『海神の子』川越宗一著
歴史上の人物、鄭成功を描いた冒険活劇である。
鄭成功の伝承を知っている人は、序章からぶっ飛ぶかもしれない。でも、その創作部分にこの物語の面白さが詰まっている。
『熱源』や『天地に燦たり』でもそうであったが、著者の川越宗一さんは、国や文化の狭間で揺れ動く人々を熱くドラマッチックに表現してくれる。
『海神の子』でも、日本と中国、家や国のしがらみの中でもがく姿が描かれる。そして、今回の舞台である「海」では、すべてが自由だという。
「私は、生まれた国では『あいの子』だった。中国でなら、奸臣くらいにはなれようか」
「海はよろしゅうござるな。どこへでも行けまする」
海賊王を目指した若者達の漫画のような爽快感がある。
母はとことんカッコいいし、父はいきなりとんでもないことになっちゃうし、作者の想像力が炸裂している。冒頭の海の描写からワクワクして一気に読み終えた。
史実だって現代に残されている記載がどこまで真実なのかは、確かめようがない。同じ鄭成功の生涯を描いた近松の『国性爺合戦』だって、主人公が虎と戦うなど、その内容はやっぱり劇的でぶっ飛んでいるのだ。
『熱源』や『天地に燦たり』を読んだときにも思ったのだが、川越宗一さんの長編は、面白いコミックを一気読みした時のような感覚がある。描かれている情景が想像しやすいとか、交わされる台詞がカッコいいといった条件もあるが、何より登場人物達の気持ちの熱量がすごいのだ。世の中の不条理、抑圧と自由、友情、師匠、勇気と、そのまま青年コミックの原作にぴったりではないか。
ドラマ性に溢れたエンターテイメント活劇。たいへん面白うございました。
あと、中華料理を食べたくなります。