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補陀落死人剣西遊記

真っ直ぐ心の臓だった。幅広の短刀に体を貫かれながら、フダラクは敵手の体を抱き留めた。胸の中で刃がぶつりと回った。

「いい腕だ」

敵手はしかし、目を見開いたまま絶息した。鏡写しにフダラクの脇差が敵手の心臓を貫いていた。

「体捨流、ちがい牙」
言い捨てると、フダラクはぐらりと倒れ、死んだ。砂嵐が近付いていた。

ーーー

振動でフダラクは目覚めた。垂れた手先が茶色い砂地を撫で、長い線を引いていた。天地が逆の視界で、馬並みの男根が揺れていた。

「俺は米俵じゃないぞ、ボニヤク」
「黙って運ばれてろ」

不機嫌な声が返った。視界に映る四つ足が忙しない。フダラクは半馬人ボニヤクの腰に積まれ、荷物同然の体で運ばれていた。

「何を急いでいる」
「逃げてる。不死隊の隊長を殺したんだぞ」
「あれは向こうが悪い」

フダラクが応えると、ボニヤクの怒声が降ってきた。

「お前が悪いだろ!16人しかいない王の奴隷の1人だぞ!」
「ああ、王が死んだら跡を継ぐとかいう」
「そうだよ!残り15人は殉死する!王の後継者をお前は殺したんだ!」

フダラクは笑った。

「なにが可笑しい!」
「殉死ならやった。あれは苦しいぞ」
「馬鹿!お前、殺されるぞ!……ああ死なないのか畜生!」

フダラクの笑いが大きくなった。

「俺を置いて逃げればよかったろうに」
「うるせえ!」

ボニヤクの怒声が漠野に木霊した。

蒼穹の行く手には百万都市マラカンダ。彼岸の地マワランナフル最大のオアシス国家は、もう目と鼻の先だった。

「本当に。そうしていれば面倒もなかったのに」

女の声にフダラクは飛び起き、ボニヤクの腰から滑り落ちた。ボニヤクは背から弓を外した。

全身を白布で覆った女がいた。いつから?わからぬままにフダラクは大刀を引き抜く。

「同行してもらいます。サムライ」
「其方は」

不意に女の背後から15人程の影が湧き出し、ボニヤクは目を見張った。

「私たちはガズヴィーンの星見。王の家宰がお呼びです」

(続く)

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