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【埼玉県議会「子供留守番禁止」条例案を考える】想像力、優先順位見失った岸田政治の結果

 @Hayato_barrier 遙矢当(はやと)

「保守」政治の凋落ぶり

 「しっかりと現場感を持って良く聞く政治になってほしいです。一党過半数越えは怖いです」。私のSNSに、埼玉県内に住む知人女性からオンライン署名サイトのリンクが届いた。
 それは全国で話題になった、埼玉県議会の〈子ども放置禁止〉条例案への反対署名のリンクだった。これは「子どもの留守番は、放置で児童虐待」とする虐待禁止条例の改正案であったが、あまりに現代の家庭事情と乖離した改正案であったため、自民・公明で多数を占めていた埼玉県議会にあっても、世論を圧しきれず、廃案となった。
 岸田政権の目玉=「異次元の少子化対策」は、早速地方からその前提が崩れ、子育て世代を奈落の底に突き落とした格好だ。私も子を持つ親として思うのは、子育て世代の生活の負担が、年々増大していることだ。
 埼玉県は南隣の千葉県とともに、関東の子育て世代が集中する地域だ。それなのに、県議会の最大会派の自民・公明から、このような「愚策」が上程される現状は、重く見るべきだろう。この条例案は、主に県内に住む10歳以下の子どもをいかなる事情があっても自宅に「軟禁」することを余儀なくするものでしかなく、我々を驚かせた。
 それは、子どもを「この国でどのように育てたいのか」という、正に保守(極右)自身が標榜し続けた「人物像」すら欠いており、私はその劣化・凋落ぶりに刮目した。彼らは、もはや純粋無垢な子どもたちに、その理想とする保守イデオロギーを強制することができなくなっているのだ。自民党本部もこの件への言及を避け、現地議員を黙過した。庇うより慨嘆したいのが本音かもしれない。

忘れ去られた「少子化対策」

 一方で、アメリカ等の海外では、法律やガイドラインで子どもを自宅内で単独で過ごさせることを厳密に禁ずる状況もある。ベビーシッターの活用が推進されてもいる。
 わが国より治安が劣る諸外国では、子どもを単独にさせないというのは、子どもに対する犯罪抑止と自己防衛の意味を持つ。これらは今回、田村琢実以下、自民県議団が法案提出に至った発露の根底にあるようで、ベビーシッターの活用については、岸田政権も推進している点は興味深い。
 それで言うなら、「現状で埼玉県内の治安が著しく低下しているのか?」とも指摘できて、大いに疑問だ。わが国で単独の子どもが事件事故を起こすケースは、治安に起因するというより、親による炎天下での車内放置や、親に代わる家事の支援がないことによるやむを得ない放置が大多数を占める。もし治安が低下しているのなら、県議会として他に優先して取り組むべきことがあろう。
 私は、「ヤングケアラー」や「介護離職」などと今回の〈子ども放置禁止〉条例案は、親子関係に対する政策的な支援の無策という点で同類だと思う。
 私も、こどもをどのように育てていくべきか、と悩む一人の親である。そして、社会にはその発想が著しく乏しいため、子育てに対する方針も持ちきれないでいる。現代の子育ては経済的負担が強く、それ自体が奢侈な生活とも言える。
 さらに言えば、少子化の抑止を諦め、人口減を前提にした社会づくりが急務なのだが、「アベノミクス」以降その発想は雲散霧消したといっていい。私自身も社会参加を諦めそうになり、心苦しい。
 冒頭の知人女性は、今回の愚策が廃案になった後、「これからが大事」と短いメッセージを送ってきた。子育て世代の彼女は、ためらうばかりの私に比べ、遥かに在野で戦っている。敬意を表したい。

(人民新聞 2023年11月5日号掲載)

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