【過去と未来の狭間のだめライフ】「不真面目さ」で社会に亀裂を入れる/立命館大学だめライフ愛好会
立命館大学だめライフ愛好会 やくーと(X:@addict_ykt)
昨年は「だめライフ」の年だった。4月ごろからSNSを軸に群発的に現れた「だめライフ愛好会」は、日本各地へと伝播し、23年11月現在、50団体を越えている。主に大学名を冠した「だめライフ愛好会」が多いが、地域や高校規模の単位でも散見することができる。「だめライフ」の全体像を掴むことは不可能だ。
ブームの立役者である「中央大学だめライフ愛好会」によると、活動目的とは、単純明快に〝だめ〟に生きればそれでいい」だけだ。〝良く〟生きるために頑張らなければ、自動的に「だめライフ」の完成だ。
このような簡単な活動スタイルを実現するためには何をしたらいいのか、何をしなければいいのか、という発想力で、「だめがだめでいられる場所」を基本的理念として様々な展開を見せている。大学構内に勝手に畑を作る者、路上飲みや路上鍋を開催し続ける者、スペースを借りてトークイベントを開催する者、特に外には出ずにSNSを更新し続ける者、などなど。
具体例に示したように、如何に「だめ」でいられるかという思想と実践は一様ではない。だが、1990年代以降に展開された「だめ連」や「法政の貧乏くささを守る会」からインスパイアを受けたものだと考えると、ヒントを得ることはできる。
これらの運動の新奇性は、従来の「真面目な」運動とは一線を画し、社会から逸脱した人間や諸々の理由から生きづらさを抱える人のライフスタイルに焦点を当てた、緩やかな脱国家的・脱資本主義的な運動という性質にあった。
ならば「だめライフ」もまた、過度な競争主義や自己責任論が蔓延し、資本主義に従順に適合した労働力商品とならなければならない、という観念に染まった現代社会に対し、「なるべく働かず、消費もしない」というスローでオルタナティブな生き方を、人々に提示する運動だと言えるだろう。
「失われた30年」の競争を拒否する
すなわち「失われた30年」とも言われる、希望の持てない日本社会に対する諦めが根底に存在し、そのアンチテーゼとして敢えて「だめ」さを前面に押し出している。残されたパイをめぐり過酷な争いに身を投じるのではなく、そこから一抜けして自分たちの領域、つまり「だめがだめでいられる場所」を広げることで、人々はより自由・自律的な生き方が可能となる。
現代社会では、結婚や子育てといったライフステージを着実にクリアし、なにも文句を言わずに定年まで働き続け、お上が言うことに唯々諾々と従わなければ「だめ」とされる。「だめ」な人間は社会から排除されると脅され、誰しもが生きづらさを感じているにもかかわらず、反旗は許されない。
その歪んだ社会を維持し続けている結果が、精神を病み自殺に追い込まれたり、不満のはけ口でハラスメント行為をしたり、他者に危害を加える犯罪に走る人々が多発する現状だ。ならば開き直り、「だめ」でいることに誇りをもった方が、より人間らしい生き方ができるのではないだろうか。
国家や資本と闘うのも、何もせず寝そべるのも同じ抵抗運動
こう考えると、国家権力やグローバル資本といった抑圧者と闘う姿勢をもつことも、まず自分たちの暮らしを守るため何もせず寝そべることも、どちらも両義的に「だめライフ」であると言える。
我々はただ「だめがだめでいられる場所」にいたいだけにもかかわらず、大きな反発や弾圧を招いている。大学内の畑は話し合いもなく大学当局に封鎖され、「安心・安全迷惑行為防止」を騙って公共空間でのあらゆる営為は規制された。再開発や都市のクリーン化によって、あらゆる人やモノが渾然一体となっていた猥雑な街は消滅しつつある。
もはや「だめ」に生きるだけでさえ許されない時代状況であるならば、必然的にそれらと闘わなければならない時も存在する。それは街頭に立ち、デモや抗議行動に参加することでもあるし、好き勝手に耕作やトークイベントを通じて交流の輪を広げることでもあるし、既存の全秩序を拒否して家に閉じこもることでもある。そういう多様性をお互い承認し、協同して徐々に現代社会にズレや亀裂を生じさせていく試みとして、「だめライフ」の意義が存在する。
とはいえ、生活や時間にある程度の余裕がある学生や若者によるものであり、首都圏や関西圏といった人的・経済的・文化的資本に恵まれた地盤においてしかあまり活発に動けないという現状も否定できない。過酷な労働者や、学生運動や対抗文化の土壌がない地方の学生には疎遠なのが「だめライフ」の課題だ。
そういった特権性を自覚しつつ、全国規模のネットワークを生かした交流活動や、反貧困運動や野宿者運動といった生活に焦点を当てた運動との連帯を模索しながら、「だめ」に生きられる人が少しでも増えるような社会へと変革していきたい。
(人民新聞 2024年1月5日号掲載)