるために、男性がなすべきこと」
http://www.reddy.e.u-tokyo.ac.jp/act/essay_serial/maekawa.html
「ネット公開「共に在るためのフェミニズム」」
https://note.com/horry/n/n27767e4e507f
「人々のトランスジェンダー嫌悪が少なくなれば、ジェンダー平等感覚の形成は進む」
https://wezz-y.com/archives/62967
「「女性専用スペースからトランス女性を排除しなければならない」という主張に、フェミニストやトランスはどう抵抗してきたか」
https://wezz-y.com/archives/63653
「後回しにされる「差別」:トランスジェンダーを加害者扱いする「想像的逆転」に抗して」
https://wezz-y.com/archives/67425
「「トランス女性は女性じゃない」論の間違いをすっぱぬく 」
https://note.com/yu_ichikawa/n/n044bc655d1d8

「MtFの女性専用スペースの利用について、ひとりのMtFが考えたこと」
https://kuroimtf.hatenablog.jp/entry/2018/12/28/202941
「「規格外」を生きているということ」
https://kuroimtf.hatenablog.jp/entry/2019/04/05/222033
トランス女性の方のトランス差別批判についてのブログです。上記2つ以外の記事もぜひ読んでほしいです(スクリーンショットでどのようなトランス差別ツイートがなされていたのかも見られるので)。

この文章ではウェブメディアやブログの記事を中心に紹介していますが、この他にもツイッターでトランス差別ツイートを批判、抗議している当事者の方々のアカウントがありました。ツイートをひとつひとつ紹介できなくて申し訳ないのですが、もし私が、ピンクの鳥のアイコンがいいねしたことのあるツイートのアカウントの方がここを見ていたらおかげでこの文章を書けていますと伝えたいです。
また2019年の年明けまで私の見る限りアカデミアの介入はほとんどなく、こういった当事者の方やトランスアライの方の批判や抗議ツイートがなければ私も気付けなかったと思います。

「現代思想2019年9月号 特集=倫理学の論点23 トランス排除をめぐる論争のむずかしさ」
倫理学的視点から英語圏のトランス排除問題にも触れつつ女性用スペースの使用についての議論を行う難しさについての論考です。どちらかといえばシスジェンダーの物の見方に沿って語られている論考かなと思いましたが、女性用スペースの話をする上でどのような点がトランスフォビアになり得るのかを指摘するものになっていると思います。

上記論考でも触れられているように、日本語圏では研究者など実名や所属を明らかにしてトランス差別の件に触れている人でトランス差別言説を表明している人はほとんどいないと思っていたのですが、それでも何件か批判すべき言説があったため、以下でそれらに対する批判を紹介します。


<松浦大悟氏の発言への批判>

「松浦大悟さんの「女湯に男性器のある人を入れないのは差別」論への疑問」
https://www.buzzfeed.com/jp/mametaendo/transgender-matsuura


<三浦俊彦氏の記事への批判>

「本学三浦俊彦教授によるトランスジェンダーに関するオンライン記事についての東京大学関係教員有志声明」
http://statementontgarticle.mystrikingly.com/

「差別扇動に抗議する哲学研究者有志」
https://philantidiscrimination.blogspot.com/2019/06/tocana-2019514tocana-lgbt-2019527-1-2-1.html


<千田有紀氏の論考への批判>

「現代思想2020年3月臨時増刊号 総特集=フェミニズムの現在 「女」の境界線を引きなおす――「ターフ」をめぐる対立を超えて」
もし上記論考を読むことがあるならば、こちらのトランス女性の方、Aジェンダーの方からの批判記事をあわせて読んでほしいと思います。

「千田有紀「「女」の境界線を引きなおす:「ターフ」をめぐる対立を超えて」(『現代思想3月臨時増刊号 総特集フェミニズムの現在』)を読んで」
https://snartasa.hatenablog.com/entry/2020/02/20/034820

「未来人と産業廃棄物――千田先生の「ターフ」論文を読んで 」
https://note.com/asexualnight/n/n8ef173987d74

「千田有紀の「「女」の境界線をひきなおす 「ターフ」をめぐる対立を超えて」について」
https://whotechnology.hateblo.jp/entry/2020/02/22/142649


<トランス女性が女性用スペースから排除されることについてのニュース>

トイレに関して言えば、ここまでで紹介してきた当事者の書かれた文章にあるように、以前からすでにトランス女性は女子トイレを使っています。同時に、トランスジェンダーであると明かすこと、明かされること、みなされることはリスクになるのも現状で、望む性別のスペースを利用できない人もいます。女性用スペースに関して「手術を受けてる人ならいいけど」のようなコメントが見られることもありますが、性別適合手術を受けて戸籍上の性別を変更している人であってもハラスメントを受けたり現在の性別で扱われないことがあるということがわかるのではないかと思います。直近のニュースを紹介します。

「性別変更ばらす「アウティング」で勤務先病院を看護助手が提訴 」
http://a.msn.com/01/ja-jp/AAGy7Mc?ocid=st2

「性同一性障害の経産省職員にトイレ使用制限、国に賠償命令 東京地裁」
https://www.huffingtonpost.jp/entry/story_jp_5df1e650e4b01e0f295a0da2

「「トランスジェンダーも人間だ」-東京入管被収容者パトさんからの訴え」
https://migrants.jp/news/blog/20200413.html


<その他、トランスジェンダー差別への批判として>

「フェミニストとしてトランス差別・排除に反対します。」
https://font-da.hatenablog.jp/entry/2019/02/08/124056

「私は女なのか?~「不完全女性」を認定する」
https://wezz-y.com/archives/63484

「トランスジェンダーが出会う「社会的な死」」
https://wezz-y.com/archives/68021

「「トランス女性は女性じゃない」論の間違いをすっぱぬく 」
https://note.com/yu_ichikawa/n/n044bc655d1d8

「「まだまだ物語が必要」とはどういうことか?」
https://note.com/tomotomo1987/n/n2f125b8de66f

「「女性」でなく「生理のある人」と呼ばないとトランス差別? 〜よくある疑問への回答〜」
https://goatskin.hatenablog.com/entry/2020/06/19/180443


<トランス男性当事者による記事>

できるだけ当事者の方の本や記事を紹介しようと思ったのですが、ツイッター上のトランス差別の大半は女性用スペースの話と併せて語られることが多いため、どうしてもトランス女性の記事が多くなりました。そこでトランス差別の話題に直接言及しているわけではないですが、トランス男性の方の書かれた記事も紹介します。

「トランス男子のフェミな日常」
https://wezz-y.com/archives/category/column/toransudanshi

「『にくをはぐ』当事者として読んでみた感想 」
https://note.com/neutralde5/n/n5a233e14b7a4


<医療的アプローチや法整備について>

トランスジェンダーの人が全て性同一性障害の診断を受けていたり、性別適合手術を受けたり望んだりしているわけではないということを強調しておきますが(地方在住だったりすると数少ないジェンダークリニックへのアクセス自体が非常に困難という現実もあります)、性同一性障害に関する医療や法整備の話は現在の社会状況を知る一助になると思うので紹介します。

「性同一性障害に関する診断と治療のガイドライン」
https://www.jspn.or.jp/modules/advocacy/index.php?content_id=23

「性別変更「手術要件なくして」 LGBT議連が「性同一性障害特例法」の要件について関係者からヒアリング」
https://www.huffingtonpost.jp/entry/story_jp_5dd35896e4b0263fbc99aa1f


<性別を第三者に疑われるということ>

「「キャスター・セメンヤの話は,公平性の話なんかじゃない」DSDsとスポーツ」
https://nexdsd.hatenablog.com/entry/2017/08/09/065351
トランスジェンダーの話をする時に性分化疾患(DSDs)をまじえるのは誤りなのですが(DSDsではない人と同様に、DSDsの人の大半はシスジェンダーです)、自分の性別が他人から疑われ、審判されることの暴力性について知るきっかけになった話なのでここで紹介させてください。

DSDs:体の性の様々な発達(性分化疾患/インターセックス)の新・基礎知識Q&A
https://wezz-y.com/archives/50891
ジェンダーアイデンティティの話と混同して語られることが多いDSDsについての記事も補足として紹介します。


<私が紹介しないもの>

この文章で紹介しないものの話をします。
まず、「シスジェンダー女性がトランスジェンダー女性に脅威を感じることは理解できる」というコメントをしているトランスジェンダー当事者の方もいることを知っています。しかしこの文章はトランスジェンダー差別をしたくない人のための文章で、そういったコメントを紹介しても差別をしていると言われたくない人が安心する以外のメリットを見いだせないため紹介はしません。そのような意見があることは知っています、とだけ述べます。
また、犯罪や問題のある行為、発言をしたトランスジェンダーの存在についても述べません。別に都合が悪いから隠しているわけではなく(シスジェンダーの私にとって都合が悪いとは?)、個別に対応や批判が必要と思いますが、マイノリティの権利の話をするときに「問題のある」マイノリティの話をいちいち持ち出さなければならないのはフェアではないと考えるからです。また、多くのマイノリティ差別と同様に「問題のある」トランスジェンダーに関してのツイートにはデマや誇張、曲解が含まれているものもいくつか見ましたので拡散する前に情報源を確認してほしいです。


<おわりに>

以上、自分のTwilogやFavologを見返しながら紹介してみました。それなりにたくさんあるので全部読んでから発言しましょうとは言いませんが、こういった内容を毎度毎度当事者が質問されていたらうんざりするのではないかということは想像できるのではないかと思います。J.K.ローリング氏の件については触れられなかったのですが、これに対するエマ・ワトソンのツイート「Trans people are who they say they are and deserve to live their lives without being constantly questioned or told they aren’t who they say they are.」も、このようなことを想定しているのかなと思いました。

なぜ私がこういった文章を書くかという話ですが、トランスジェンダー当事者の知り合いがいるとかいないとかいう話もしません。私の知り合いだろうがそうでなかろうが出生時に割り当てられた性別ではない性で暮らしている人は現にいるからです。人のプライバシーに関わる話なので具体的には説明しませんが、自分の考え方を見直すきっかけになった出来事もオフラインであったとだけ言っておきます。それからツイッター上のトランス差別を目にするようになってからの出来事ですが、2つあるオールジェンダートイレでふわっとした男子列と女子列ができたということがあり、人はどうやって自分が使うべきトイレを判断するのかということについての具体例のような体験でした。(個人的な話ですがこちら
ツイッター上のトランス差別言説に気付いてからも数年前までトランスジェンダー=性同一性障害だと思っていたくらいの知識のなさなので何ができるかもわからず歯痒く、またこの年までトランスジェンダーの人が受ける差別のことを意識せずに生きてこられたんだなということに気付いてはショックを受けるという感じで、しかし後ろめたく思っているだけではしょうがないので勉強中というところです。どこかでまとまった文章で考えていることを書いておきたいと思っていましたが、もし自分と同じように感じている人がいれば手助けになれば幸いです。あとオフラインというかネットを離れた自分の生活の中でもできることをやっていきたいですね。
私はトランスジェンダー差別に反対します。