見出し画像

【じんたろホカホカ壁新聞】ヴァレンティノの広告は何が問題なのか?

日本文化を冒涜?

「ヴァレンティノ(VALENTINO)」が、Kōki,を起用したキャンペーンムービーを公式サイトやSNSから取り下げた。「日本文化を冒涜している」としてSNS上で物議を醸していたのだ。

和装業界が抗議文を送付した

西陣織工業組合と博多織工業組合は、動画広告を「日本文化の原点ともいえる帯をハイヒールで踏み歩くなど日本文化を著しく冒涜(ぼうとく)するもの」「襟を正して文書で反省を示すべきではないか」と訴え、ヴァレンティノに抗議文を送ったとか。

Kokiもこき下ろされる

この広告のモデルを務めていたのが、今人気のKokiということもあって、さらに話題になっている。
ヴァレンティノは広告を取り下げたのに、「Kokiのインスタグラムでまだ残っています。世間知らずか共犯か...」とツイッター上で批判の声が続々と上がるなどしていた

いつものことだが、こういう話題はテレビでワイドショーが取り上げるためにより拡散する。
この騒動についてバイキングMCの坂上忍はヴァレンティノ側が「帯ではない」とした上で謝罪したことを疑問視。「帯だろうが、帯じゃなかろうが、世に出したら引っ込めんなよと思う。謝るんだったら潔く謝ればいい」と帯であることを否定した上で謝罪したことに批判した。

ドン小西は「ぼくから見れば、着物屋の息子だから分かるけどさ、どうみても帯だよ」「100%帯」と断言した上で、「作品だと言い切ればいい」と語った。

ヴァレンティノの謝罪がビミョー

ヴァレンティノは、今回の動画について「日本人のモデルを起用し、日本で撮影を行ったビジュアルにおいて、モデルが着物の帯を思わせる布の上に座る、または歩く、靴を履いて家の中にいるシーンがあります」と動画に対する批判の内容を認めた。

しかし、「これらの動画は、日本の文化に敬意を込めて作成し、このシーンで使われた布も、着物の帯ではありません」と説明した。その上で、「多くの方に不快な思いをさせてしまったこと、深くお詫び申し上げます」と謝罪し、このコンテンツについてはすぐに削除いた。
「今回の件をブランド及びコミュニティに対する教訓とし、メゾンヴァレンティノはグローバルな規模での文化の包括性をさらに推し進めていく所存です」とも付け足した。

CMの意図は?

このCMの制作の真意はなんだったのだろうか?

春らしい白のミニドレスを着て、ピンク色のハンドバッグを左肩に下げたKoki,さんが、物憂い表情でポーズを取る。雅楽のようなBGMがかかり、ハイヒールの下には、色鮮やかな着物の帯があった。
帯は、オブジェのある庭園の坂のようなところに敷かれ、Koki,さんは、途中で振り向いてポーズを取りながら、帯の道を登っていく。
こんな30秒間の動画。
さらに、ヴァレンティノのツイッターやインスタグラムでも、同様の構図の写真が投稿されていた。

公式サイトによると、これらの広告は、多様な価値を意味する「DI.VA(ディーヴァ)」キャンペーンの一環で、ブランドの顔に選ばれたKoki,さんがPR役に抜てきされた。
広告は、泉鏡花の同名小説を元にした故・寺山修司監督の映画『草迷宮』にインスピレーションを受けたとし、映画では、実際に帯を敷いた道を登場人物が行くシーンも出てくる。ヴァレンティノの公式サイトでは、「クリエイティブなミックスを通じてラディカルな姿勢を表現するコレクション」だと説明されていた。

リスペクトがどうして侮辱と誤解されたのか?

泉鏡花から寺山修司へという、日本のカルチャーの歴史の中で起きた響き合いの現象を同時に伝えておけば、今回のCFについては、少なくとも映像表現としての意味付けと共に広がって行った可能性があります。そうなれば、「日本文化の象徴である帯」を踏みつけられて「傷ついた」とか「憤慨した」などといったクレームに潰されることもなかったはずです。

と、ジャーナリストの冷泉彰彦氏は指摘する


しかし、そんな解説を誰が読むんだろうか?
あくまでビジュアル表現の問題なんだろう。

この広告は、洋装しているアジア人が日本の帯らしき布を踏んでいるという絵なのだ。
「洋装しているアジア人」「踏んでいる」「日本の帯らしき布」が何を象徴しているのかという記号論的な理解を消費者はしてしまうところに問題が起きる。

例えば、和装しているヨーロッパ人がタータンチェックの布を踏んでいたらどうだろうか?
作品としての意味は別にあっても、スコットランドやイギリスの織物業界は、おそらく黙っていないだろう。

他にもあったファッション業界での広告取り下げ

例えば、2018年のドルチェ&ガッバーナ(Dolce&Gabbana)。
アジア人モデルがピザやパスタ、カンノーロを箸で食べる姿が映し出されたキャンペーン動画を公開した。この動画は中国を侮辱しているや差別しているなどの声が上がり、取り下げられるも、この動画についてDMを送った人にデザイナーであるステファノ・ガッバーナが「これからは世界的なインタビューを受けるときには、中国はクソだと言うよ」や「無知で汚くて臭う中国マフィア」など中国を侮辱する発言をしたことが大きな炎上を招いた。そしてそのDMは拡散され、ショーはもちろん中止になり、中国ではドルチェ&ガッバーナへのボイコットが起きた。

マルニ(Marni)では、2020年にビーチサンダルのキャンペーンを打ち出した。
黒人の写真家が撮影した広告には、部族の象徴を模したものを身につけているモデルが登場。そしてブランド側がその写真にジャングル・ムードや、ジャングルで裸足、部族のお守りといったフレーズをつけたことが、黒人は原始的で近代的ではないという人種差別的でステレオタイプを暗示していると批判され炎上。その後ブランドは広告を取り下げた。

2014年にアメリカン・アパレル(American Apparel)は、制服のようなミニスカートを履いている女性が前屈みになり、下着が丸見えという広告を掲載。まるでアダルトサイトを彷彿とさせるようなキャンペーン写真は、性差別であり略奪的な性行動をノーマライズ(標準化)する可能性があるということから、イギリスの広告監視委員会に広告の掲載を禁止された。

制作意図は立派でも、表現された象徴が持つ意味は取り方によっては正反対になる。とくに見た目を表現にしているファッション業界は視覚的な理解だけで成り立っているともいえる。
クリエーターはそれも織り込んで広告を作るべきなんだろう。
時代の空気によっても象徴が意味するものは変わっていくのだが。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?