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鷲狩りの騎士団ホルガー・ダンスク

「ゲシュタポだ!」
誰かが叫び、俺たちは一目散に逃げ出した。灯りが消された。銃声。家具が倒れる音。

「逃げろーッみんな逃げろーッ」
銃声。銃声。バタバタと扉を押し合っている。ミケル、馬鹿野郎。お前も逃げろ。

隠れ家の外は森だ。ナチ野郎の懐中電灯が光の剣みたいに森を切り裂いて蠢いている。早く。早くここを離れよう。泥まみれになって這いずり、転がった。木の根がやたらと体にぶつかったが、痛みを感じてるヒマも無かった。

俺たちはホルガー・ダンスク。国ごとイカれて俺たちの国を奪ったドイツ人どもから、祖国デンマークを取り戻す。そのために、組織に俺たちの英雄の名前をつけた。「ホルガー・ダンスク」。誇り高く生きた騎士の名前だ。いつか祖国を救いに来る英雄の名前だ。だが、畜生。今は泥まみれで逃げ回ってる。

「30年前もイカれてたが、今回のは特大だ。ドイツ人どもめ」
4人になっていた。ヘンリクと、ラースと、カール。ユダヤ系のラースがドイツを際限なく罵っていた。20メートル先にゲシュタポが4人。抜ければ河口だ。船で漕ぎ出せば見つからない。向こうは武装している。やれるのか。俺は迷った。ヘンリクが走った。

「嘘だろ」
カールとラースも続いた。ああ、もう!一発の銃声でそこら中から奴らが来るだろう。俺は祈った。走りながら祈った。いくらヘンリクでも、銃を相手に勝てるわけがない。勝てるわけがない。そうなのに、数秒でゲシュタポ4人は叩き伏せられていた。

「俺たちが本気になればこんなもんだぜ」
息を切らしたカールがドイツ人に蹴りを入れていた。そうじゃない。お前じゃない、カール。ヘンリクだ。闇夜の中、髭面のヘンリクが怖い顔で俺にウインクした。俺は心底震え上がった。ああ、ああ、わかってるよヘンリク。

誰にも話してはいけない。あの日見たことを。漆喰の騎士像。長髭の魔術師。切っ先の欠けた剣。ヘンリクがホルガー・ダンスク本人だってことを。

【続く】

#小説 #逆噴射小説大賞2020

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