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なぜ秋に検診を受けさせるのか?〜Yahoo!記事「なぜ日本のがん死亡者数はどんどん増えているのか?」への反論


 秋、検診が盛んになる季節である。

 地域や職場などの集団検診も多い。
 検診に誘導する記事やニュースもたくさん流される。
 この時期、業界は多額の宣伝広告費を使って権威や記者に記事を書かせ、人々を検診に誘うのだ。(有名人の死や病を使った恐怖煽りなどが典型)

 なぜ秋に検診が盛んになるのか?


 ズバリ言ってもいいですか?

 病院が暇だから。

 冬はインフルエンザから心筋梗塞・脳卒中まで様々な患者が増え、病院は満床になりがちだ。(新コロ騒動なんてなくても元々日本の病床はそれほど余裕がなく、余裕があったら経営が成り立たなくなるシステムの下にある)
 夏も冬ほどではないが、熱中症などの患者が増える。
 春は人事などで忙しい。身体的にも精神的にも調子を崩す人も多い。
 秋は医療機関にとって何もしなければ最も暇で、売り上げが下がりやすい季節なのだ。

 そこで大量の客を呼び込むために行われるのが検診だ。対象はもともと患者ではない、何の症状もない人々。
 検診はどこも悪くない人々から「悪いところ」をほじくり出し、さらにはどこか「悪い」ことにして「患者」にし、クスリや手術を売りつける営業手段だ。

 以前「バリウムを飲むな」で書いたように、病そのものを作り出して何ともない人を重病にしてしまう検診項目もいくつもある。(コレステロールは最たるもの)

 それはもちろん、検診を受ける人々のためではない。(末端の医療従事者の中には人のためだと本気で信じてやってる者も少なくないが、かつての私も)
 あくまでも病院の経営や医薬業界の売り上げのためになされるのである。

 近年はそうした実態もだんだん知られるようになってきたが、まだ検診に誘導する情報の方が主流である。その中の一つがこれだ。👇

 記事の最後には、

「なぜ、この話を取り上げたかと言いますと、実はこのデータを使って、不安を煽って、怪しい商品を売りつけようとする業者がいるからです」

 とある。ところが、実はがん検診やがん医療こそ「データを使って怪しい商品を売りつけようとする業者」であり、この記事もそちらへの顧客誘導を目的としている。

 この記事は「病院医療を信用するな、ビタミン剤を飲め、食事を改善せよ、と不安を煽って商品を買わせようとする記事」への警鐘として書かれたそうだ。

 がん検診を否定し、ビタミンDや味噌汁を勧める私もその中に含まれそうなので、せっかくだから反論させていただこう。

 5年生存率は治療が全く進歩していなくても上がる

 この記事にはいくつもの欺瞞がある。

 記事では食道がん・胃がん・肝臓がん・肺がん・白血病を挙げて、いずれも5年生存率が上がっていることで「がん治療は確実に進歩していると言えます」と言っている。

 これは明らかなウソだ。

 5年生存率が上がっていることがウソなのではなく、「5年生存率が上がっているからがん治療は進歩している」と言うことがウソなのだ。

 著者は脳外科医・がん研究者とのことだから、誤りではなく真実を知っていて意図的に間違ったことを言っていると思われる。
 5年生存率は治療が全く進歩せずとも、診断が早まるだけで上がる。

 5年生存率とは、がんの診断を受けてから5年後に生きている人の割合だ。
 5年を数えるスタートは診断時だから、診断が早まれば死までの期間は治療によって全く延びなくても、診断から5年生きる人は増えるのだ。

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 上の図でAさんは診断から5年以上生き、Bさんは5年以内に亡くなった。その間に受けた治療の効果には全く関わらず、寿命も少しも延びていないが、Aさんの存在は5年生存率を上げ、Bさんは下げる。

 食品の賞味期限で考えてもらうとわかりやすい。早くその食品を買えば遅く買った場合より買ってから賞味期限が切れるまでの期間は長くなる。しかし賞味期限が延びるわけではない。

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 だから5年生存率が改善したことががん治療の進歩のおかげとは限らず、5年生存率が上がっているからといって「がん治療が確実に進歩している」とは言えない。

 「検診を受けた人の方が検診を受けない人より5年生存率が高いから検診を受けるべき」というのは、検診を受ける理由として最も頻繁に用いられるウソであり、診断が早ければ診断から死ぬまでの期間が長くなるのは当たり前なのだ。

 (「早く買った方が自宅の冷蔵庫に長く置けるから早く買った方がお得ですよ!」と言われているようなもの)

 余命の延長につながらず、かえって死期を早めたり人生の質を下げたりし、苦痛や医療費を増やすだけの診断を『過剰診断』と言う。

年齢調整死亡率が下がったのもがん治療のおかげとは限らない

 記事では、日本のがん死者数が増えたのは高齢化が最大要因だとしている。
 そして高齢化の影響を除くように補正した年齢調整死亡率は下がっていることを示している。

 「だからがん治療は有効で、進歩している」と言いたそうなところで言わなかったのは、著者もさすがにそれは無理があると思ったのだろう。

 年齢調整死亡率とは、10万人あたり何人がその疾患で死亡したかを年齢構成の変化の影響を除くように補正した値だ。

 計算式は 

(年齢調整死亡率) = (死者数) ÷ (人口) × (10万人) ×(年齢構成で補正)

 だ。

 年齢調整死亡率は、平均余命が延びても下がる。がんかどうかや治療効果にかかわらず、死者数そのものが減るからだ。

 日本人全体の平均余命は年々上がっている。がんを発症した人も発症していない人も、がん治療を受けた人も受けない人もだ。生涯がん治療を受けない人の寿命が延びているのは、もちろんがん治療のおかげではない。(平均余命はある年齢の人が平均あと何年生きるかの期待値、0才の平均余命が平均寿命)

 簡単に言えば、日本のがん死者数が増えているのが高齢化の影響だとするなら、がん全体の年齢調整死亡率が下がっているのも、高齢化の影響(=全体の余命の延長=死亡率の低下)なのだ。

 なぜ余命が延びているのか?それこそ医療の進歩のおかげではないか?と思われがちだが、少なくともがん検診はその成果を示すことに成功していない。

 また確かに高齢になればがん罹患率は上がるのだが、高齢者のがんは若い人のがんに比べそもそも積極的ながん治療の対象にはなりにくい。
 病院での標準的ながん治療は手術にしても抗癌剤にしても患者への負担が大きく、高齢者は負担に耐えられないことも多いため治療は控えられることも多い。(良心的な医師ほど控える)
 また高齢者のがんは比較的進行が遅いことが多く、治療の成果が余命に与える影響は小さい。

 よりがん死が問題になるのは、乳がんや子宮頸がんなど若年で発症し死に至りやすい癌だ。
 子宮頸がんでは年齢調整死亡率は下がっておらず、乳がんでは明らかに増加傾向である。

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 年齢調整死亡率が下がったのが治療の進歩のおかげなら、乳がんや子宮頸がんは治療が退化したから死亡率が上がったのか?

 言うまでもなく、乳がんと子宮頸がんはどちらも検診による早期発見と早期治療の重要性が喧伝され、実際に多くの女性が検診と治療を受けている癌だ。

 そして子宮頸がんと乳がんの死亡率が増加したのはがん検診の開始・拡大と強い相関がある。

 若い年代の子宮頸がん死は1970年代までせっかく減少していたのに、検診が始まって増加に転じた。

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子宮がん検診が始まる前と後でグラフを分けるとよくわかる。

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乳がんでは検診が拡大された年またはその翌年に乳がん死が大きく増加した

下のオレンジの棒グラフは前年に比べて乳がん死が何%増えたかを表し、ピンクの丸をつけたところは乳がん検診が始まったり拡張されて乳がん死が増えたことを示す。

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 検診によって過剰診断が増え、余計な「治療」が行われるようになったから子宮頸がん死や乳がん死が増えたと考えられる。

 マンモグラフィーが乳がん死を減らさなかったという事実は近年いくつも報告されている。👇

👇上記論文を日本語で解説した記事。

👇論文”なぜがん検診は今まで一度も『命を救う』結果を示さなかったのか?-そして私たちにできること”


 私はがん治療の全てが有害無益だとは言わない。例えば進行した大腸癌で腸閉塞を起こしたり出血が止まらないような場合は手術以外に救命の方法はないだろう。

 そしてそうした手術は早期癌の手術や抗癌剤投与よりはるかに難しい。
 そうした仕事はもっと評価されるべきだ。

 しかし本当の問題は、個々の治療や検診の「手法」が有効かどうかではない。

 問題は医療の『目的』にある

 それを、この記事は端的に示してくれている。

 この記事は、ビタミンや食事改善を勧めるネットや書籍の情報に対して注意を促すために書かれたという。

 なぜビタミンや食事改善を敵視する必要があるのだろう?

 ビタミンD摂取が多くのがんの発症を減らし、予後を改善することは多くの文献で報告されている。

☝️ビタミンDと乳がんリスクのメタアナリシス(エビデンスレベルが高いとされる)。女性を血中ビタミンD濃度レベルで4つにわけ、最もビタミンDが高い群の女性は低い群の女性より45%乳がんリスクが低い。

 食事とがんの関係ももはや常識レベルだ。

 ☝️食物繊維の摂取が最も少ない人々では大腸癌リスクが食物繊維摂取が多い人々の約2倍。

 「不安を煽って、商品を買わせようとする記事が散見されます」?
 ビタミンDは1年分が1000円前後で入手可能だ。
 食事にいたっては、食費に金を使わない人などいるのか?(自分で払わなくても誰かが払っているはずだ)
 どちらも「商品を買わせようとする」というほどのものではないだろう。(逆にあまり高額なサプリメントなどは疑うべき。食品・食事もボッタクリには注意)

 一方、最近の抗癌剤は数千万円に及ぶものも珍しくない。(どんなボッタクリバーもかなわないだろう)


 そのために国の財政が破綻するとも言われている。

 どちらが「不安を煽って、怪しい商品を売りつけようとする業者」か?その値段を比べただけで明らかではないか。

 本当に人の健康を願い、がん死を減らしたいと考えている人がビタミンや食事改善を問題視するはずがない。
 それを問題にするのは、がんが減っては困る人、つまりがん治療を売りたい人である。

 本当の問題は、がん治療をはじめとした「医療の目的」が人々の健康ではなくお金になっていることなのだ。

 誤解して欲しくないが、記事の著者を含めがん検診を生業とする人々が悪人なわけでは全くない。ほとんどは日々自分の務めを真面目にこなしているだけだ。ただそれをすることになっている職務・立場にいるだけなのだ。

 検診やそれによって増える治療や処方の売り上げがなくては自分の医療機関が潰れてしまうことを恐れ、過労死しそうな激務の中必死になって仕事を続けている人々もいる。

 ただ本当は、医療機関を維持するために不必要な医療を行う必要などないのだ。

 医療の値段は市場経済ではなく、政府によって決められている。

 決して人を健康にすることがない不要な医療に高い値段がつけられ、人々の健康を向上させる必要な医療には大したお金がつかないどころか医療として認められすらしないことが問題なのだ。

 なぜそうなのか?

 製薬会社にお金が流れることが「医療」と認められる前提となっているからだ。英語では医学・医療を「medicine」と言う。「クスリ」と言葉も同じなのだ。しかし日本語の『医』はもちろんクスリのことではない。

 医療行政から医師の養成、そして大学の医学研究から臨床まで、製薬会社によってスポンサーを受け、その投資を回収する仕組みで回っていることが実情だ。

 その回転の中心を、お金から人の健康に持っていくことが必要だ。それには世界的な社会変化が必要になる。

 医者や厚労省や製薬会社を批判し、そこに属する人々を恨むことは簡単だが、それはさしあたってあなたや家族の命を守ることには繋がらない。

 まずは「病気探し」「病気怖がり」ではなく、心と体の健康と幸せを望むこと、それにふさわしい生き方をすること、そして不要な検診を受けないことが大切だ。



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