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列車でアメリカ横断してきた話

※2019年7月に書いた記事です。




『大陸横断鉄道』という言葉の響きに猛烈に憧れて、電車でアメリカ大陸を横断することにした。

乗ったのはアムトラックのカリフォルニアゼファー号で、シカゴ→サンフランシスコ間を52時間かけて走る。
カルフォルニア・ゼファー
東海岸からシカゴまでも電車を使わなければ完全な横断とは言えないのだが、私の興味は寝台車に乗ることで何時間も普通席でニューヨークからシカゴまで電車に乗るのはダルいと思ったのでシカゴまでは飛行機を使うことにした。またサンフランシスコから帰ってくるのにさらに50時間以上かけて戻ってくる気力と時間もなかったので帰路も飛行機を使った。

カリフォルニアゼファー号のチケットはアムトラックのサイトから予約できる。価格は出発する日付によって違い、また予約するタイミングによっても変わる。私が予約した数ヶ月後に価格が変わっていないか気になってチェックしたところ、100ドルちょっと安くなっていてショックだった。キャンセルして取り直した場合、差額よりもキャンセル料の方が高くなる計算だったので諦めた。
ちなみにシカゴ→サンフランシスコと書いたが厳密にはシカゴ→エメリービルで終点だ。エメリービルからサンフランシスコまではアムトラックがバスを用意してくれているが、乗りたい場合は予約をしなければいけない。私はてっきりエメリービルまで予約すれば自動的に乗れるものだと勘違いしてたが、予約するときにシカゴ→サンフランシスコで予約しなければいけない。仕方がないので当日乗車する前にアムトラック窓口でサンフランシスコまでバスに乗りたいと言って5ドル追加して予約をシカゴ→サンフランシスコに変更してもらった。お金を払えば窓口で変更できることは誰かのブログで読んで知ったので、旅行ブログを書いている人たちに感謝だ。

寝台車を予約している人はファーストクラス扱いで駅のラウンジを使用できる。出発まで荷物の一時預かりもしてくれるので、大きい荷物を預けて周辺を観光することもできる。私は出発の1時間前まで出歩いていたのでせっかくのラウンジをあまり満喫できず少し残念だった。ラウンジでは無料で飲み物や軽食が用意されていてホテルのロビーのような雰囲気だった。

私が予約したのはスーパーライナールーメットで、一人だったのでかなり広々と使えた。シャワー・トイレ付き個室とも迷ったのだが値段がとても高くなるし共用のトイレとシャワーで十分だろうという判断でルーメットにしたのだがこれで全く問題なかった。寝台車の車両にはトイレが4つ(かな?)とシャワールームが1つあり、少なくともトイレが混んでいて入れないということは1度もなかったしおおむねきれいに保たれていた。

夕食はコース料理でまずパンが出てきて、メインディッシュとデザートは好きなものが選べる。寝台車の乗客は食事代も料金に含まれているのでアルコールを頼まなければ基本的にタダだ。ステーキが名物らしいので頼んだところ、確かに美味しかった。1日目の夕食はイタリア系アメリカ在住のご夫婦とブラジル出身韓国系の女の子と相席だった。ご夫婦の方の奥さんがめちゃくちゃおしゃべりなのでたぶんアメリカに来てから一番長く雑談で英語をしゃべった気がする。みんなマルチリンガルだったので、1テーブルで英語イタリア語フランス語ポルトガル語スペイン語アラビア語韓国語日本語中国語と9言語揃ったねみたいな話をする。2時間くらい喋ってて私は8割相槌だったけど最後の話題がモルモットの話だったのでそこだけはついていけた。ブラジル出身の女の子はポルトガル語が第一言語で英語とスペイン語と韓国語も話せる…という感じらしいんだけど、見た目が完全にKoreanだからかポルトガル語やスペイン語がわかると思われてなくてよく驚かれるっていう話をしてて、外見で使用言語の先入観持たれるのあるあるなんだなと思った。

1日目はとくに風景で印象に残っていることはなし。21時を過ぎると車掌さんが回ってきて座席の椅子をベッドに組み立ててくれる。私は身長が高くないのでベッドの広さも十分だった。ブランケットも用意されているがやや寒かったのでエアコンを暖房にしてヒートテックを着て寝る。フリースを持ってきてもよかったかもしれない。シャワールームは何時ごろが空いてるんだろうとタイミングを伺っているうちに寝てしまい、結局翌朝シャワーを浴びることになった。シャワーはお湯ボタンを押して思い切ってハンドルを回さないとお湯が出なくて少し焦ったのと、ドライヤーがないので髪を乾かせなかったのが少し困った。シャンプーは袋の口が全然破れなくて諦めたので自分のシャンプーセットを持ちこんで正解だった。アメニティの石鹸は十分な数用意されていたが勿体ないので誰が使ったかわからないけど誰かの使いさしを使いながら自分はこういうのは全然気にならないんだよななどと考えていた。まだ早朝だったのでシャワーを浴びたあともうしばらく寝る。

2日目。夕食は時間帯ごとに予約制だが朝食は一般車両のお客さんも含めて来た人からテーブルに着く。テーブルがあいてない場合は名簿に名前を書いてアナウンスで呼び出してもらう仕組みだ。朝食のメニューはオムレツやコンチネンタルブレックファーストがあるがパンケーキを食べる気満々だったのでパンケーキ一択だった。相席した女性は小さいお子さんをふたり連れていてめちゃくちゃ大変そうだった。全く迷惑ではないんだけどジュースを頻繁にこぼしそうになるのでハラハラしながら手を出してカップを支えたりしてしまうので迷惑そうに思われたら申し訳ないな…と思ったけどあんまり気の利いたことも言えず難しかった。もう一人相席の男性がいてその人とお母さんはぽつぽつしゃべっていたが私はうまく聞き取れず単に頷いたりニコニコしたり(してるつもり)で乗り切ったがこういう場合は席を立つ時にちゃんと挨拶できればOKだと割り切る。

農業地帯を抜けてコロラド州へ。デンバーは都市だな~と思ったがその後のコロラドの山々の圧倒的な美しさに目が離せなくなる。行けども行けども絶景で凄まじい。去年の秋に行ったセドナ~グランドキャニオンの風景に似ており、でもアリゾナではないよな?と思っていたらコロラド川が浸食してグランドキャニオンができたとのこと。山々も美しいし、特に私は川のある風景が大好きなのでコロラド川沿いに進んで行く車窓からの風景は何時間眺めていても誇張でなく飽きなかった。電車が進むので動画を撮るのも楽しい。撮った動画を満足しながら見返しつつどんどん新しく美しい景色が目の前にあらわれるという夢のような時間だった。朝ご飯にパンケーキ3枚も食べたのでお昼にお腹がすいていなかったので、この日はひたすら夕食まで個室にこもって車窓の風景を眺めていた。時々飽きるとKindleで読書をしたりウトウトしたり、目を覚ますと相変わらず絶景が続く……というとても贅沢な一日だった。

この日の夕食は一般車両で意気投合したらしい若者(+おばさま一人)の7人組と相席と賑やかだった。実は前日同じテーブルで夕食を食べた女の子もいたのだが、席が離れていたので気付いていなかったっぽくやや寂しかった。(しかし私にもわざわざ大声で呼びかける勇気はないのであった。)向かいの席の青年はNYに住んでいたので今度秋に母親が来るからNYに遊びに行くよという話や、隣の席の青年はインド出身でマイナーな宗教なので菜食主義なんだ(選択肢はほとんどないがベジタリアンメニューは用意されている)みたいな話をした気がする。

2日目の夜は客室係さんが捕まらず座席をベッドにできなくて、微妙なリクライニングのまま朝まで寝るはめになるかと思ったが深夜1時くらいに電車がソルトレイクシティに停まったタイミングで声をかけることができて無事ベッドで寝ることができた。客室係さに用事があるときは呼び出しボタンを押すか寝台車の1室にいるので声をかけるかすれば良いのだが、ボタンを押しても部屋をノックしても不在なのか反応がなく不安な数時間だった。しかし電車が3時間遅れなせいで深夜1時にソルトレイクシティで降りるはめになった人たちはこのあとどうするのだろう?

3日目も早朝にシャワーを浴びてしばらく寝たあと食堂車で朝ご飯を食べる。この日もパンケーキ。3日目にもなると相席の人と会話するのがダルく、席につくときに「Hi」と言ったときあとはスマホを触りながら朝ご飯を黙々と食べる。なんとなく夕食の時は隣の人とにこやかに会話をしようという雰囲気があるのだが、朝食はわりと各々好きに食べて帰るという雰囲気だったのでそんなに失礼ではないと思う…思いたい……。

ネバダ州はとにかく砂漠地帯が続き、前日の絶景と比べると私はかなり退屈だったのでずっと本を読んでいた。書き忘れていたがゼファー号にはwi-fiがなく、都市部を離れると携帯電話の電波もなくなるのでインターネットから断絶されるので本を読むか音楽を聞くか風景を眺めるか居眠りをするくらいしかできない。駅に近づくと電波が戻るのでここぞとばかりにツイッターをしていた。春からビーチボーイズにハマっているため、ビーチボーイズの曲を聞きながらカリフォルニアに入るんだ!と意気込んでいたが、終点が近づくにつれ到着時間等のアナウンスをきちんと聞かなければいけなくなったのでビーチボーイズのサウンドと共にサンフランシスコの海が見えてくる……というシチュエーションは作ることができなかった。

結局数時間遅れたものの18時にはエメリービルに到着。夏で十分明るいのでバスでサンフランシスコ市内に行ってホテルまで歩くのもとくに不安はなかった。

サンフランシスコに着いた翌日は日帰りツアーでヨセミテ国立公園に行ってきた。こちらも念願のヨセミテで壮大な風景は素晴らしかったのだが前々日に延々と何時間もコロラド川沿いの山々の絶景を見続けて絶景摂取がインフレを起こし、普通に飛行機でサンフランシスコに来ていたらヨセミテの風景に今の3倍くらい感動したかもしれないな…という気持ちが拭えなかった。
このように大陸横断鉄道は期待していたより何倍もよくて、インターネットから断絶された個室空間で本を読んだり居眠りしたりしながら絶景をひたすら眺める一日というのは本当に贅沢な時間の使い方だったなと思う。