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和田誠「いつか聴いた歌」は、スタンダード・ナンバー好きに送るエッセイ本

 イラストレーターだった和田誠は、エッセイストとしても数多くの著作を残している。中学時代から映画と音楽に親しんでいただけあって、古い映画やミュージカルに詳しくその話はどれも面白い。

 音楽系エッセイで一冊選ぶとしたら「いつか聴いた歌」(文春文庫)だろう。これはスタンダード・ナンバーとして定評のある曲に加えて、これからスタンダードになりそうな曲を思いつくまま100曲えらび、それがどの映画やミュージカルのために作られたか、作詞作曲家はだれか、それを歌った代表的な歌手を紹介している。さらにその曲と出会ったときのエピソードも語っている。

 その文章は、最小限の線で人物の特徴をうまく表現した彼のイラストに似て、簡潔で読みやすい。

 選ばれた曲の多くは古いジャズナンバーだが、ロバータフラックのヒットソング「やさしく歌って」やビートルズのジョージハリスンの「サムシング」など少し新しめの曲もとり上げている。タイトルだけを見たときはナゼという気になったが、読んだらいずれもなるほどとなる。

 たとえばロバータフラックは、和田誠がパンフレットのために描いた似顔絵をロバータが気に入り、和田は彼女の求めに応じて原画を直接手渡したエピソードを紹介している。この曲は、ペリーコモ、フランクシナトラ、アンディウィリアムスなども歌っている。

 「サムシング」になるとトニーベネット、フランクシナトラ、ペリーコモ、ペギーリー、カーメンマックレイ、シャーリイバッシイなど多くのベテランが歌っているそうだ。これは間違いなく新しいスタンダード・ナンバーだろう。

 このように、この本はスタンダード・ナンバー(ソング)の話題を満載しておりガイドブックのようにも使える。文庫本の発行は1996年だが、元になる単行本は1977年なので内容に古さはある。しかしスタンダード・ナンバーは、もともと長い年月を経ても残った曲なので、大きな問題はないだろう。いまは新刊の入手が難しいが、どこかで見つけたらチェックすることをおススメしたい。

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