『にくをはぐ』当事者として読んでみた感想

トランスジェンダーを扱った作品ということで年末年始に話題になっていたので読んでみました。
性同一性障害(GID)、トランス男性(FtM)当事者として「にくをはぐ」の感想を書いてみようと思い立った次第です。

ぽてとふらいさんの感想記事は大変参考にさせていただきました。ジェンダー観についての考察等とても勉強になりました。

私は現在進行形でトランス(性別移行)中のFtMです。ただ、この物語の主人公の小川千秋のように小さい頃から「俺は男だ」という確固たる自覚はありませんでした。性自認も女ではないという確信はありますが、男だという確信が無く、長い間Xジェンダー自認でした。ホルモン注射と乳房切除(通称胸オペ)はしましたが、現時点ではSRS(性別適合手術)はしていません。
千秋のようなトランスジェンダーの中核群ではありませんが、共感する部分も非常に多かったです。当事者の立場から、作品への感想や経験談、個人的意見など交えながらつらつらと書いてみました。大変長くなってしまいましたが……。

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とにかく、インパクト勝負で来てるなってのが最初の感想でした。
広告ページのデザインもこんな感じ。
「狩猟×動画配信×LGBT」なんか……これだけ見るとどういうこと?って感じですね。
この漫画の小川千秋はトランスジェンダー(T)なんだからLGBTはおかしいというツッコミも聞こえてきそうですが、最近は「LGBT」という単語がセクシャルマイノリティを指す記号になっているのだと思います。

広告のイラストは1ページ目のものですね。
冒頭から宙吊りにされた猪と「捌く」という台詞と巨乳女子(に見える)と「小川千秋は男だ」というナレーションが、非日常でちぐはぐでインパクト大です。
初見時は非常に漫画的な巨乳の描き方に、こんな胸目立つようなぴちぴちの服着るFtMいるかよwと思ったんですが、その理由は後でちゃんと回収されていました。

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2P目にタイトルと扉絵。
これまた衝撃的なイラスト。男2人の間に宙吊りにされた女。一瞬「嬲る」という漢字が浮かびましたね。これだけみると何かバイオレンス的な漫画かと思うかもw これもインパクト狙いでしょうか、途中の回想でこの扉絵のイメージを回収するシーンはでてきますね。
タイトルは平仮名で「にくをはぐ」
どちらかというと肉は「そぐ」で、皮が「はぐ」じゃないかなと思ったんですが、ここでいう「にく」は「胸」という意味も含んでいるでしょうね。はぐ、の方が胸をはぎとるというイメージがしやすいからでしょうか。普段使わない言葉の組み合わせで興味を惹く効果もあるとか?

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千秋は左利きなんですね。26歳。
メンタルクリニックのシーン。おじいちゃん先生のキャラがいい味だしてます。父親の前では私だったのが、俺。使い分けてますね。
ホル注をホルモン注射とわざわざ言い換えてくれたり個人差あるとか、生理が止まるとか、漫画的には説明くさい台詞かもしれませんがこの辺はとてもリアルです。

ちなみに私はホル注3年経ちましたが、髭は……まだ10本ぐらいでしょうか(笑) 早い人は1年もしないうちに立派な無精髭生やしてる人もいるので、本当に個人差大きいです。
生理は早かったら1ヶ月ぐらいで止まります。生理周期に伴うメンタルや体調の変動がなくなったのも嬉しい。でもホルモン注射やめるとすぐに復活するので卵巣の生命力?やばいです。
回想シーンで初潮が来た時に吐いている描写もあったので、千秋は生理が重い方だったのかもしれませんね。

右下のコマでお尻を写すアングル上手いなと思いました。
FtMにとってお尻の大きさはコンプレックスのひとつです。ホルモン注射で多少筋肉質にはなりますが、もともと付いている下半身の脂肪はなかなか減りません。
変声も個人差はありますが、ホルモンすれば確実に変わっていきます。声帯が太くなって男声の周波数が混ざるようになるというか、女性の低い声とは明らかに違います。
性別の認識において声の印象はかなり大きいので、外見の変化に自信がない時でも声を聴いて男と認識してもらえます。ただ、もともと女だと知っている人は声の変化にまったく気づいていないんですよね(笑)
千秋も父親に気づかれてないと言ってますが、FtMはノンホル時代からボーイッシュキャラであることが多く、周りの人たちも男性ホルモン打ってるなんて普通考えつかないことなので、カミングアウトしない限り誰も気づかないような気もします。ホルモン歴10年経つとどうなるかわからないけど。

YouTuber活動に関してはおじいちゃん先生がちゃんと説明してくれてました。一般的にGIDはネットに身体を晒せない。
性別違和を抱える人間は他人から身体の性別に見られるのが一番嫌なことです。FtMの場合は女とみられること。自ら胸を強調するような服を着て動画配信なんてあり得ないわけですが……。まぁ26ですしお金は稼がないといけないけど……。先生の口調では最初は抵抗あったような感じですね。
ここで千秋の言う「しょうもない理由」ってのは結局なんなんでしょう?
父親の前で、ちゃんと女してるアピールなんでしょうか?それとも単純にYouTuberになりたかった?

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SRS(性別適合手術)という言葉を漫画で見る日が来たことにちょっと感動しました。タイとか英文の診断書とかこの辺もリアル。
偽装結婚します。の次のコマでウェディングドレス着ててびっくりしました。早っ!?
お母さんでしたか。似てる!千秋が小さいときに亡くなったんだね……。

「保守的なジェンダー観」と評される両親や千秋の価値観に関してですが……私はこれが今の現実だと思います。日常生活で関わる多くの人々は平成を経て令和になった今でもこういった価値観を当たり前のように持っています。
いやまぁ、さすがに嫁入りという言葉は使わないかな……。
「嫁に出す、嫁に行く」というと古臭く聞こえますが……いまだに結婚して家庭を持って一人前という空気は男女問わずあるように思います。
女の子なのに傷を……のくだりとかあるあるですし、私は一人っ子なので、結婚して子供いっぱい産むんやぞ、とか……何度も親に言われたことありますね。
別に強要するとかではないですけど、親としては、いつか娘が結婚して孫を産んで、自分たちがおじいちゃんおばあちゃんになるのを夢見ているというか……、単純に楽しみにしている部分もあったと思います。あと、この先いずれ親にも寿命がきたときに、家庭を持たずに一人でいる子供を心配しているとかもあるのかなと。

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小学生千秋かわいいですよね。すごくいい顔だ。お父さん大好きなんだなぁ。頑固親父っぽいけど、いいお父さんですよね。早くに亡くなった妻のためにも、一人娘の千秋をしっかり育て上げねばという意思と深い愛情を感じる。
小学生のころから千秋はすでに「私は女じゃない」という確信を持ってたんですね。小さい頃「いつかチンコが生えてくる」と思ってたという話はFtMあるあるで上位にくるエピソードです。

千秋が「性同一性障害」を知ったのは小6。11~12歳。
物語の舞台が2019年だとすると、14,5年前は法律で戸籍変更が可能になった『性同一性障害特例法』が施行された2004年前後になります。テレビで特集が組まれたのを偶然見たのかもしれませんね。千秋の年齢設定も考えられてるんだなと思いました。

回想シーン。掃除押し付けられた高藤も一緒に殴られてるのが面白いですね(笑)
この、女子だから殴るのやめるとか手加減するってあるあるです。スポーツとかでもね。特に千秋は小6の時から胸も結構目立ってたような感じですね。男子も女子を異性として意識しだす頃でしょうか。
結構こたえるんですよねーこういう態度取られると。私は女性からより、男性から女性認識されるのが一番嫌でした。異性として見られているってことですからね……。女とか女性とか呼ばれるのもすごい嫌です。本当に気持ちが悪い。カムアウトしてない人には反論もできないのでスルーするしかないですが…。
父親からの「女に狩猟は無理だ」の言葉は本当につらいですね……。女じゃないのに。父さんみたいに狩猟がしたいのに。言えないけどね……。

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猪とのバトルシーン。
手に汗握る!猪こっわw
散弾銃の弾がスローモーションに見えるような演出いいですね。
猪には命中したのに、二つこぼれて後ろの千秋に迫る!
父親は肝が冷えたでしょうね!そりゃ怒るよなw
女の子の身体に傷を……とまた父親は言いますね。亡き妻凪子の遺言もあり、立派に育てて嫁に行かせるまでが自分の使命だと思っている感じですよね。嫁入り前の娘の身体に傷一つつけてはいけないのに。

女の子に傷をつけてはいけないっていつ頃から言われていたんでしょうね?いまでもたまに聞きますよ。日本人の中に根付いている感覚のような気も。男の子なら多少雑に扱ってもいいだろっていう雰囲気、今でも職場とかに流れている気がします。

千秋が父親の前で「女」を演じるようになったのはこれがきっかけだったんですね。父親を悲しませたくないという一心で……。それでもつらかったと思います。スカートも嫌そうだけど、父親が生きている間だけと言い聞かせている。
最初は高藤の片思いみたいな感じですね(笑) ちゃんと本で調べようとするの偉いね!

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回想シーンの最後に衝撃的なシーンが!!
動物を捌く台の上に全裸の千秋が横たわって、父親によって千秋の胸が切り取られ、子宮が取り出される。千秋は父親に感謝する……。
結局は千秋の夢なのですが……、これはどうとらえるべきか……。私的には、親にこそ自分の身体なんて見せたくないんですが。
まぁ…父親が狩猟を生業としていて動物を捌く技術を持っているから、自分を動物に例えて、こういう表現にしたとか…、または、自分を女と思っている父親自身の手で乳房と子宮(+卵巣)という女性性の象徴を切り取ることで、男性性を与えてもらうという比喩表現なのでしょうか。
千秋は「俺には父親が全てです」と言っていたので、家族と呼べるのは父だけで、本当にお父さんのことが大好きという前提があるからこそ成り立つ描写のように思います。

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回想シーンが終わり、寝起きのシーン。
背景の描き方も含めて胸の物理的な重みと精神的重みが表現されています。
普段父親の前では胸が目立つ服を着ているのに、寝起きでぼーっとしていたからなのか父親が階段を上ってくる音を聞いて胸を隠すところがリアルです。本当は嫌なんだよな。
千秋をあえて巨乳に描いたのは、視覚的に大きさを伝えて、千秋の胸に対する嫌悪感を表現したのかなとも思いました。

非常に共感します。
胸は、本当に嫌でした。
この胸が嫌という感覚はなかなか伝わりにくいです。男性には最低限の脂肪以外胸の膨らみはありませんし、多くの女性は胸がアイデンティティのひとつになっています。

小さい頃から大きくなってくる胸が恥ずかしくて、ずっと隠しながら生活してきたので、猫背で姿勢が悪くなってしまいました。
私は自覚も遅かったし身近に似た境遇の人もいなかったので、FtMが胸を切除する手術(胸オペ)を、日本で現実にできると知らなくて、どこか遠い世界のことだと思っていました。
胸は気持ち悪いけどどうしようもないから見て見ぬふりして付き合っていくしかなかった。でも近場で胸を取る手術ができると知ってびっくりしましたね。逆にそれを知ってしまってからの体感時間が長かった。早くとってしまいたくて。お金溜まるまでものすごく待ち遠しかったです。
胸を張ることができたのは胸を手術でとってからでした。本当に嬉しかったです。ナベシャツという圧迫して胸をつぶすシャツもありますが、締め付けるので夏場とか暑くてしんどいです。千秋みたいに胸が大きい人はつぶれきらないし……。胸オペは本当に救いでした。

胸に包丁を当てる描写。
王道的描写と言ってしまえばそれまでですが……、自分の身体への違和感から喉や性器を傷つける話は実際にあると聞いたことがあります。ファンタジー表現では決してないと思います。

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「お前のために言ってる」
親からするとそれが全てだと思います。それが親の愛情なんだと思います。
千秋は腕を怪我したあの日から、父親の前では女として振舞っています。私は男だという主張もあの日以来口にしておらず、親からしてみれば昔も今もかわいい娘なんですよね。
千秋は千秋で辛い気持ちを抱えながらも、父親のために頑張って女を演じている。二人ともお互いのことを思っているのにすれ違ってしまう、切ないですね……。
客観的にはコミュニケーション不足……かもしれませんが、親だからこそ言えないことって、あるよなぁと思います。友人へのカムアウトより、親の方がよっぽど緊張しましたし(笑)

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高藤の台詞で、ああ、この漫画はここまで書くんだなと、本気でこのテーマに取り組んでいるんだなというのがわかりました。
一本のあぜ道、その向こうの暗闇と煙が暗示的ですね……。
「性同一性障害」この言葉自体はもう知らない人がいないぐらいに有名になっていますよね。私も自分でその自覚がない時から単語自体は知っていました。
「手術したら終わりじゃないんだ性同一性障害は!」
今、このセリフが漫画の中に出てきたことはとても重要だと思います。
2004年、特例法が施行され、条件を満たせば戸籍の性別変更ができるようになりました。
元々、すでにSRSを行っている人のために作られた法律が、いつの間にか「SRSをすれば戸籍の性別を変えられる」と受け止められ、SRSと戸籍変更が性別移行のゴールのようになっている部分が少なからずあります。

トランスは、一生ものです。
SRSを終えて条件さえ満たせば戸籍の性別を変更することができます。ホルモン注射で外見もある程度変わっていれば、望む性別で社会に出て働くこともできます。
でも、生物学的に男(女)にはなれません。
性同一性障害は障害ではないという意見を聞いたことがあります。でもシスジェンダーが多くを占めるこの世界では、ひとつの「障害」だと思います。
障害をもっているから、諦めなければならないこともあります。それを受け入れたうえで何ができるか、どうやって生きていくかを考えないといけないなと最近よく思います。

高藤の台詞には、親と喧嘩して勢いでSRSして男になってハッピー!みたいな読まれ方に待ったをかける効果もあると思います。高藤は中学の時に振られて?から、もう10年以上千秋と一緒にいるわけですよね。
高藤は、自己主張したり相手に強い言葉を使うような性格ではなさそうです。それでも千秋のことが好き(人間的にも)で、心から心配しているからあの言葉を言えたのだと思います。調べたのか、と千秋も苦笑していますが、どうでもいい相手のことなら本読んだりして調べたりしないし。
「男として死にたい」
この言葉で高藤は千秋の決意の固さを知ります。
……どこまですれば男として死ねるか。これはなかなか難しい問題です。また考えがまとまったら後日書こうかなと思っています。

東京に行ってタイでSRSする準備をするという千秋。
YouTuberという自由度の高い仕事ならではですね。このへんはうらやましいー。
1カ月後には父親への書き置きと意味深に置かれた本。
親へのカムアウト……難しいよね。面と向かって話すと喧嘩になったりするので、お互い頭を冷やすという意味でもとりあえずこれ読んで!ってのは有効かもしれませんね。

タイでのSRSで2週間というのもリアル。Twitter見ててもそれぐらいっぽい。空港へのアッシーもしてくれる高藤いいやつ!
再び回想シーン。ネットでは高藤すごい、かっこいいって声が溢れてました。なかなかこんなことできないよね。かっけぇぞ。後ろから抱きついたときはびっくりしたけどなw
作者の遠田先生もこんな感じのツイートされてましたね。

生理問題……嫌ですよねー女の象徴みたいな現象ですからね。
私は結構早くて小5ぐらいだったかな、そのせいで身長伸びなかったといまだに恨んでますよ!
初めて来たとき、祖母がお赤飯炊いてくれたんですよね。こっちとしては何がめでたいのか意味不明でイライラしてこっそり壁殴ったりしてましたね(笑)

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高藤は自己肯定感が低いキャラなのでしょうかね。どう思われてもいい、なんてさ。イジメにあっていたような描写もありました。千秋の言葉で高藤も少し自信を持てたのならよかったなぁと思います。
胸オペ後のバストバンドもきっちり描いてありますね。

高藤というキャラクターの立ち位置に共感した方の感想記事もありました。
ましろさんのように、高藤も最初は好きになった女の子から自分は男だといわれて戸惑いもあったかもしれませんね。でも、十数年一緒にいる。
男や女以前に、まずはその人自身を受け入れてそばにいてくれる存在がいるというのはとても大切なことなんだなと思いました。

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千秋父親と久々の再会。
いや……めっちゃこわいですよね。結果よかったんですけども。この父親のキャラ的に頭固そうだし受け入れてもらえるかどうか……めっちゃ怖くないですかw
千秋が渡した本以外に他にも読んでくれてるとことか……ちょっと感動しました。もうここからはハッピーエンドに向けての感動描写ですから……泣かせにきてますな。銃もらったときとか、めちゃくちゃ嬉しかっただろー千秋。よかったなぁ……!
感動シーンの後の、ちょっとゆるいシーンもリアルな親子って感じでいいね。

2年後!
クソコメも健在w 千秋は髪も短くなって髭も増えてちょっと肩回りががっしりしてますね。
余命1年と言われていた父親も、どうやら千秋のお願いを受け入れて抗がん剤治療してくれたみたいですね。痛いの嫌とか言ってたけど、千秋のためにできることはして長生きしてほしいなーと第三者的には思います。自分で食べて動けるうちは延命とは言わないからね。

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「彼女募集中」
なにやら賛否あるらしい台詞ですが……冒頭の「捌く」と比べて表情が生き生きしていい感じだなーと私は思います。狩猟は小さい頃からやりたかったことだもんな!

……はい。
とりあえず順を追って感想書いてみました。
全85ページもあるんですね、大ボリューム。これが無料で読めるってすごい。
私はTwitterで知りました。年始ぐらいに感想ブログやツイートが増えてきてどんどん話題になってて。
FtMが主役って地雷かー?と最初はちょっと警戒してましたが、ネタでトランスジェンダーを扱うような漫画じゃなかった。FtMのリアルを真正面から描こうとしている物語でした。
性同一性障害……センシティブで難しいテーマだと思います。それでもこうして描いてくれた遠田先生に感謝したいです。しかもこれだけのボリュームの漫画を無料で読めるなんて……申し訳ないぐらいですね。絵もうまい。特におじさんをうまく描くのって結構難しいらしいので。
自伝以外で漫画という形でトランスジェンダーのリアル像を物語として読めることは嬉しいし、時代の流れもあるのかなと思いました。
ぽてとふらいさんも書いておられましたが、もっとこういう物語を読みたいですね。どんな作品にも否定的意見や批判はあると思います。でもこういった作品はどこかで誰かの救いになるかもしれない。
漫画というのはビジュアル的に人の目につきやすいコンテンツです。同性愛をテーマにした作品はたくさんあります。トランスジェンダーが出てくる物語をこれからもっと読んでみたいと思います。

この作品の編集さんのツイートにもあるように、たくさんの人に読んで欲しいという制作サイドの考えから無料公開という形になっているのだと思います。ありがたいことです。「理解するのは難しいけど、想像して想い合うことはできる」本当にその通りだと思います。

「性同一性障害」という言葉は有名になりましたが、心の性(性自認)と身体の性別が違うと感じる違和感をシスジェンダーの人々が理解するのは難しいと思います。そもそもシスジェンダーは体と心が一致しているのは当たり前で、性自認なんて意識したこともないわけですから。
それに個人的にはどうしても理解してほしいとは思いません。ちょっと知ってくれるだけでいいんです。じつはそんな人もいるんだよと。
ただトランスジェンダーに関しては認識が広まりすぎると埋没して生活しているトランスにとっては迷惑だという意見もあるので……難しいところではありますね。

数年前から世間では空前のLGBTブーム(笑)ですが、いまだにそんな人はテレビの中の人でしょ?ぐらいの認識の人も多いです。リアルではなかなか言い出せないから、みんながみんなシスジェンダーで異性愛者と思い込むのも仕方がないことではありますが。

長々と書いてしまいました。
感想を書くにあたって何度も読み返しているうちにキャラにどんどん感情移入してしまいました。
タイから帰ってきて親父とのシーン、ほんと感動ですね。
よかったよかった……。

以下は途中に書ききれなかったことを少しだけ。記事分けるほどでもなかったので……。

名前について。
千秋という名前は中性的で男女どちらでも使える名前ですね。この時点で千秋は名前問題はクリアしています。
トランスジェンダーにとって元の名前も非常に大きな問題です。例えば○子や明らかな男性名など、ホルモン治療で外見が変わっていった場合、名前と見た目が一致せずめんどくさいことになるのはあるあるです。本人じゃないと思われたり、逆にせっかくパス(望む性別で認識されること)していたのに、名前でバレたりすることがありますね。
家庭裁判所に申し立てることで、戸籍名の変更もできますが、地域によって裁判官の当たり外れが大きいらしく一度の申し立てで変更できなかった話も聞いたことがあります。名前の変更には「正当な事由」が必要とのことですが、非常に曖昧です。この辺りは司法制度のシステムに疑問を覚えます。
名前変更に限らず裁判官1人の裁量に丸投げされていて理不尽な判決をうけることって結構あるのではないでしょうか。裁判官自身の差別意識とか、絶対あると思うんですよね。
私は中性名だったので、フリガナだけ変更しました。フリガナは実は戸籍には載っていないので、住民票のある役所で簡単にできます。不思議ですね。

性同一性障害と自殺について。
高藤の台詞でありました。性転換後に自殺する人が多い。
正確なデータはわかりませんが……実際に多いのだと思います。
でも性同一性障害だから自殺するのではありません。それもひとつのきっかけになって、うつになって、うつが人を殺してしまうのだと私は思います。
死にたいと思うのは本人自身ではなく、うつになった脳の方です。
うつは治療ができます。しんどい時は薬に頼ってくださいね……。
私は仕事のストレスで軽いうつになったことがありますが、抗不安薬が神に思えましたね。しっかり睡眠をとって、仕事にも慣れたころに回復しました。
うつの強度にも個人差はあると思いますが……、性別違和を持っていると生きづらいとは思います。でも生きている以上美味しいものを食べて楽しいことをして生きたいですよね。

あと、睡眠不足は簡単に思考がネガティブになります。
これは最近の個人的な体験からなんですが、身体に病気はないのにずっと慢性疲労が抜けなくて、寝てるのに寝不足の自覚がある人は一度デパスとか眠剤に頼ってみてください。
単純に目を閉じて寝ているつもりでもずっと浅い眠りが続いていたりして、質の良い睡眠を取れていなかったようです。眠剤でめっちゃ楽になりました。
運動不足もよくないですね。思考が鈍っていくし自律神経も失調ぎみになったりする。規則正しい生活を、と言うのは簡単ですが自分に甘い性格からなかなか実行できなかったり。
2020年は生活習慣を改めて、やることやって筋トレもしたいと思います(笑)


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