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しばいぬとオレ ~ロッキー編~

その訃報を聞いたのは、インド、ムンバイの郊外にある表面処理メーカーの経営者と昼食するためにレストランに入ってすぐだった。

ロッキーが死んだ。

アメリカにいる長男からのLine電話だった。

「母さんが泣いてるから電話してあげて。」

インドに向けて出発する前日、嫁さんからロッキーのお墓を作って欲しいと頼まれた。そしてオレはシャベルを持って庭に出て墓穴を掘った。ロッキーはオレが出張から戻ってくるまでもたないかもしれない、それほどロッキーは衰弱していた。

この夏、人間で言うところの口腔癌(メラノーマ)と診断され、それ以来、日を追うごとにメラノーマが大きくなっていき、食べることが難しくなっていった。そしてこの2、3日は好物のお肉だろうが、菓子パンだろうが、全く受けつかなくなっていた。生き物は食事を取らなくなると急速に死期が近づく、それはロッキーにとっても例外ではなかった。平均体重が8〜12kgと言われている柴犬としては多い時には17kgほどあったのだが、かなり痩せ細ってしまった。

その日の夜、嫁さんと一緒にロッキーを散歩に連れて行った。歩くのもやっとの状態のロッキー。散歩コースは、我が家で言う”超ショートコース”を歩く。とぼとぼと歩くロッキーを見ながら、目いっぱいリードを引っ張りながらわしわし歩いてた頃を思い出す。やはり死期が迫っているのだ。

”超ショートコース”を終えて家の中に入ろうとすると、ロッキーが”イヤイヤ”をして入らない。

「散歩、短すぎるよ。ボクはまだ歩けるよ。」

そう言ってる気がした。じゃあ、もうちょっとだけ歩こう、と歩き始めたが、本当に少しだけ歩いて家の中に入ってしまった。

これがオレと嫁さんとロッキーの最後の散歩となった。

インドから戻って、玄関に安置されていたロッキーに会った。幼馴染の獣医が処置をしてくれたようで、段ボール箱の中で眠るロッキーの周りにはオレが帰ってくるまで待ってられるよう保冷剤が敷き詰められていた。

「ロッキー、ただいま。待っててくれてありがとね。」

そう言うと、涙が溢れてきた。

最期のお別れをして、ロッキーをお墓に埋めた。ロッキーの好きだった玩具、いつも大事そうに咥えていた肉の骨、寒くならないようにタオルケットを一緒に埋めた。これで寂しくないだろう。

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ロッキーは律儀で、我慢強い“しばいぬ”だった。病気知らずで体も大きく強かった。享年8歳。今も我が家の庭、リビングから見えるところに眠っている。


つづく




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