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【逃げる松本 口ごもる飯塚】キングオブコントに見た審査員の資質(編集後記)

 先日、「キングオブコント(KOC)」というコント日本一を決めるお笑いの大会がTBSテレビで放送された。私はお笑いが大好きなので、テレビにかじりついて見ていた.

 4組目に「いぬ」というコンビが登場した。トレーニングジムでトレーナーと生徒が恋に落ちるという設定のコントを披露。トレーナー役が髭の濃い個性的なビジュアルをしていて、2人が何度も甘いキスを重ねるのがスタジオの大きな笑いを誘った。
 コントが終了し採点が終わると、審査員からのコメントがあった。東京03の飯塚が「めちゃくちゃ笑ったが、キスは禁じ手だと思う」と話した。すると司会をしていたダウンタウンの浜田がどういう意味かと尋ねる。飯塚は答えに窮し、「そういう意味で点数を下げた」と繰り返すのみだった。
 ここで浜田は非常にいい働きをしていた。審査員は若手芸人の将来を左右するポジションにあるにもかかわらず、これまで言いっ放しが許されていた。ネタが何か物足りなければ「もう一展開あれば得点が伸びたのに」と言う。そうすればそれっぽい審査をしたことになる。しかしこれでは若手芸人たちは何をどう改善していいかわからないままだ。審査員にはその「あったら良かったもう一展開」を説明する義務があるのではないだろうか。そういう不親切な解説を度々目にしていた。
 だが飯塚が言いたいことも分かる。芸人はネタの構成や独特の間、そこから生まれる演技力が「面白さ」を生み出す。その点、キスは芸人の腕前に関係なくそれ自体が面白いので、キスをアリにするとテクニックと関係ない力技の大会になる。そういうことを言いたかったのだろう。

逃げる松本 逃がさぬ浜田

 また5組目の「ロングコートダディ」では、松本人志が全コンビの中で一番低い90点をつけていた。浜田は採点理由を松本に聞くのだが、松本は「今日はレベルが高い。90点は全然高いんですけどね」と答えた。この時、松本はいかにも「これ以上説明できないから俺に話を振るな」というオーラを醸し出していて、それは画面越しにも伝わってきた。後輩芸人なら松本の空気を感じ取って、違う審査員に話を振っていたかもしれない。しかし松本の思いを知ってか知らずか、浜田は再び松本に質問を振る。
 「他の人(審査員)たちは90何点つけてますけど」
 そうなのだ。いくら全組のレベルが高かったと言っても、結果は他のコンビより点数を低くつけたわけで、松本には「他のコンビと比べて何が足りなかったのか」を説明する義務がある。結局松本は冗談で返すのみで、説明はせずに終わった。
 今回の一件で、審査員は身に染みたはずだ。試されているのはコントを披露する若手芸人だけではない。我々も審査の基準を明確に説明できなければならない、と。
 お笑いは非常に感覚的なもので、個人によって嗜好が全く違う。説明は難しいのかもしれないが、若手芸人の努力に対して、伝える努力をするのがせめてもの礼儀だと思う。 (編集部・朴)

(人民新聞 10月20日号掲載)

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