カサカサ

 冬が終わって春になろうとしているのに、私の手はカサカサになってきた。
手がカサカサになると思い出すのは小学生のころのこと。

手がカサカサで、クリームを塗ってもカサカサで、もしかしたら病気なんじゃないかと思うまで、太刀打ちできないほどずっとカサカサしている白い手だった。いろんなクリームを試しているうちに母も私も狂ってしまって、この白いカサカサは手についている汚れだからしっかり洗えばとれるのではないかと考え始めた。

夕食の後に、明日の学校に備えての母と私の格闘が始まる。ぬるま湯で洗って保湿。布で擦りながらぬるま湯で洗って保湿。少し温度を上げる。また繰り返す。どんどん、お湯は熱くなって、布は硬くなって、母の洗う強さは強くなって、擦る時間が長くなる。タワシのようなもので擦りながら熱湯で洗う。

痛い痛いもうやめてと泣きながら訴えた。母がようやく熱すぎるお湯を止めて保湿してくれる。もう手はいいから、カサカサでいいから痛いの嫌だよ、と伝えたとき、母はごめんねと抱きしめてくれた。

手は相変わらず白いカサカサで覆われていた。

今度は入念に保湿した。毎晩母が3回に分けて塗り重ねてくれた。小さなケースにクリームを補充して、学校でも使えるようにしてくれた。

いつのまにか手の白いカサカサは無くなっていた。

おかげでいまはシワシワだ。
手だけ見るとおばあちゃんのようなシワシワで骨ボネしい手になった。

私は私の手が好きじゃない。

 けれど、そんな私の手を綺麗だと言ってくれる人がいる。私が、美味しかった!と伝えるために送った、ホットチャイのカップを手に持った何気ない写真から、「手が綺麗だね」と褒めてくれる。そういった類の写真を送ると必ず、「手、綺麗だね」と。

恋人が、恋人になるより前から、そう言ってくれた。

そんな恋人が、怒りに目を振るわせながら「ビンタしていい?」と聞いてきた。これで2回目。
2回目だから、受け入れなければいけないと思った。そこまで恋人を怒らせたことを、悲しませたことを。「うん」と返して心の準備の間まなく飛んできた。


覚悟したことだけれど、思わず涙が流れる。沈黙が流れる。痛かったね、と恋人が抱きしめてくれる。
母が抱きしめてくれたように。

「俺を悪いと思っちゃだめだよ。こんなことをさせたのは君なのだから。俺は君のことが本当にすきなんだ。」と添えて、また抱きしめてくれた。

いつか母がそうしてくれたように。

 タトゥーを入れたい。痛みを恐れないように、相変わらず愛していけるように。どうしようもなくなくなった彼の、その手のひらに込められた想いを否定しないように。私の欠点と向き合えるように。可愛いタトゥーをいれて、痛みを愛でていきたいね。
愛情の裏返しと言うから、わたしはあなたを信じたいの。

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