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【神戸大 小笠原教授に聞く】五輪がらみで相次ぐ逮捕  「浄化宣伝」使って着々と進む万博利権構造

神戸大学国際文化学研究科教授 小笠原博毅

 巨大な利権の闇でのやり取りは、メガイベントに必要不可欠だと証明された。8月17日、東京五輪の大会組織委員であった高橋治之元理事が、東京地検特捜部によって受託収賄の容疑で逮捕されたからだ。
 相手は日本選手団公式ウェアの供給先だった、紳士服大手「AOKIホールディングス」。両者の間で5100万円の賄賂が動いたという。AOKI創業者の青木拡憲前会長、弟の青木宝久前副会長、上田雄久専務執行役員も贈賄容疑で逮捕された。
 問題は二つある。まず、五輪自体が終わった今、なぜこの事実が明らかになり、マスコミはまるで神聖な五輪を汚した張本人であるかのように高橋一人を悪者に仕立てているのか、ということ。 
 1970年代から世界のスポーツビジネス界に太いパイプを築き、IOCやFIFAなどに顔の効く高橋が東京五輪招致運動から交渉の中心にいたことは、とっくの昔から周知の事実だった。何が行われているか、誰が誰と繋がり、何がやり取りされているか、多くの報道関係者はすでに詳細にたどり着いていたはずだ。竹田恆和元JOC会長/IOC委員の汚職疑惑の渦中にも、高橋がいたことは知られていた。
 だが、大手新聞社がこぞってスポンサーとなるという未曾有の五輪は、詳細の報道を許さなかったのではないか。
 次に、マスコミはとにかく五輪を「成功」させることを優先し、見て見ぬ振り、聞いて聞かぬふりを決め込んできた。このマスコミの「あえての」機能不全は、25年大阪万博を前に、メガイベントへの不信感から目をそらすために修正される必要が出たのではないだろうか。高橋一人を「膿」にすることによってそれを出し、「事は正された、万博は大丈夫」という空々しい浄化言説の喧伝になっているのではないか。
 大阪万博の組織化の裏で、電通規模の利権マシーンが動いていたかどうかは明らかではない。だが生命科学、医療、情報各技術を畑にする「バイオ資本主義」を前面に押し出す今回の万博が、個人情報を医療から交通にいたるあらゆる利益創出回路に紐付けする「大阪スーパーシティー構想」へと連動していることは、すでによく知られている。
 笑えないジョークにもほどがある。コロナ禍で最もシビアな打撃を受けたのは、大阪だと言っても過言ではないからだ。保健医療財源や人材の大幅カットによって、医療崩壊を招いた維新府政/市政を目の当たりにしているにも関わらず、その都市が「万博で医療やへルスケアサービスの未来形を発信する」と息巻いても、一体誰が信用するだろうか。

現実乖離を超え現実を上書きする万博
「自分に関係ない」はやつらの思うつぼ

医療崩壊への維新の会の言い分は、自らの失策ではなく、「制度疲労が悲劇を招いた」というものだ。だからこそ万博を機に投資を呼び込み、制度設計をし直す、と訴えてくるのも不思議ではない。グローバルなメガイベントは、ローカルな都市の統治と不可分だからだ。
 コロナに対する規制緩和が、コロナによって起きた出来事の検証緩和になってはならない。医療崩壊は起きてしまった。いのちを救えず、いのちに力を与えることもできず、いのちをつなぐことにも失敗した大阪が、「いのち輝く未来社会のデザイン」を提供できるわけがない。それは皆わかっているのだ。
 生活世界の現実と乖離した出来事は、時としてユートピアの夢となる。だがその夢が現実と乖離しているだけではなく、万博のように現実を上書きして余りあることがある。人々がそれに気付いた時、ユートピアはディストピアへと反転するどころか、自分自身とは関わりのない「パラレルワールド」になってしまう。実はそれこそが、万博に群がる「やつら」の思うつぼだ。東京五輪の二の轍を踏んではならない。

(人民新聞 9月5日号掲載)

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