ふるさとの距離感;『向田理髪店』奥田英朗
ふるさとは遠きにありて思うもの。なんていうけど、ずっと故郷で頑張っているヤツもいるし、Uターンして舞い戻っているヤツもいる。私も地元にいた頃は、この土地に恩返しがしたいなんて偉そうなことを考えていた。今となっては、遠きふるさとに、後ろめたさを感じることがある。
本書の舞台は北海道の旧産炭地。その姿は、北海道の農村地帯に住む私にとっても身近なものだ。たぶん、クスッと笑えるシーンでも、あまり穏やかに笑えなかった。ここで描かれる地方の過疎問題は、他人事には感じられなかったのだ。
奥田氏の小説は、答えを出さない。本書の描き方は決して感傷的ではなく、主人公を介して厳しい言葉もある。そこにリアリティがある。
寂れていく地方の現状は厳しい。伝統的な地域コミュニティは急速に衰退している。事件は起こるといえば起こるが、実はそこに住んでいる住民たちに大きな変化はない。
それでいて、本書には、地方もいいなと思わせる暖かさがある。人がそこにいることが魅力的に映るのだ。そして、地元で生きる若者たちの成長が未来を予感させてくれる。
私の田舎は、道北の小さな街だ。子どもの頃お世話になった理髪店は、もうなくなっていた。町の名は市町村合併で地図から消えた。だけど、地元には親も親戚もいるし、同じ中学のヤツらが地域社会を担っている。そして、私は、街を出た側のひとりだ。
なんとも言えない、感傷的な気持ちがわいてくる。参ったな。
なんだか、私の心の深い部分をつつかれた気がするのだ。
いろいろあるので、この年末年始は帰省しない。
思いを馳せながら、静かに年を越そう。