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被害者である京都産大は自粛を解除すべきである

被害者が多かっただけの京都産業大学で起きたこと

新型コロナウイルス感染で大規模なクラスターが発生した京都産業大学。大学に対して、抗議や苦情などの電話やメールが数百件、寄せられたと報道されている。「感染した学生の住所を教えろ」「大学に火をつけるぞ」「殺すぞ」という予告まであったという。

飲食店の中には「京産大生の入店お断り」との張り紙を掲げるところもあった。京都産業大の学生がアルバイトをクビになったりしたケースもあったらしい。大学関係者の子どもが保育園から登園を拒否されるケースもあったという。

「京都産業大学という名前を背負っているだけで、面接にすら行けなかったり、説明会にすら行けなかったりということが発生するのではないかというのが、今の一番の不安です。」(京産大3年の女子学生)とテレビの取材に答える学生もいた。

大学側は早くから感染防止を呼びかけ、3月初めに学生に対して大勢が集まるイベントの中止も要請していた。京都産業大学の担当者は「拡大防止が最優先と考え、感染を積極的に公表してきた。中傷行為に学生も職員も心を痛めている」と言っている。京都産業大学の防止策にとくに非があったわけではない。

運動部の半年間自粛?

そこへきて、運動部が半年間自粛するという記事があった。

大学側はクラスター(感染者集団)を発生させた社会的責任を重く受け止め、課外活動の禁止期間を9月20日まで延長。大学側は再延長の理由について「二度と感染者を出さないという強い思いがある。今回の判断は学生の安全のため」と強調している。

自粛警察と呼ばれる市民たちがいて、大学に脅迫めいたクレームが数百件も寄せられた。8都道府県の緊急事態宣言は維持されたが、大阪では休業要請によって大学も解除された。しかし、京都では大学の休業要請が続くことになった。その理由には、京都には大学生が多いという表の理由とともに、今回、大学で大規模なクラスターを生んだという裏の理由があると言われている。

しかし、この京都産業大学の運動部自粛は正しいのだろうか。

高校野球で野球部員の喫煙がぼやに繋がり、強豪校が大会への出場を辞退するケースがあったりする。この行為はやむをないとする意見がある一方で、このような軍隊まがいの「連帯責任」がまかり通るのかか、とこの自粛を批判する声も少なからずある。

京都産業大学がクラスターを生んだ責任を感じて、二度とクラスターを生まない決意を表明するのは理解できる。しかし、運動部の活動自粛という「連帯責任」に何の意味があるのか。それはたんに大学関係者の一部の価値観を学生たちに連帯責任として押しつけている古い時代の運動部の監督のやり方と同じではないのか。

偏見も連帯責任も根は同じ

世界人権問題研究センター(京都市)所長の坂元茂樹氏は、ハンセン病患者への差別撤廃に取り組んできた。坂元教授は、この時期に「私たちは、互いを思いやれる社会を、コロナウイルスによって奪われないよう行動すべきだ」と訴えている。「私たちの国は、ハンセン病患者を90年間にもわたって強制隔離し、患者だけでなく回復した人や家族に対しても差別し続けてきたという負の歴史がある」と(神戸新聞5月14日)。

「戦時中、軍や国策に非協力的な人々を『非国民』と呼び、排斥したことを思い出す。日本は、集団のなかの多数派が、少数派に対して同じ行動をするよう暗黙のうちに強制する同調圧力が非常に強い。そうした社会で、法律に基づく権限を持たない一般市民が互いに監視し合い、同じ市民に対して攻撃的な行動に出ると、最終的に、自分たちの基本的な自由を阻害することになる」

京都産業大学の連帯責任による運動部の自粛というのは、同調圧力に大学執行部が屈しているだけなのではないか。

坂元教授は「私たちがつくりたいのは思いやりのある社会だ。コロナウイルスを恐れるあまり、ごく当たり前の人間性が失われてしまわないように行動すべきだ」とも述べる。

守るべきは学生の権利としての自由

今大学に求められているのは、ごく当たり前の人間性を学生たちにも教えることではないのだろうか。そのために、行きすぎた自粛は止めるべきだ。それは、大学執行部の自己満足に過ぎないだろう。京都産業大学の学生は新型コロナウイルス感染の被害者なのである。大学もまた脅迫などの被害を受けた。

京都産業大学は自粛を解除し、人間として守るべき基本的な自由を訴えるべきだと思う。それはなにより学生たちの権利としての自由を守ることでもある。

運動部の学生は愛校心が強い者が多く、他の学生に範を示すことを求められれば自ら従うだろう。だが、考えてほしい。運動部の学生が他の学生に範を示すとはどういうことなのだろうか。

それはスポーツを通じて素晴らしいプレイを見せる。人の見ていない所で努力することを怠らない。スポーツと学業の両立を図る。今の時期なら、三密を回避して集団でトレーニングをする方法を考えることもあるだろう。ある高校の野球部がスマホを使って、オンラインで部員がいっしょにトレーニングをしているという記事があった(2020年5月17日京都新聞)。スポーツを通じていくらでも範を示すことはできると思う。

京都産業大学の関係者には、自校を愛する学生たちのためにも、勇気をもって自粛解除をしてもらいたい。

私もあなたたちとともに、心はいつも学生とともに学生のそばにある。

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