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米国/労働者はパンデミックを変革への引き金にできるか/デーヴィッド・アンガー レーバー・ノーツ2020年4月3日/翻訳・脇浜義明

 コロナパンデミックが世界を襲っている。こういう場合いつも犠牲の矢面に立つのは、周辺部の人民や労働者である。今や危機の中心地となったニューヨークでは、見えない存在だった人々、食堂の店員、配達員、運送者、病院の雑役係などが感染していくニュースが、新聞紙上を賑わしている。気が滅入るニュースである。しかし、歴史が何か教えてくれるとすれば、この危機と犠牲から変革が生まれるかどうかだ。   (脇浜)

転換点のトライアングル工場火災

 1911年3月25日、ニューヨークのトライアングル・シャツウエスト工場の9階で火災が起こり、移民女性労働者146人が死んだ。経営者が盗難防止のために非常口のドアを鍵で閉じたために、焼け死んだり窓から飛び降りたのだ。経営者の防災意識と人間尊重意識があれば助かったかもしれない命の灰の中から、労働者を使い捨てにする権力構造に対する運動が生まれた。
 新型コロナウイルス感染症も、国や経営者が働く人々への扱いを変える「変革の引き金」になるであろうか。名もなき労働者は、社会と経営者にとって「基本的に大切な」存在だ。だから、感染の嵐が吹き荒ぶ中でも勤務させられる。
 ニューヨーク市のグーグル事務所の建設現場の電気工が、コロナで死んだ最初の建築労働者となった。無用で贅沢な高層ビルの建設に反対する運動があったのに。翌日には、マウント・シナイ病院の看護師がコロナで死んだ。同病院では、防護服がないので看護師たちはゴミ袋を纏って働いていた。
 今週、運輸労働者組合支部100の組合員8人が死亡した。ニューヨーク公共交通機関局の労働者330人が検査で陽性の判定を受けた。すでに自宅隔離処置を受けている人は2700人。これらはすべて、公共交通局の労働者がマスク配布を要求していたのを、当局が拒否したことから起こったことだ。
 食品サービス業や飲食店の労働者も衛生的に保護されていないため、一般市民への危機となっている。新型コロナウイルス感染前には、有給病気休暇があった食品サービス労働者は僅か25%であった。2014年の疫病予防管理センターの報告書は、下痢や嘔吐を抱えて働いた労働者が20%もいるというニューヨークタイムズの記事を引用していた。
 トライアングル工場火災が、米国労働運動史の転換点になったことを思い起こそう。火災後の闘いで、企業の防災設備や訓練の法制化、建築基準の改善、労働環境の改善、衛生設備改善、団体交渉権、労働時間短縮などが勝ち取られた。

相次ぐストライキ今こそ権利を

 新型コロナウイルス感染悲劇が、変革への引き金となるであろうか。
 ピッツバーグ市の清掃作業員たちは、防護服と付加給付を求めて山猫ストを敢行した。アマゾン、ホールフーズ・マーケット、インスタカートの労働者は、パートタイマーにも有給休暇、安全な労働条件、健康保険の保障を求めるストライキ闘争を行った。チポトルの労働者も、病気休暇と職場の衛生化を求めてスト。ゼネラル・モータースの労働者は、自社工場で人口呼吸器を製造せよと会社側に要求している。ホールフーズのスト指導者は「同じようなストが各地で起きている。これらを一つに合流させて、大きな波にしよう」とツイートした。
 感染の危険の中で働かされている労働者は、鍵で閉じ込められたトライアングル工場の労働者と同じ状況にいる。予防措置もない状態で犠牲者が増えていく事実に、社会も政府も目を閉じられなくなり、それに運動の拍車がかかれば、何らかの変革が生まれるかもしれない。目に見えなかった労働者が、目に見える存在に変わるかもしれない。
 しかしいつものことだが、経営者はそれに抵抗するだろう。政府はすでにコロナ対策を利用して組合潰し、国境管理強化、食品安全規制や環境規制の引き下げを推し進めている。経営者は組合との協約破棄、賃金や年金積立額の切り下げを行っている。100年前の闘いと同じように、この悲劇を長期的変革へのきっかけになるように運動を盛り上げないと、労働者は多くを失うことになる。

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