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昭和の酔っ払い モンキーじいさん

秋以外の季節にも美しく鮮やかな葉をつけるイロハモミジ。実は『万葉集』の中には138首もモミジを題材にした歌があり、古くから愛され続けています。

コロナでバスツアーの再開が見通せない昨今
懐かしい思い出が、夢に出てくることがたびたびおこるようになった。
「あの頃は楽しかった….」 と思える出来事は
人それぞれ多々あるはず、10年ひと昔とはよく言ったものだけど、あれから30年いや40年に近いことに驚いてしまう。

私は子供の頃から体があまり丈夫ではなかった
生まれた時は未熟児、心臓に持病があった
小学校低学年でも病気がち
たびたび学校を休み入院も何度かした。
両親は勉強が分からなくなってしまった私を
心配し、家庭教師をつけ
塾に通わせたりしたけれど
成果は上がらなかった。

私は学業は諦め、授業についていけないまま大人になった。
教師と友人には大いに恵まれたお陰で、どうにか高校に進学、卒業することもできた。
しかし高校の担任は、やりたい事、なりたい職業も思いつかない私の進路に頭を悩ませる。
私は結局、先生が勧めてくれた観光バスガイドになった。


お客様が送って下さったスナップ写真より

昭和の酔っ払い
旅にはお酒がつきもので、色々なタイプの酔っ払いを見てきた。
母と一緒にスナック通いをしていた私は、酔っ払いにはすでに免疫があったのか? 絡まれたり、触られたり、脅かされたりしても動じなかった。
昭和には昭和の酔っ払いがいて、平成になっても昭和の酔っ払いは人気者だった。昭和の酔っ払いは、時代の流れとともに、バス車内での存在感が小さくなり続け、令和になった今 ほとんど消滅してしまったかのようだ。

モンキーじいさん
そのお爺さんは敬老会の旅行で、バスの後部座席一番後ろの真中に座っていた。爺さんの両隣には別のお爺さんが座っていて、朝からすでに出来上がっている(酔っぱらっている)。
なぜ出来上がっている事が分かるのかと言えば
旅行当日、バスに乗り込む時から握手を求めてくるからだ。

「ガイドさん今日も、宜しくお願いします」

初めてお会いするのに
「今日は」ではなく「今日も」で酔っ払い加減が分かる。
朝から目が据わっているけれど、例えようもない笑顔には、これから始まる旅への期待があふれていた。

昼食をレストハウスで済ませ敬老会は再びバスに乗り込んだ、爺さんたちはレストハウスでも飲み続け、さすがに午後は眠るであろうと思っていたが
バスの一番後ろの座席から地声が私を呼ぶ!!

「ガイドさ~ん!!」

他のお年寄りは眠っている、退屈になったのか私を呼び続けている。

お爺さんは私に何が言いたかったのか。
口から出た言葉が何と!

「ガイドさ~ん!! 俺が死んだら、坊さん3人だ!!」

据わっていたお爺さんの目がパッと見開き、その目が皿のように丸く大きく、私は驚いた。
お爺さんは「ガイドさん~俺が死んだら、坊さん3人だぞ、凄いだろ! 坊さんが3人来るんだ、もう頼んである予約だ、真ん中でお経をあげる坊さんが一番偉くて、着物も派手だぞ! となりにいる坊さんは・・・」と話し続けている、そんなお爺さんの口元に、私は、違和感を感じた。

昔よく、観光地で売っていた

ガイド席から目を凝らして見てみると、爺さんの歯が上に行ったり下に行ったりエレベーターが上下するように動いている、その歯を定位置に戻すためか口を左右にキリリと開くと、昔よく観光地で売っていた、玩具のシンバル猿に目玉も入れ歯もそっくりだ。

私はお爺さんに「お客様、気のせいかも知れませんが、お客様の歯が上と下に動いているように見えるのです、見間違いですか??」と聞いた。

すると、眠っていたかと思っていた敬老会の皆さんが一斉に目を覚まし、笑い出してこう言った。
「いつもああなんだ・・」「ガイドさん気にすんな、いつもああなんだ・・」気にするなと言われても気になった。

お爺さんは「入れ歯が合わね~んだ! 歯が合わね~から下がってくんだ、しゃーねーんだ~」(仕方がない)

お爺さんは、ここ最近、入れ歯が合わなっくなってきて旅行前に仕上がるよう新しい入れ歯を作ったが、残念なことに間に合わなかったのだと、歯を上下させながら、胸を張って答えてくれた。

シンバル猿

星影のワルツ
昔のおばあさんは、背が小さかった。
粗食だったからなのか?
おばあさん達は、私の胸のあたりまでの背丈で140cmくらいの
身長が可愛らしく「ヨイショ!」と小声で気合を入れながらバスに乗った。

そして昔の人はよく泣いていた。大笑いしながら涙を流し「あ~涙、出っちゃう」と、涙を拭きながら笑っていた。

旅の終わりにはお別れに、千昌夫の星影のワルツを全員で歌う。
8トラのカラオケからイントロが流れる・・・星が降ってきそうなチャラリチャラリと聞こえるイントロ・・・ワルツなのに哀愁を感じる。

別れることは辛いけど仕方がないんだ君のため~♪ ♪
別れに星影のワルツを歌お~♪」
ここまで歌うと皆泣いてしまう。
モンキー爺さんは客席のマイクを握りしめ、一番後ろの真中の座席。
私は運転手さんの隣のガイド席、離れてはいるが、デュエット状態で歌う。

周りのお年寄りも、旅行を振り返り、疲れもあるのか、目を閉じながら口ずさむ。

私も別れがたく涙が流れると、モンキー爺さんも泣きながら
声を張り上げ歌ってくれた

おそらく、もう二度と会えない一期一会、でも忘れられない。

ホテル入り口 カメラマン撮影 まさか!あの時の写真がこんな風に~

昔の人は涙もろかった

昔の人が涙もろかったのは、戦争を経験し涙を流す場面が多かったことの名残ではないかと、大人になって思うようになった。

コロナが収束したら旅の仕事に復帰したい。お客様に旅を楽しんでいただくことが、戦争で亡くなり、帰りたくても故郷に帰ることが叶わなかった沢山の御霊の供養になればとお祈りをする。

日本は大勢の御霊により、こんなに素晴らしい国になりました、とても良い旅ができましたとお伝えしたい。

モンキー爺さん率いる敬老会、あんなに楽しそうだったけれど、辛い時代を乗り越えて、やっと来られた夢のような時間だったのかも知れない。
あの頃(昭和後期~平成初期)のお客様は戦争経験者が普通にいらした。

昭和の酔っ払いは大変な経験と苦労をしてきたからこそ
底抜けに明るく、弾けていたのかもしれない。


令和となった現在、今でもどこかに昭和の酔っ払いがいたら、是非一緒に 飲んでみたい。



★空から見守って下さい モンキーじいさん★


最後までお読みいただき ありがとうございました。


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