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人本経営とは

人本経営(じんぽんけいえい)とは、企業に関わる5人の「人」の幸せを叶えることを目的とする経営のことをいいます。5人とは次の通りで、この優先順位で幸福を増進していくことを日々の経営課題として行動し、その実現により5人から支持を得て好業績という結果を持続的につくりだしていく経営のあり方です。

 1.社員とその家族
 2.社外社員とその家族
 3.お客様
 4.地域住民
 5.株主

ダニエル・キム教授は組織の成功循環モデルを説きました。企業業績といった結果は、その組織における関係の質の良好さによって決定づけられていると結論づけました。

関係の質

人本経営は5人に対する関係の質を高め続けていく経営に他なりません。ですから良質の結果が持続的に生み出されてくるのです。具体的にどうしてそういうことがいえるのか5人について考察してみます。

社員とその家族

まず、「社員とその家族」ですが、人本経営では「社員第一主義」を標榜します。この意味するところは、仕事の都合よりも家庭の事情を優先していい企業文化を形成するということです。幸せ軸が人本経営です。その幸せの源泉は、なんといっても家族関係に尽きます。

例えば親が要介護状態になった時、まともな人間であれば、気になって仕事に手が付けられない状態になることでしょう。そんな時、今は仕事のことは残ったメンバーに任せて、親御さんをしっかり介護できる体制をつくれるように会社を休んで構わないと家庭に送り返したり、必要なサポートをしたりするのが人本経営です。

あるいは、子どもの一生に一度の入学式や学芸会で主役を務めるなどの晴れ舞台がある時、家族とその時間を共有することが当然と休暇が与えられるのが人本経営です。

社員である前に、父親であり母親です。わが子の成長を感じる時ほど幸福感を感じることはないはずです。その時間が仕事優先で阻まれてしまっては、何のために働いているのかという問いへの答えが「生活のため」になってしまいます。心置きなく、子どもの成長を見届けることが出来た場合は、家族の絆を改めて感じ、人生を営んでいくことへの喜びをその社員は噛みしめて幸福感を増して職場に戻ってくるはずです。きちんと家族のことに思いを馳せ、大切にしてくれる会社に対して、心から「いい会社」に勤めることが出来てよかったと思考の質が高められていくことは容易に想像できます。

そして、さらにいい仕事をして会社を盛り立てよう、あるいは、次に社内の誰かが家庭の事情で職場を離れなくてはならなくなったとき、その人の分をサポートしようと恩送りの精神が芽生え、行動の質が高められていくのは自然の帰結でしょう。実際、人本経営を実践している経営者からは、例えば子供の運動会に休暇を取って参加し、あくる日出社してきたときの社員のモチベーションがとても高いという声をよく聞きます。

関係の質が結果の質につながることをご理解いただけましたでしょうか。

社外社員とその家族

次に「社外社員とその家族」です。取引先、仕入先、関係会社など、商品やサービスを会社が提供する際には自社以外の企業や法人等で働く人々との連携は欠かせません。この方々にもそれぞれ家族があります。ですから、手前勝手な取引、例えば無茶な短納期を迫ったり、相手の利益が出そうもない発注をしては、先方の社員が長時間労働を強いられたり、よくない精神状態で働くことでその社外社員の家族仲に影響が及んでしまうかもしれません。そこで、人本経営では、適切な納期、相手も十分に収益が確保できる発注、さらには現金決済でなるだけ資金繰りが楽になるよう配慮したお付き合いをしようと心がけていきます。

そのように取引先、仕入先、関係会社等の社外社員との関係の質を高めていけば、「あの会社との取引は本当に心地よい」「こちらも丁寧な対応を心がけよう」「パートナーとして扱ってくれることに感謝して精一杯の仕事をしよう」と社外社員の皆さんの思考の質、行動の質が高められていくこともまた自明でしょう。

こうして、自社内の社員と社外社員がやりがいをもって仕事に打ち込んでくれたら、その成果物は普通の会社にはない魅力が備わってくるに違いありません。それが、他社にはない差別化された商品やサービスになるのです。

お客様

モチベーションが高められた社員と社外社員がつくり出す商品、サービスが次に向かうのは「お客様」です。

「おお、すごい」「そこまでしてくれるのか」「やっぱり、この会社の商品は違う」「感動した。また必ず来るから」「高くてもやっぱり買ってしまう」等々、お客様は感嘆の言葉を口にして、最高の笑顔になってくれていることでしょう。

ここで気づかされますが、顧客満足、さらに期待を超える顧客感動は、社員・社外社員が生み出しているということです。ですから、本当にお客様のことを考えるのであれば、社員第一主義が鉄則であるということに帰結するのです。

パワハラまがいの上司にこき使われ、この職場で働くのは嫌だけど生活のために言われたことだけはやろうとしている社員に、お客様が感動するような商品やサービスをつくり出せるはずがないのです。つまり、日々の関係の質が悪いと思考が劣化し、行動も消極的になり、言わずもがなな結果しか出てきません。それをまた上司が諫めたら、さらに関係の質は堕ち、最後は離職や労働トラブル、あるいは精神疾患発症という最悪な結果になってしまうかもしれません。

話を「お客様」に戻しましょう。感動感嘆してくださったお客様は、繰り返し購入活動をしてくれるヘビーユーザーやロイヤルカスタマーになっていきます。そして、ファンという状態にまで会社との関係の質が高められると、「口コミ」で新たなお客様をたくさん導いてくれるようになります。つまり、最高の営業をしてくれる訳です。これが結果としての業績につながっていきます。伊那食品工業の塚越寛さんが残された「会社経営の要諦はファンづくり」とは卓越した名言ですが、まさしくその状態の実現を人本経営は目指していきます。

地域住民

4番目の「地域住民」についてですが、企業経営を営んでいる地域ともまた良好な関係を築くことに人本経営では心を砕きます。これは単にお金を使うということではなく、直接社員が貢献する行動がよく見られます。例えば、会社周辺の公道の清掃を買って出る、交通整理をして住民の安全に寄与する、あるいは地域の高齢者や障がい者施設の慰問や支援を積極的に行う、さらには雇用が進まない障がい者を直接雇用する、など地域とより良い関係を築くことを大切にしていきます。

このことは地域住民に伝わらない訳がなく、「あそこはいい会社だよ」と至る所で共感者や応援団が形成されていきます。これまた塚越さんがおっしゃっている「敵をつくらない経営」という状態が実現していきます。持続可能性を高めていくという結果には、地域との共生は欠かせません。人本経営ではそれが実現していきます。

株主

そして、最後の「株主」です。ここまで見てきたような取り組みをして、結果としての業績が出ることで、株主にも益をもたらすことが実現していきます。しかし、人本経営に成功して高収益状態になっても、ほとんどの会社は株式公開をしていません。その理由は、現在の株式市場のしくみが、自分たちが目指している「関わる人の幸せ増進」という目的に沿うものではないという確信からです。では、人本経営では株主はないがしろにされるのかというと、さにあらず、です。

多くの人本経営成功企業では、収益体制が確保されてくると、内部留保と未来投資に費やした残りの利益を社員へ還元する態度がよくみられます。決算賞与という形に加えて、社員持ち株制度として還流させるのです。前述したとおり、上場を想定している訳ではありませんから、利得を目指している訳ではありません。会社に関わる5人の最初の「社員」と最後の「株主」を見事に紐づけているのです。社員イコール株主ということで、会社は誰のものであるかということがこれ以上ないほど分かりやすく明示されるということになります。

コロナ禍が証明した人本経営の確かさ

以上、考察してきましたとおり、人本経営は、関わる5人との関係の質を向上させていくので、物ごとに取り組む思考が高められ、よりいい行動が生まれ、結果としての業績がよくなるという善循環をつくり出すことが実現していきます。

今般のコロナ禍においても、この経営の優秀性が証明されました。人本経営の浸透度が進んでいればいるほど、コロナ禍による経営への打撃は深刻化せず、また立ち直りも早い傾向にあることが確認出来たからです。

これからどのような時代になろうとも、社会に残り続けていく唯一無二の経営が人本経営なのです。

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