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やさしく寄り添う医書のあり方 『あめいろぐ女性医師』この本,間違いなく面白い

こんにちは。

いち編集部のリアルです。

9月新刊『あめいろぐ女性医師』,これまで2回にわたり,医師に向けられるバイアス,そして女性医師に向けられるバイアスについて紹介しました.


ようやくですが,『あめいろぐ女性医師』,本日発売です.

「この本,間違いなく面白い」

は,あめいろぐシリーズ監修者の反田篤志先生のお言葉です.このように正面切って監修者がコメントされるというのはあまりみられないかもしれません.でも,今回は社会学的な内容ですし,たぶん臨床とか,具体的な治療のアウトプットとかに関するお話ではなく,医学書に評価する際に必要なかたくるしいメジャーは抜きにして,本を読んでの率直な表白なのだ思います.

最終回は,本書に掲載された「監修者のことば」,そして4名の女性医師の「著者・まえがき」をそのまま紹介します.

〇シリーズ監修者 反田篤志医師
「この本,間違いなく面白い」,企画時点から確信していました.

私の知っている限りにおいて,アメリカ臨床留学をした医師の中で,女性医師は男性医師に比べて,アメリカに残り続ける率が高いです.それもそのはず,アメリカと日本では,女性医師としての「働きやすさ」が全く違うと思うのです.例えば,

・キャリアアップ機会の平等性
・出産や育児と仕事の両立のしやすさ
・給与や労働時間を含めた待遇
・キャリア形成の柔軟性

など,はっきりいって天と地との差ではないでしょうか.正直なところ,私が女性だとしたら,たぶんアメリカに残って仕事をしていたのではないかな…と.

臨床留学経験者が日本と海外の対比をもち出すことを「出羽守(でわのか)」などと揶揄されて久しいですが,むしろこの領域に関しては,

私は声を大にしていいたい,「アメリカでは!…」と.

本書で挙げられているような課題について,「日本とアメリカではそもそもの違いが…もごもご」なんていうのはほぼ全て,問題を直視しないための言い訳だと思っています.

日本社会の超優秀な女性たち,本書にもあるように「女の子がお医者さんになるのは大変だよ」などという言葉をかけられながらも,幼少時からさまざまな障壁を乗り越えて医師になった彼女ら.心の奥底では「日本の医療に貢献したい」「日本で活躍したい」と思っている方も多いでしょう.でも残念ながら,自分のやりたいことやキャリア,生活とのバランスを考えたとき,

日本に戻るという選択が取りづらくなっている.

それって,とっても「もったいない」と思いませんか?

本書を一気呵成に書いてくれた4 人の著者,腎臓内科,救急,循環器内科,腫瘍内科と専門性はそれぞれです.キャリアの作り方,家庭のもち方(4 人中2 人の夫が主夫!),現在の立ち位置などもさまざまですが,女性医師という観点からは一貫したテーマをもっているように思えます.詳しくはぜひ本書をご覧いただければと思いますが,私なりに表現すると,それは「しなやかさ」,さらには「かろやかさ」でしょうか.もちろん,日々の生活やキャリアの転換点の中で葛藤も数多くあったのだろうと思います.しかしながら,あまたの逆境を跳ね返し,自分らしく生きるその力強い姿が,文章の端々から伝わってくるように感じます.

アメリカで活躍する女性医師4 人の「生の声」をお聞きいただき,日々の生き方や考え方に対する気づき,さらには日本の医療の構造問題に対する示唆を得ていただければ幸いです.社会問題に切り込んだ渾身の作,シリーズ第5 弾『あめいろぐ女性医師』をぜひお楽しみください.

〇セントルイス大学腎臓内科 宮田加菜医師(Chapter1 ~ 3)
女性医師は,医師としてバリバリ働きながら,家に帰ったら家事と育児もこなす,「スーパーウーマン」でないと務まらないと思っていませんか? もしくは,家事・育児全てを祖父母に任せて仕事だけに没頭するか,一時的にでもキャリアを中断して「女性らしく」家のことに集中する,その2つしか選択肢がないと思っていませんか?

この本の著者4 人は,スーパーウーマンでもないし,この2 択から思い切って1 つだけを選んだわけでもない,普通の女性たちです.診療科も,住む地域も,パートナーや子どもの有無もさまざまな4 人.ただ共通しているのは,皆立派に医師として働き,その仕事にやりがい,生きがいを感じて楽しく生きていることです.人生の岐路に立った際に,女性としての悩みにぶつかるのは皆同じで,その時どきで進路を模索して,ここまで歩んできました.

今,やっと日本でも多様性の受容が求められる時代となってきました.女性医師の働き方やプライベートライフにもさまざまなスタイルがあってよいと思うのです.大事なことは,人の目を気にしたり環境に合わせたりして「自分にできることをやる」のではなく,「自分が本当にやりたいことをやる」こと.本書が,読者の皆さんがそれぞれのやり方で,やりたいと思えることを実現する手助けになればいいなと思っています.

最後に,本書の企画に声をかけてくださった反田先生,お世話になりました丸善出版企画編集部の程田さん,執筆の方向性に困ったときに男性医師からみた女医の存在などヒントとなる意見をくれた夫に,心より感謝いたします.

〇エモリー大学救急部 / メトロ・アトランタ救急搬送サービス 中嶋優子医師(Chapter4 ~ 6)
最近,医師の「働き方改革」が謳われていますが,日本でもアメリカでも女性医師の働き方が医師全体の働き方に多大な影響を与えることはいうまでもないと思います.医師の働き方如何で,キャリアもプライベートも充実し「ハッピー」でいられる,そして皆がそうだと互いに気持ちよく助け合いができ,医療提供の質も上がる,何でも好循環となることができます.

時代は目まぐるしく変化しており,女性の社会進出や活躍の場のグローバル化も進みつつあります.アメリカはもちろん文化や社会が全く違うので単純比較をするべきではないと思いますが,個人的には日本で8 年間,アメリカで約10 年間,臨床を経験してきて,日本でも取り入れられる考え方やアイディアが結構あるのではないかなと思っています.異なる考え方や価値観に触れることで社会の関心を高めることができれば,「良い変化への第一歩」に繋がると思います.この本が女性,男性を問わず,若手医師の皆様の今後のキャリアや家庭の考え方,意識の刺激になればうれしいです.また,少しでも時代に沿った日本の医師全体の就業環境改善の参考になればと思います

私はたまたま幸運が重なって,現在のポジションにいることができています.医師8 年目頃まではキャリアも人生も迷いが多く,「自由人」という名の迷い浪人でしたが,やっと落ち着いた今,こうやって皆様に自分の私見や経験談を共有させていただけるようになり,感謝の気持ちでいっぱいです.この場を借りて家族や友達,同僚,女性の社会活躍の道を切り開いてくれた先輩たち,執筆の機会を下さった反田先生と丸善出版の皆様に御礼を申し上げたいと思います.

〇マウントサイナイ・ベス・イスラエル病院循環器インターベンション 兼井由美子医師(Chapter7 ~ 10)
私は恵まれたことに,今まで女医だということをあまり意識することなく医師として働いてきましたが,それには周りの家族,同僚,そして友達に恵まれてきたことが大きな要素なのだと思っています.そんな私にも,自分のキャリアを循環器インターベンションというアメリカでは競争の厳しい専門に決めた過程には,2 人の女医さんとの出会いがありました.

1 人はスラリと背の高い心不全を専門とするドクターK,ショートカットの金髪でいつもパンツスーツ,ハキハキと議論をする姿はとてもかっこよかったものです.彼女は今,ニューヨークの大きな病院のChief Medical Officer(医師最高責任者)として活躍しています.もう1人は,今も先輩であり友達でもあるデイピカです.彼女はインド出身,小柄でいつも陽気にジョークをいって周りを笑わせていますが,臨床能力は抜群で,私がレジデントのときにインターベンションの指導医となり,CCU ではレジデントたちと教育回診を行い,妊娠中にもプロテクターを着て心臓カテーテルをしていました.女性ながら心カテを専門にし,家庭と両立して頑張っている姿には「女でもできるんだ」と大いに励まされ,彼女の存在なしでは,今の専門は選んでいなかったのではないかと思います.

先達はあらまほしきことなり.この本が,頑張る女医さんのキャリアパスを選ぶのに参考になることを願っています.今回の執筆は,今までなんとなく思っていたことを改めて考えるよい機会となりました.話を聞かせてもらったり,エピソードを使わせてもらった同僚たちに感謝するとともに,世界の女医さんたちのさらなるご活躍と幸せを祈っております.そして今回執筆の機会を下さった反田先生と,お世話になりました編集部の方々にお礼を申し上げたいと思います.

〇カルマノスがん研究所 / ウェイン州立大学血液腫瘍内科 長阪美沙子医師(Chapter11 ~ 14)
あるところに,あめいろぐ共和国がありました.そこでは医者が少なく,いつでも呼び出しに対応しなくてはなりません.女子高生のカーリーちゃん(仮)は医学部を目指そうか悩んでいました.なぜなら,天然パーマの受験生は入試で2 割減点されるからです.これは呼び出しがあったときにシャワーを浴びていた場合,パーマは乾きにくいことを保健省が問題視したからでした.カーリーちゃんは,ひどい天然パーマなのでした(注.フィクションです).

医者に求められることとは,何でしょう.手術の腕がよいことでしょうか.知識が豊富であることでしょうか.それとも.病める人たちの心に寄り添えることでしょうか.おそらくこれらの素質を異なる比重で掛け合わせたコンビネーションに,それぞれの状況における正解があるのでしょう.これらの素質に,性別は関係ありません.それに男女のくくりだけで議論する問題でもありません.LGBTQ の立派な先生方を何人も存じております.

「女医」という言葉を,例えば,天然パーマ医師に置き換えてみてください.天然パーマに生まれてくるかどうか,本人には選べません.医者の素質と関係あるとも思えません.確かに髪が乾くのに時間がかかるかもしれませんが,それなら天然パーマの受験生に足枷をするのではなく,そもそも毎日24 時間365 日の呼び出し体制を見直すべきでしょう.性別とはもって生まれた属性で,それを軸に職業の適性を論じることは,髪質や肌の色を使って論じるのと,本質的には変わらないことなんです.

本当に才能ある者を,その属性にかかわらず活かすことのできる環境にこそ成熟した社会があるのだと,信じております.皆さんも一緒に女医問題を考えてみませんか.

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ご清聴(読)ありがとうございました。

2020.9.30

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