コロナ禍を 生きるひと/六次産業化プランナー 空庭 みよこさん/ピンチをチャンスへ 「農」の可能性に惹かれて/木澤 夏実(げいじゅつ と、ごはん スペースAKEBI)

農村と都市の人々をつなぐ六次産業化プランナー
 六次産業化プランナーという、あまり聞き慣れない職業を御存じだろうか。これは「販路を増やしたい」「顧客幅を広げたい」「生産物を加工して売りたい」といった農家さんの要望や悩みを、独自の手法を駆使して解決へ導く専門家のことである。農林漁業の一次、製造の二次、販売・サービスの三次、この三つを掛け算して生まれるものが六次産業。農産物に新たな価値を創造して、より幅広い消費者が購入したくなるような仕組み作りを行う、「農のマーケティング」のスペシャリストということだ。
 今回お話を伺った空庭みよこさんは、約7年前から六次産業化プランナーとして、主に関西地方内の農家と都市部在住消費者とをつなげる活動を精力的に行っている。都市部に暮らす人々に「農のある暮らし」を実践してもらうことをテーマとし、自宅でできるプランター菜園や料理教室の開催だけでなく、もっとダイレクトに農家を知り、農産物を使ってもらうための企画を多く考案している。
 彼女の取り組みで代表的なものが、2013年から現在進行形で毎月第二日曜日に開催している「大阪ぐりぐりマルシェ」というマルシェだ。場所は大阪市中央区の難波神社境内で、毎回約30店舗の無農薬・有機栽培の農家や、そういった野菜を使用した加工品の生産者たちが自慢の品々を携えて出店し、それらを目がけて買いに来る客たちが意気揚々と押し寄せてくる。神社の年中行事に劣らないほどの賑わいを見せるこのパワフルな蚤の市は、時には百貨店のエントランスフロアで、また時には大阪城公園のお堀周辺で、というように出張での開催もされ、出店者の顔ぶれもコンセプトから大きく外れない範囲で入れ替わりがあるのが特徴だ。
 300件以上の出店関係者の連絡先を把握する空庭さんのネットワークを駆使して、イベントごとに相性の良さそうな出店者の見当をつけてコーディネートし、その時々でオリジナルの「大阪ぐりぐりマルシェ」を完成させる。生産者と消費者、生産者同士、消費者同士……全ての立場の人々が毎回新しい出会いを求めて足を運ぶ、大阪で最も出会えるマルシェ、と言っても過言ではなかろう。

相次ぐマルシェ開催中止、打開策としての「ツナグリ」

 コロナウイルス感染拡大防止策として、人が集まる可能性の高い施設は閉館となり、催事やイベントも軒並み中止せざるを得なくなった。大阪ぐりぐりマルシェも例に漏れず中止を余儀なくされ、販路を失った農家とその顧客は路頭に迷うことに。
 しかし、ここで代替案を提示できるのが六次産業プランナーの底力―前々から考えていたことのようだが、オーガニックな食品を大阪で根付かせたいと奮闘してきた自然食品店や八百屋とともに、「ツナグリ」というウェブプロジェクトを立ち上げた。緊急事態宣言で外出自粛を余儀なくされている消費者が、ぐりぐりマルシェの出店者の商品や、その他各ネットワーク店が持っている野菜や加工品を購入でき、遠くに住む人は「ぐりぐりネットショップ」を窓口にして購入、大阪市内在住など配達できるところは、八百屋や自然食品店などが自宅まで届ける仕組みを考えた。
 八百屋などにとっても、農家の商品を自分ひとりでは送料などのことを考えると仕入れづらいが、共同で仕入れることで、商品の単価も抑えられ、商品バリエーションも増え、購入者にも買い求めやすくなり、オーガニックな商品の流通量が増え、いいことばかりが増えていく。
 また、豊かな発想力をもってピンチをチャンスに変える空庭さんの姿、それ自体に勇気や活力を貰った人々も多いだろう。自宅待機中に抱いてしまう漠然とした不安や苛立ちでどうしても気持ちが後ろ向きになりがちだが、そこを前向きにさせてくれる彼女のキャラクター。これは、大阪ぐりぐりマルシェが長年支持され続けている大きな理由のひとつである。

今こそ「農のある暮らし」を
 全国的な学校休校が始まってから数日後、空庭さんは自身のSNSで「現時点で遊びに行ける、コロナ感染リスクの低い郊外の野外施設や農村」のリストを作成し投稿したところ、いつもの倍以上の数の閲覧数と感謝のコメントが寄せられた。遊び盛りの子どもがずっと家にいるということの健康リスクや親の負担を心配する気持ちから実行した個人的な投稿に、まさかこれほど反響があるとは。感染被害数と地域は日々拡大しているため、人口の密集していない郊外や農村が安全だとは今や決して言えなくなってしまったが、都市の人々の中に「農村へ遊びに行く」という選択がより具体的なものとして理解された瞬間であった。
 これは、空庭さんが語る「農のある暮らし」―家庭菜園や街の簡易な緑化といった都市部の自己満足ではなく、都市と農村・農家を生活の根幹でより深くつなげた上で消費と生産の循環を活発に行える、社会の動きそのものの様式―その理想形に近づくための大きな一歩。今という非常事態において再評価された「農」の可能性と、「お金をいい形でまわしたい」と呟きながら活動する彼女の姿に、わたしもまた大きく勇気づけられた。
 活動の詳細はウェブで「ツナグリ」と検索!

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空庭さん(大阪ぐりぐりマルシェにて)

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