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縁の下どころか、思うに、キーマン。2年ぶり『極論で語る麻酔科』の刊行を前に…。


こんにちは。

いち編集部のリアルです。

龍華先生…。

先生にお会いしたのは、確か2013年8月のこと、名古屋マリオットアソシアホテルのロビーラウンジ「シーナリー」だ。超のつく一流ホテルのラウンジ、暑い日で名古屋駅併設のホテルなのに、駅からわずかの距離を歩くだけで、早くもスーツの下は汗。そんな日だった。というより、龍華先生とお会いするのも初めてだし、米国から帰国中の、あの河合真先生ともお会いするのも初めて。とにかく初めて尽くしで、別の意味での「汗」だったのかもしれない。そのときのことを「極論で語る神経内科」のあとがきで、河合先生はこう述べられている。

「最初に名古屋駅のホテルのラウンジでカレーライスとケーキセット(これはかなりの美味でした)を食べながら「好き放題書いていいならいくらでも書ける」と思って打ち合わせをしていたときは、本当に考えも口の中も甘かったです。」

どうも「極論」の著者の先生方は、カレーがお好きなようだ(次回、森田先生のお話をご覧いただきたい)。話は少し脱線したが、龍華先生にお会いした印象は、いつでも「かわいらしい佇まい」だ。龍華先生のホームタウンは名古屋なので、お会いする時は打合せを兼ねた会食やお茶なのだが、結構、名古屋詣では行っている。岩田健太郎先生も名古屋にお見えになられたし、まだ世に送り出す前だが、画像診断を扱った「極論」の著者も一時帰国中に名古屋に立ち寄られた。そして場所は、名古屋マリオットアソシアホテル内のどこかのお店。なので、龍華先生といえば、「名古屋マリオットアソシアホテル」。名古屋マリオットアソシアホテルといえば、「龍華先生」なのだ。そしていつも先生は「かわいらしい佇まい」であり、もっといえば、

気配りと配慮と嗜みの華なのである。

その細やかなお気遣いが「極論」シリーズを支えてくれているといっても過言ではない。というのも、著者の原稿をまず最初に読むのは、龍華先生だし、イラスト・漫画のネーム案を著者とやりとりし、できあがったネームの微調整も著者とやりとりし、じつはその過程で著者がいわんとする原稿のプロットが整理されていく様を、編集部は何度も目撃している。だって、龍華先生はお医者さんだし、著者に内容面の確認を入れる際の指摘も半端ではない(正確という意味)。もちろんその後、香坂先生が校閲の段階で、原稿のプロットに次なる視点を加えられていくのだが…。著者、イラストレーター、監修者、(末席に編集部)、そのようにしてオーガナイズされた「極論」の確かさ、大胆不敵さというのは、ちょっとほかの臨床本ではあまりみられない。

さて、前置きがだいぶ長くなったが、今年の7月ようやく2年ぶりの「極論」と相成った。その名も極論で語る麻酔科』(森田泰央著、 香坂 俊監修、 龍華朱音イラスト)。

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そう、麻酔科なのだ。なぜ麻酔科なのか、それは次回(森田先生のお話)に譲るとして、今回はイラスト担当の龍華朱音先生に「極論」キャラ誕生の瞬間(!)やイラストの極意などを聞いてみることにした。

香坂先生との出会い

編集部 こんにちは。お久しぶりです。今回はNOTE記事に参加いただいて、とてもうれしく思います。先生のご性格からして、遠慮される(かも)と少し気をもみました。それと今回のオファーをしてからしばらくご返事がいただけず…、ダブルで気をもんでしまいました(笑)。
龍華 ご連絡、ありがとうございました! 本職が多忙で、まとまった時間がとれず、返信ができずにいて申し訳ありませんでした。でもそのあいだに「いち編集部のリアル」の記事を読んで、時にクスクス笑いながら、時に懐かしい思いにかられました。
編集部 え、読んでくださったのですか。恐縮です(汗)。え~、早速本題に移りたいのですが、香坂先生とは、どのようにしてお知り合いなられたのですか。
龍華 2008年頃だったと思いますが、当時、愛知県がんセンター中央病院に勤務しており、同じ職場だった大木康弘先生を通じて知り合いました。アメリカから帰国したばかりの香坂先生が名古屋に遊びに来られた折、みんなで食事をしたのですが、アメリカと日本の医療の違いを経験されたお二人の話は大変興味深くて、特に日本の臨床上の「お作法」に対するフラストレーションのようなものを感じ取りました。
編集部 大木先生も香坂先生もNYのセントルークス・ルーズベルト病院で内科研修をされましたね。

「極論」キャラ、誕生の瞬間!

編集部 そのとき、どんな印象を抱かれましたか。
龍華 お二人ともその経歴に甘んじることなく、敢えて異国に身を投じ医学トレーニングを積まれ、「凄いなぁ」と尊敬するとともに、そうした研鑽を積まずに時を過ごした場合、5年・10年で医療の考え方の厚みに「雲泥の差が生ずるのだ」と衝撃を受けました。
編集部 「極論」の話は、その時、出たのですか…?
龍華 はい。「極論」の原案のようなものは出ていたと思います。「今は覚えることが多すぎて、医学生や研修医が【木を見て森を見ず】になっている、自分は人を育てる「教育」にも興味があり、その手段の一つとして 本を作りたいのだ」と熱く語る香坂先生がいました。そしたら大木先生が「この子、絵描けるよ」と。
編集部 いきなりですか…。
龍華 その場で、割り箸の袋に似顔絵キャラを描いたのがきっかけとなりました。

【The Organs】(ジ・オルガンス)

編集部 龍華先生は、なぜお医者さんなのにあんなにイラストが上手なのでしょう。
龍華 いえいえ、決して上手ではないですが、唯一無二の味が出るように工夫はしています。幼少期に読んだ手塚治虫作品の影響で、キャラクターを作ったり、マンガを描いたりしていました。
編集部 そういえば、今回の麻酔科編は『ブラック・ジャック』の絵が登場しますね。
龍華 5章の森田先生の原稿に「手術は云うまでもなく、身体にとってストレスである」という箇所があったので、医師であれば、誰もが知るブラック・ジャックがメスを握り、【The Organs】が震え上がるというイラストにしたいなと。手塚プロダクションに承諾を取っていただいた編集部のシホさん、ありがとうございました。

BJ ラフ

ネーム(ラフのイラスト)

編集部 「極論」はまず著者の先生の原稿があって、最初は編集部に送られてくるのですが、その段階で原稿整理をしてしまうケースも中にはあるものの、だいたい龍華先生にそのまま原稿を送るようにしています。理由は、編集部でリライトとか体裁を整えてしまうと、余計なエッセンスが入ってしまうかもしれませんし、お医者さんが書いた原稿をそのまま医師である龍華先生にみていただくほうが、臨床上のストレートなイメージにつながるのかな…と思いまして。
龍華 そうだったのですね。
編集部 じつは「極論」の原稿は、医書編集に従事する身としても結構難解でして、最初に見たときにその原稿のいわんとするところが、半知半解のこともあります。でも先生に原稿を送って、イラストのラフイメージが送られてくると、「あ、そういうことだったのか…」とようやくそこで少し理解ができたりするのです。それは先生が医療の専門家で、臨床上の知識がおありになるのと同時に、やはりイラストレーターとして、著者のいわんとされるエッセンスを一度分解され、それをイメージとして再構築してくれるからではないか…と以前から思っていたのです。
龍華 そんなふうに仰っていただいて、ありがとうございます。
編集部 描くとき、何かコツみたいなものはございますか。
龍華 絵って、影付きのクロッキーなど一見複雑でも線が多いほうが簡単なんです。一方、単純な線で構成されるシンプルなイラストは、「線の太さ」「目の大きさ」「口の配置」が少しズレただけで、印象がガラリと変わってしまいます。無駄な線を極力排除し、ピンポイントな点を紡ぎ、線と成す作業は、

細かいところは省き、真髄をズバッと言い切る「極論」と通ずる

ところがあるように思います。
編集部 先ほどの話にありましたが、【The Organs】のキャラクターが織りなすユニークな感じ、いつ見ても癒されます。結構、臓器のえぐいシーンとかを重くならないトーンで描いてくれるので、編集部的にもとてもありがたいです。
龍華 人間は30~60兆個の細胞でできていると言われますが、その細胞が集まって機能を司っているのが「臓器」であり、便宜上、診療科は臓器別に分かれています。でも、もとはひとつの個体の中で互いにネットワークしているからこそ、私たちは生かされているわけであって、「臓器どうしがしゃべったらどんなふうになるだろう」というコンセプトで生まれたのが、臓器のキャラクター【The Organs】です。名古屋での編集部との打ち合わせの際、ラフが程田さんの目に留まり、「極論で語る」シリーズの案内役で登場するに至りました。
編集部 あのとき見せていただいた手書きのイメージが本当に素晴らしくて。「極論で語る神経内科」編より、冒頭に「キャラクター紹介」のページを入れさせていただきました。

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【The Organs】のキャラクター

極論の絵、麻酔科編の絵

編集部 極論シリーズで、イラストや漫画を描かれるとき、特にどのような視点を大切にされていますか?
龍華 著者の先生方は各分野のエキスパートであり、留学の経験から日本の医療を俯瞰する視点ももっています。そんなエキスパートたちが無駄なものは削ぎ落とし、洗練された頭の中をみせてくれる・考え方を教えてくれるのが極論シリーズの醍醐味であり、教科書や成書にないところだと思います。
編集部 ものすごい俯瞰力、経験に裏打ちされた斬新なパノラマがおありですよね。
龍華 著者が特に伝えたい部分、強調したい事柄、私自身が拝読し「目からウロコ」だった箇所をイラストやマンガにしています。イラスト・マンガが入ることで、「よし読むぞ!」と気構えなくても気軽に手にとってもらえて、疲れた頭にも印象として残るサポートができればいいなと思います。
編集部 今回、麻酔科編を描いてみて、いかがでしたか。
龍華 森田先生は海外にいらっしゃるので、直接の打ち合わせがなく、お写真から似顔絵キャラを作ったのですが、監修の香坂先生が「もっとごっつく、もっといかつくと…」。
編集部 確かに、慶応大学病院でお会いした森田先生は、いかにも頑強そうでした。
龍華 デフォルメを重ね、森田先生キャラができました。それと印象に残ったのは、

real timeな対応が求められる麻酔科にあって、
病態が解ってさえいれば手段は問わない

と言い切っていたところです。麻酔科編のイラストの中では、【The Organs】とブラック・ジャックとの共演も叶い、感慨深いです。

BJ 清書

実際の清書イメージ「極論で語る麻酔科」77頁より

著者の方々とのご縁

編集部 これまでの著者の先生方との思い出深いエピソードなどございますか。
龍華 香坂先生、河合先生、岩田先生、桑間先生は直接お会いしているので、似顔絵キャラも描きやすかったです。錚々たる著者陣営に共通して言えるのは、

思考回路が洗練されていることと、
主張が明快であること

です。「極論で語る総合診療」のあとがきで、桑間先生もこんなことを述べられています。

「別の国で医学トレーニングを受けると、それまで常識として信じ切っていたことが次から次へと覆され、一から考え直さねばならないことが連発します。これを乗り越えるたびに、知識と知恵の厚みが増していきます。」

龍華 これぞ、「極論=正論!」「突き詰めて考えること」「考えるのをやめないこと」だと思います。

最後に

編集部 先生にとっての「極論」とは何でしょう。
龍華 あの食事会で「極論」のアイディアが出て、はや10年! 循環器内科編のメインの著者にして、そして監修となられた香坂先生のもとには、彼をリスペクトする陣営が集い、シリーズ化となりました。私は縁の下的な役割ではありますが、極論シリーズに関わらせていただけることに感謝いたします。
編集部 縁の下どころか、思うに、キーマンだと思っています。それを一番感じおられているのは、たぶん香坂先生かと。そして歴代の著者の先生も。たぶん先生がいらっしゃらないと、「極論」は動きません。作業が円環しないのです。原稿を深く読み込み、ときに編集部の誤植を指摘くださり(う!)、細部のこだわりが、全体の配慮につながるような数々のイメージの創出。本当に頭が上がりません。これからもぜひお付き合いいただければと思います。

河合先生

「極論で語る神経内科」河合先生、ミクロの世界へ潜入


香坂先生

「極論で語る循環器内科 第2版」時間と闘う香坂先生

今井先生

「極論で語る腎臓内科」今井先生とじんぞーくん

岩田先生

「極論で語る感染症内科」突き詰めて考える岩田先生

桑間先生

「極論で語る総合診療」違いがわかる男、桑間先生

河合先生睡眠

「極論で語る睡眠医学」ピエロに扮する河合先生

小林先生

「極論で語る消化器内科」潰瘍の原因を語る小林先生

森田先生


「極論で語る麻酔科」OSASで河合先生と共演する森田先生

毎年多くの研修医や医学生、専門医、他科の専門医の方に愛読され、読み継がれていく「極論」。本シリーズに携わるすべての方に感謝を申し上げて、極論で語る麻酔科デビューの寿ぎの言葉とさせていただきます。

次回は、森田先生にご登場いただければと…。

ご清聴(読)ありがとうございました。

2020.7.17

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