チョムスキー(米国・言語学者)インタビュー/資本主義の自滅的危機 顕在化させたコロナ/The Wire(インドのネットメデイア) 2020・5・18

 インド農村部の生活危機に基づいた情報発信を行う「インド農村アーカイブ」のジャーナリストが、米国在住の世界的な言語学者・チョムスキーに、コロナパンデミックの元凶とその後の世界についてインタビューした。要約を紹介する。

削られた疫病対策予算

質問:世界で最も豊かで強力な米国が新型コロナウイルス感染症拡大を防げなかったのはなぜでしょう? 政権の失敗・体制的欠陥でしょうか?選挙に影響はありますか?
チョムスキー:まずパンデミックのルーツを考えましょう。これは予測された事態です。2003年のSARS(サーズ)感染拡大の後、科学者は変異したウイルスの襲来を警告しました。しかし、製薬会社も政府も動きませんでした。利潤の論理に合わなかったからです。
 トランプはCDC(疾病管理予防センター)の予算を削り、疫病に備える政府プログラムを次々と廃止したので、今回のコロナ疫病への準備はゼロでした。中国は早急にウイルスのゲノム配列を解析し、1月10日には適切な情報を公開しました。トランプは、知識人や医療専門家の意見を無視、単なるかぜだと放置しました。
 3月に入ってやっと腰を上げたときはもう手遅れで、死者はうなぎ上りでした。
 米国人は3つの打撃を受けたのです。それは、①資本主義の論理から、②野蛮なネオリベラリズムから、③国民の生命に無頓着な政府からです。トランプはその犯罪性と失政のために再選のチャンスを失うかもしれませんが、まだわかりません。

質問:IT技術も使った国家統制によって多くの国がコロナ感染と闘っていますが、国家権力の肥大化を心配する声が高まっています。
チョムスキー:複数の力が競っています。財界と反動的政治家は専制政治の復活を望み、人民はこれを契機にして、より公平で自由な社会に変わることを望んでいます。両者の力関係・闘争で未来が決定されるでしょう。
質問:困窮に追い込まれている人々を助ける対策が必要ですが、社会民主主義的な方向へ進むのか、それとも民衆には緊縮を求め、企業を救済する政策が維持されるのでしょうか。
チョムスキー:どんな経済対策が必要かは明らかですが、どのような対策が実施されるかはわかりません。このパンデミック発生に責任があるネオリベラル体制から恩恵を受けるエリートたちは、その恩恵を大きくする方向で動いています(訳注:トランプと製薬会社はワクチン開発の特許で一儲けする方向で動いている)。対抗的運動がないと、彼らの勝利となります。南側世界を巻き込んだグローバルな進歩的運動もあるのですが、いまだ未知数です。
 パンデミックからの回復はあるでしょうが、大きな犠牲が伴います。しかし、地球温暖化からの回復は望み薄で、このまま進行すると半世紀後には南アジアは人間が住めなくなるでしょう。

質問:疫病学者のロブ・ウォレスは、「営利企業が自然を侵略して人間と自然の対立を引き起こし、種々のウイルスが人間社会に流れ込んできた」と書いています。つまり資本主義の危機がパンデミックという形で顕在化し、もはやかつての「正常」へ戻ることはできないと言っています。
チョムスキー:彼の言うとおりです。生態環境破壊と土地乱開発が感染症を引き起こしたのです。多くの健康と命が危機に晒されたことで、資本主義の自滅傾向が明らかになっています。
 2003年のサーズの後、科学者が次のコロナウイルスの襲来を警告したのに、大製薬会社も政府も、目先の利益にならないので、その後なんら対策も研究もしなかった。そのくせ、危機時には、政府は企業を救済するのです。
 大製薬会社や政府に期待しても無駄です。現在の教訓を活かすには、企業を社会化して、労働者や地域社会の管理下に置いて、利潤でなく人間の必要に応じて生産活動をするようにしなければなりません。

利潤ではなく人間の必要満たす活動を

質問:国際連帯がなければパンデミックと闘えません。
 アジア人バッシング、中国非難、WHOへの拠出金停止、イランやベネズエラへの制裁強化、医療器具をめぐる競争など、特に米国中心に国際連帯とは真逆の動きが広がっています。米国の覇権の終焉を意味しているのでしょうか。
チョムスキー:ほとんどがトランプの悪あがきと帝国主義の醜悪な姿です。また、ドイツも比較的うまくコロナ疫病に対処したのに、同じEU仲間のイタリアにあまり援助の手を差し伸べていません。キューバがイタリアを援助していますが、キューバが示しているような国際主義が必要です。
 米国の覇権は、容易には終わらないでしょう。特に軍事面では世界最強です。パレスチナ問題で米国が示した「世紀の取引」に世界の国々も追従し、一つの支配構造になってしまうのです。
 米国の多国籍企業は世界の富の半分を支配しています。反米感情は世界に広がっていますが、まだ米国に太刀打ちできる国はありません。

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