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【定期連載】気候変動が新たな言葉を生む意味 「酷暑日」「超熱帯夜」「記録的短時間大雨情報」

Fridays for Future Osaka 代表/大阪の大学生 小林 誠道

 「厳しい日差し」「猛暑」「危険な暑さ」。近年を振り返って、これらの言葉を聞かなかった夏がありましたでしょうか。夏は暑い季節ですので、その他の季節に比べて気温が高く、暑さを体感すること自体は「普通のこと」ではあります。
 しかし近年、その程度がより厳しいものになっていることを、私たちは使う言葉からも体感しているのです。

 8月2日、日本気象協会が日中の気温が40℃以上の日を「酷暑日(こくしょび)」、夜間の最低気温が30℃以上の夜を「超熱帯夜(ちょうねったいや)」と呼ぶことに決めた。
 気象庁では、これらの気温を観測した日について呼び方を定めていないため、公的な呼び名ではありませんが、ここに新たな基準をもって気象に関する新しい言葉が生まれました。今年は東京都で初めて6月に3日間連続で猛暑日を観測し、話題となりました。今やこれまでの猛暑日、熱帯夜を超える暑さの日が頻発したことで、新たな表現の必要性が生じたことが新しい言葉が生まれた理由と言えます。
 8月は大阪府茨木市、京都府亀岡市などで「記録的短時間大雨情報」が発表されました。この情報は、現在降る雨が「稀にしか観測しない雨量」であり、地域ごとの雨量基準を満たし、かつ大雨警報発表中で、災害への危険度が高まっている状態でのみ発令されます。最近よく耳にする言葉かもしれませんが、その歴史は古く、1983年から発表されるようになりました(当時と呼称は変わっています)。

 最近になって耳慣れてきた言葉というのは、その現象がよく発生していることの裏返しです。気象庁は、温暖化によって、日の降水量が200㍉を超える日数、1時間当たり50㍉以上(=滝のように降る)の雨の頻度が増加傾向にあるとしています。こうした、災害を発生させうる降雨が増えてきたことが、「稀にしか観測しない」はずで、本来ならあまり聞くはずのない言葉を、耳慣れた言葉に変えてしまったのです。
 気候変動問題が注目されるようになって以降、気候変動問題に関わる新たな言葉や、これまで注目されてこなかった概念が注目されるようになりました。例えば、英オックスフォード辞書において、2019年に最も検索された言葉は「Climate Emergency」(「気候の緊急事態」の意味)です。この年は、9月に開催された国連総会でも気候変動問題が中心の議題となるなど、気候変動問題への関心が特に高まった年であり、多くの人が「気候の危機」という言葉に関心を持ち、注目していた証左でもあります。

 今回ご紹介した気象に関する言葉以外にも、さまざまな状態を示す言葉はありますが、言葉は日々生まれ、使われなくなったものが廃れていきます。私たちがこれから生きる社会は、気候変動の影響を受ける社会であり、それによって「言葉が変化する」社会なのです。
 日本人にとっての「気候の危機」が迫っていることは、日本語の表現で気候・気象を指す言葉が変わってきていることからも体感できるようになってしまいました。
 これから先の未来では、また新たな気象現象にまつわる言葉が生まれることでしょう。苛烈な気象現象に対する新しい言葉が生まれなくなった状態が、気候変動対策の成果を確認する一つの指標になるかもしれません。

(人民新聞 9月5日号掲載)

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