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【じんたろホカホカ壁新聞】どんなときに議会乱入する正当性があるのか?

台湾の「ひまわり学生運動」では24日間、議会を占拠した

今コロナ対策で注目される台湾。

2014年に国会に学生が乱入し24日間占拠されたことは案外忘れられている。
現在の蔡英文政権下では、このコロナ下でも、中学中退でトランスジェンダーである唐鳳(オードリー・タン)をIT大臣に起用し、ロックダウンせずにITを利用した感染者の追跡やマスク利用を早期に徹底した予防や水際対策などでコロナ感染を封じ込め、経済活動とのバランスを取っている。

なぜ台湾は新型コロナの抑え込みに成功したのか。
タン氏は台湾の新型コロナ対策として、3つの"F"があったと明かす。そのFとは「Fast(高速)」「Fair(公平)」「Fun(楽しい)」と表現されたりしている。

新型コロナウイルス対策に当たった蔡英文政権のメンバーはSARSのときの経験を共有している。現在の政権内には、感染症や公衆衛生の専門家がたくさん含まれている。
これは、公衆衛生の観点から言えば、「少数の人が高度な科学知識を持っているよりも、大多数の人が基本的な知識を持っているほうが重要である」ことを学んだ結果らしい。

では、どうして台湾のこの政権が生まれたか?

遠因として、2014年のひまわり学生運動を上げる論者が多い。
日中二言語作家の李琴峰氏はこう言っている。

一体何が台湾を変えたのか? 2014年の「ひまわり学生運動」は大きな転換点であるように思う。そう、学生や運動家たちが国会を占拠した、あの事件だ。実はこの事件だけではない。台湾の歴史を振り返ると、市民運動が政治を動かしてきたことが分かる。

中国本土への市場を大胆に開くサービス貿易協定は撤回されたが、成果はそれだけではない。ひまわり学生運動がきっかけで、それまで政治に無関心だった多くの若者が政治の重要性を再認識し、積極的に参加するようになった。これらの若者を指して「覚醒青年」という言葉が生み出され、「時代力量」など小さなリベラル政党が結成されたのもこの時期だった。

何より蔡政権を支える民進党自身が反体制デモから生まれた政党なので、市民運動の力をよく分かっている。だからいつも強い危機感を持って政権の運営に当たっており、利権や前例、党内のしがらみなどよりも、常に国民を第一に考える姿勢を見せている。そしてそれがコロナ下の対応にも反映されている。
「ひまわり学生運動」後の台湾の若者は、選挙のために帰省し、日常生活で政治的な会話をし、SNSで自分の意見を表明し、臆することなく政権を批判する。

現在の台湾の政治の強さはITを利用し、イノベーションを生みながら、それを特権層のものとせず、情報と利用の民主主義を徹底させているところかもしれない。

ひまわり学生運動の学生達が議会を占拠したことに、国民は最初不支持だったが、やがて支持が不支持を上回るようになった。

台湾議会占拠の経緯

それには経緯がある。
学生の運動が盛り上がった直接の引き金、中国本土との市場開放を強める「サービス貿易協定」の審議で与党国民党が「委員会審議は終了した」として強引に委員会を打ち切ったことにある。
この「委員会審議飛ばし」に民進党や多くの社会団体が抗議の声をあげ、3月18日夜,立法院の外で抗議活動を行なっていた約200人の学生が,警備を破って本会議場に入りバリケードを築いたのだ。
その夜、ネットを通じて事件を知った学生らが駆けつけ、立法院の中と周辺に陣取る学生はたちまち数千人に膨れあがった。
学生らの行動は不法侵入に当たるが、王金平は立法院の責任者として「強制排除は行なわない」と言明したので、警察は強制執行に乗り出さなかった。馬政権も立法院の自律性を尊重せざるをえなかった。
占拠事件開始後に台湾のテレビ局TVBSが行なった民意調査では、サービス貿易協定への支持が21%、不支持は48%。しかし、学生らの立法院占拠抗議行動への支持が48%,不支持は40%であった(TVBS民調2014年3月21日)。

立法院(日本でいう国会)の占拠が支持されるケースは世界でも稀ではないだろうか。
これには、サービス貿易協定への国民の反対が多いにも関わらず、与党国民党が強制的に委員会を終了したという背景があったのだ。
民意が強かったので、学生の議会選挙も排除されないという異例ずくめの措置となった。

日本の1960年安保闘争

今からほぼ60年前の日本。1960年に日米の安全保障条約締結をめぐる安保闘争があった。樺美智子という女子学生が警察隊と学生デモの衝突で亡くなったことが今でも語り継がれる。

しかし、60年前の国民運動とも言われる反政府運動はあまり正確には理解されていないという。

当時、学生や労働者や市民が安保反対・岸内閣退陣を要求して国会議事堂を十重二十重に取り囲んだ。樺美智子は6月15日、国会構内に突入して亡くなる。彼女はなぜ実力行使に出たのか。その理由も今ではあまり理解されていないように思う。のちの全共闘運動と混同している人も多い。

彼女はセツルメント活動(学生の地域ボランティア活動)に打ち込み、歴史研究会に所属して歴史を動かす原理の探求を目指す。日本共産党に入党、迫り来る安保闘争を予感しつつ、教員に対する勤務評定に反対する日教組の勤評闘争や警察官の権限を強化する警職法反対闘争を闘う。
1958年12月、共産党の学生党員らが脱党して、より先鋭的な思想・方針を掲げ、前衛党・共産主義者同盟(ブント)を結成する。彼女はブントに加わる。
高揚する安保闘争の渦中で文学部学友会副委員長になった彼女は、全学連主流派として羽田事件で逮捕されるなど過激な闘争に参加する。実はそこで消耗していたとか。

聖女伝説。死亡した人物は常に美化される歴史ではある。しかし、当時マスコミは7社で学生のゲバルト行為については批判の声明も出していた。

元NHK記者の秋山頼吉氏は「60年安保騒動―官邸キャップとして」でこう書いている。

ハプニングが起った。6月15日のことである。全学連の学生およそ千人が、デモ行進の途上、国会南口通用門から国会内へ突入しようとしたのである。私は、その時、社会党の鈴木元委員長ら幹部3人と一緒に現場に居合わせた。たそがれ時だった。
 よせては返す大波のように通用門塀にぶつかっていたデモ隊が、遂に門塀をこわし乱入したのだ。門からおよそ百メートル離れた地点で待機していた警官隊が、排除のため放水を始めた。放水は、始めデモ隊の上空に上がり、水勢が安定すると共にスクラムを組んだデモ隊に直撃した。
 デモ隊の先頭は、後退しようとしたが、あとからつめかけるデモ隊の渦の中にまきこまれ、折り重なって倒れた。負傷者は構内の面会者控え室に運ばれ、重傷者は警察病院に移送された。そして1時間後、女子学生・樺美智子の死亡が確認された。警部本部の発表によるとデモ隊同士による事故であり、被害者の両親を病院に招き、事情を説明し、一応、納得してもらったとしている。

新聞7社の学生批判の共同宣言

 しかし、樺美智子の死去は、内外に深刻な波紋を呼んだ。先ず政府は、16日の閣議で「アイク訪日、中止」の要請を決めた。マニラまできていたアイゼンハワー大統領も、訪日をあきらめ台湾、韓国に向かった。一方、マスコミの論調も一夜にして変わり、朝、毎、読など大手新聞7社は「理由のいかんを問わず、暴力を排し、議会主義を守れ」という共同宣言を掲載した。

https://www.jnpc.or.jp/journal/interviews/11912

この背景には岸首相の議会運営への批判があった。

5月20日 - 衆議院で強行採決。以降、連日デモ隊が国会を囲む。
6月11日 - ハガチー事件(ホワイトハウス報道官が来日するが、羽田でデモ隊に包囲されヘリコプターで脱出)
それで6月15日に警察隊と学生デモの衝突が起きたのだ。

支持が得られにくいのはファッションもあるか?

ただ、時代が違うとはいえ、台湾のひまわり学生運動とはファッションセンスにも大きな違いがある。

で、アメリカの議事堂乱入事件である。

首都ワシントンの連邦議会議事堂内に今月6日、バイデン次期大統領の当選に抗議する多数のトランプ大統領の支持者が乱入し、一時占拠し、審議が中断した。米メディアによると、議事堂で支持者の女性1人が当局に撃たれて死亡。ほかに一連の混乱の中で3人が死亡したと発表されたが、当時詳細は不明だった。逮捕者は52人に上り、負傷者も多数出た。大統領選に象徴される分断は、米国の民主主義に前代未聞の汚点を残した。

議会では上下両院合同会議が開かれていた。連邦法に基づく大統領選出に向けた手続きの一つで、それを妨害、阻止すべく乱入が起きたということだ。
トランプ氏は「選挙が盗まれた」と訴え、50を超える訴訟を各地で起こした。インターネット交流サイト(SNS)上の陰謀論を増幅させながらも、その闘いは辛うじて民主主義の枠内に収まっていた。
だが、この6日の集会でトランプ氏は「弱さでは私たちの国を取り戻すことはできない。強さを示さなければならない」と支持者に訴え、暴力行動を扇動した。

政権の末期を象徴したのが、ペンス副大統領とマコネル共和党上院院内総務という、トランプ氏を忠実に支えてきた2人の離反だ。
大統領選の結果を確定する6日の上下両院合同会議で議長役を務めたペンス氏は、バイデン氏勝利を覆すトランプ氏の要求を拒否。4人が死亡したと伝えられる議会乱入後、トランプ氏支持者に対し「あなた方は勝てなかった。暴力は決して勝てない」と公然と非難した。
マコネル氏も乱入直前の演説で、大統領選の結果をめぐり「有権者も、裁判所も立場を明らかにした。もしわれわれがそれを覆せば、国家を永遠に弱体化させる」と語気を強めた。
この日結果が出た南部ジョージア州での上院選決選投票で、共和党の2候補は敗れた。マコネル氏は上院の少数党トップになり、権限は大きく制約される。残り2週間で政権を去るトランプ氏に忠誠を誓う理由はもはやなくなっていた。

最後の焦り

バイデン氏はトランプ氏に事態収拾を求めた演説で、トランプ氏支持者を「真の米国を反映しておらず、私たちが誰であるかを表していない。私たちが目にしているのは、無法行為にいそしむ少数の過激派だ」と断じた。
6日夜に再開した議会の審議では、共和党議員からもトランプ氏支持者の行為を非難する声が続出した。ただ、2024年大統領選への出馬が取り沙汰されるテッド・クルーズ、ジョシュ・ホーリー両上院議員は、バイデン氏勝利への異議を表明した。民主主義のもろさを浮き彫りにした米国の分断が、トランプ氏が政権を去っても容易には解消されないことを暗示する光景だった。

占拠により会議が一時中断したため、7日の未明になってようやく大統領選挙の結果が正式に承認された。手続きとしては20日の就任式を残すのみとなった。

もはや共和党のトランプではない。
トランプ教支持者たちのトランプなのだろう。

乱入したのは誰?

米連邦議会の議事堂をトランプ大統領の支持者たちが襲撃した事件で、司法省は9日、陰謀論の信奉者や州議会議員などを新たに相次ぎ起訴したと発表した。

ワシントン連邦地検は、通称「ジェイク・アンジェリ」ことジェイコブ・アンソニー・チャンスリー被告について、暴力的な不法侵入や治安を乱す行為などを含む罪状で起訴した。被告はすでに逮捕・勾留されている。

チャンスリー被告は、陰謀論「Qアノン」の「シャーマン」を自称しているとされる。本人は罪状について発言していない。Qアノンとはトランプ氏を支持する根拠のない陰謀論で、「世界の政財界やマスコミにはびこる悪魔崇拝の小児性加害者に対して、トランプ大統領は秘密の戦争を繰り広げている」というのが主な内容。

Qアノンとは?

「Qアノン」の中心にあるのは根拠のない陰謀論で、「政財界とマスコミにエリートとして巣くう、悪魔崇拝の小児性加害者たちに対して、トランプ大統領は秘密の戦争を繰り広げている」というのが主なテーマだ。

この陰謀論を様々な形で吹聴する「信者」たちは、「トランプvs悪のエリート」という構造のこの戦いの結果、いずれヒラリー・クリントン氏など著名人が逮捕され処刑されることになると憶測を重ねている。

これが基本的なあらすじだ。しかし、ここから派生して大量の諸説が派生し、ぐるぐると迷走し、論争になったりしている。「Qアノン」の主張の全容は膨大で、お互いに矛盾することが多い。支持者たちはニュースや歴史的事実に数秘術などを適宜、組み合わせては、独自の突拍子もない結論に至ったりしている。

乱入に参加したのは、他にも銃所持の権利擁護活動家でもある南部アーカンソー州の男性や中西部インディアナ州で白人至上主義運動に携わる20代男性もいた。ネオナチ、銃所持支持者、スキンヘッドと呼ばれる白人至上主義団体の関係者などがいた。

亡くなった人たちは聖人となる?

警察当局は、52人を拘束したと発表し、このうち4人は、無許可で銃を所持していたという。
議事堂に侵入した女性1人が、治安部隊に撃たれ死亡したほか、建物の外でも、3人が発作などにより亡くなった。

樺美智子さんはデモ支持者の間では聖女となった。
人の死はそれを神話化される。
議事堂突入で亡くなった4人は支持者の間で聖人とされるのだろう。

トランプ教の行方

江川紹子氏は警告している。

残った支持者はますます「カルト性」を強めていくのではないかと心配だ。

トランプ氏とその熱烈支持者は、分断を招く二元論的思考、陰謀論との高い親和性、現実を無視した独自の世界観、独裁志向といった従来からの傾向に加え、大統領選の敗北以降、過剰な被害者意識、極度の他責思考、目的のために手段を選ばないやり方など、その「カルト性」を高めてきた。

陰謀論はカルトにはつきものだ。彼らにとっては、悪いことは常に「自分たち以外の誰かのせい」。敵対する人達や正体がはっきりしない組織などが裏で動いたとのストーリーを作り上げ、それは「仕組まれたもの」であるとして、自分たちは悪の組織の「被害者」であると訴える。

カルト的な思考・発想に人々が慣らされ、無批判に流布していくことだ。今回の米大統領選のことに限らない。思想的な傾向が「右」か「左」かに関わらず、こうしたカルト的陰謀論は登場する。

陰謀論は一つひとつ否定していく

根拠なき陰謀論については、面倒でも「これは間違い」「これは根拠が示されていない」と一つひとつ、こまめに、忍耐強く否定していく情報発信を続けていくことが大切だと思う。そうすることによって、カルト的思考・発散の拡散に抗いたい。

そう江川紹子氏は言っている。

カルトは右でも左でも生まれる。

日本の1960年安保で立法府に乱入してもよいと判断するのもその一種だろう。市民的な生活は法により守られている。それを破るには破るべき理由が必要なのだ。

台湾の2014年のひまわり学生運動は、それが国民によって許された稀なケースだろう。

政権が民主主義的な議会運営を無視し、そのことをマスコミが国民に伝えていること。国民が議会占拠を支持するほど政権が支持を失っていること。マスコミも事実を報道すること。そして、占拠する者が政権以上にその国の未来を考えていることなのかもしれない。その時に考える国の未来の国民とは、反対者を含む国民であることが重要だ。台湾はITを利用したイノベーション、それを共有する民主主義を実現しようとしている。多数派だけが利益を得るわけではない社会を想定しているのだ。

自らの所属する階層、政治的立場、それしか念頭にない者の集まりはカルトを生みやすいだろう。

カルトは、事実を見ない姿勢から始まる。自分の都合のよいイメージ、カテゴリー、レッテル貼りの枠内に収まることを望むことから始まる。不都合な事実が見えなくなる。議会を無視し、暴力によってしか、立法措置を停止させる道はないとか国家転覆しか道はないと思わせることになる。

トランプ・カルトは「フェイク・ニュース」というレッテル貼りから始まった。右も左も同じであることを注意する必要がある。


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