持ってる人はいいね。

元カレは、血の繋がった親がいないらしい。実際には母親の連れ子だった。実家にご挨拶に行った時、母親から聞いた。
元カレはバツイチだったため、知ってたんじゃねぇの?とよく思った。母親も、元カレは知ってるみたいな口ぶりであたしに話すから。

彼はそれがコンプレックスだったらしく、度々他の人に言っているところも目にしたし、付き合ってすぐに打ち明けてきたことのひとつでもあった。

彼が家庭環境のことを人にペラペラ話すのが嫌だった。あたしも家庭環境は複雑だが、人に言ったりできないタイプだったからだ。同情を誘っているようで惨めだったから、易々と他人に話すことではないと思ってた。だからそんなことを話す彼に、みっともないからやめてほしいと常々思ってたけど言わなかった。

彼にも最初話せなかった。家族の話を振られても、適当にはぐらかしていた。そうしたら、「信用されてないみたいで悲しい、話してほしい」というので話した。

それから、度々あたしは話すようになった。完全に気を許していた。

当時、居酒屋でバイトをしていたのだけれど、帰る客を見送る時に、ジジイ客に胸を触られた。痴漢のような手捌きで、コートを着るフリをして触られた。驚いて顔を上げたあたしにニヤニヤしながら帰って行った。彼は一緒の職場だったので、フロントにいた彼にインカムで伝えたけど何もしてくれなかった。その場にいたわけじゃないから仕方がないかもしれないけど、その後も何も触れてくれなくて悲しかった。余談だけど、ちょっと嫌いな先輩が「そういうときは、パンチしちゃえ!」と冗談まじりに慰めてくれて先輩の好感度が爆上がりした。

その日の勤務後、彼といつもの居酒屋に行って飲んでる時に今日客に胸を触られて、昔父に性的なことをされたのがフラッシュバックした。と泣きながら話した。すると、彼は「難しい問題だよね〜。でも血の繋がった親がいるだけで羨ましいよ、俺は。生んでもらって育ててもらってるんだから感謝しろとまでは言わないけどさ〜。」と言われた。怒り悲しみとか色んなのが一気に押し寄せてきて、信じられない言葉にさっと血の気がひいて一瞬で真顔になっちゃった。

持ってる人はいいな〜!!!

まあ彼に言わせればあたしも持っている人なのだけれど、血が繋がっていても理不尽な暴力や実の父に性的に消費されたりした過去があったあたしと、血は繋がっていなくても両親に愛情たっぷりに育ててもらってそんなに苦労せずに生きてきた彼にそんなことを言われて、あー、環境が違う人間って一生交われねぇな!と思った。

性的なことをされたり、兄弟が泣いただけで監督不行き届き!とよく殴られたりしたんだよ、血が繋がってる人にそんなことされるって、さらに辛いんだよ、と言ったけど彼は自分なりの境遇の辛さに恍惚としてしまって聞く耳を持っていなかった。それから別れた今、半年経ってもよく思い出してしまう。ちなみにその事があってから、何度もそれを思い出してしまうので別れようと思っていたけれど、そんなんでも心の支えだったので別れる勇気が出なかった。結局その3ヶ月後に彼の浮気が発覚して、最悪な切り返しをしてくるので別れた。

もうカウンセラー以外に自分の家族の話は絶対しないぜと、め島は思ったのだった。

持ってる人はいいねは、恋人や将来の伴侶にはもちろん、友達にも言えると思う。持っているのにそれに気付いていない人だと、自分がさらに惨めに思えてきてしまったりするからね。要らんストレスだ。

あたしという恋人を持っているのに、血が繋がっていなくったって優しい両親を持っているのに、それに気付かず浮気をしたり周りに本当の親がいないと言ってみたり。本当に勿体無いと今なら思う。まあ浮気はあたしだけじゃ物足りなくなったから、というのもあるかもしれない。でも親は女みたいに何人も抱えることはできない。そんなに愛してくれる両親がいるのに、いないという発言をする彼、親不孝者の罪で死罪。

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