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作戦術って結局なんなんですかね

まえがき

動機:JP 5-0を読んでいて、なんだこれってなったので書き始めた
目的:定義を明確にして、関係性を導くこと

定義を明らかにする

作戦

戦略と戦術の中間に位置する概念
「軍隊の戦術的用法を国家の目的に関連付ける」中間のレベル

戦役 campaign

A series of related operations aimed at achieving strategic and operational objectives within a given time and space.
与えられた時間と空間内における関連した一連の作戦であり、戦略及び作戦目標の達成を目的とするもの

作戦術 operational art

The theoretical construct of operational art combines characteristics of the tactical and strategic levels of war while providing a linkage to make tactical actions serve strategic ends.
作戦術という理論構造は、戦術レベルと戦略レベルの特性を結合し、戦術的行動が戦略的目的に従うようにリンクを提供する
(定義ではない。概念の説明。)

Operational art ensures this harmony of effort by translating abstract strategic goals into mechanical terms that commanders can then accomplish.

In this way, operational art serves as the “mediating, integrative synthesis standing between modern strategy and tactics” and “ensures that the arrangement of tactical actions is not random, but more importantly, that the device that always and everywhere unites the arrangement of tactical actions is the pursuit of the strategic objective, not some other factor.”

作戦デザイン operational design

The conception and construction of the framework that underpins planning.
計画立案作業においてフレームワークの概念化と構築を下支えするもの。

作戦アプローチ operational approach

A broad description of the mission, operational concepts, tasks, and actions required to accomplish the mission.
任務の完遂のために必要とされる、任務、作戦コンセプト、タスク、そして行動に関する幅広い説明。

それぞれの関係性は

戦役とは、戦略目標を達成するために作戦を空間的、時間的に適切に配置したものです。
通常、割り当てられたAOR、つまり戦域(Theater)が指定されます。
つまり戦役の目的は、戦略と戦術を結びつけることにあり、その仲介役を担う作戦術は、この戦役を組み上げる術(Art)である、というのが現段階での理解です

戦略との接続がわからないという疑問については一つの回答を持ち得たためここに書きあらわします
端的には、戦略は1軸のものしか持ち得ないが戦役は複数の軸が発生しうるというものです。
戦略の1軸とは、すなわち時間軸です。現在(もしくは過去)から未来に渡って行われる武力紛争において、その時点で主体を国家(もしくは軍、この主体は政戦略とか大戦略、戦略によって変動しうる)としたとき、主体が単体であると考えられるならば、その軸は単一のものとなります。
一方で、戦役とは任意の戦域(AOR)という空間において行われるものです。戦域とは、武力紛争においては必ずしも単数ではありません。この戦域という空間において主体となるのは現代であれば統合軍や統合任務部隊が例として挙げられます。
これが複数存在するとき、その軸も複数となることがわかります。
以上より、戦略を戦役と等号で結ぶことはできず、あくまで連接された関係にあると考えることができます。

戦略は1軸、戦役は多軸

作戦術が戦役をつくる技術であるということはわかりました。
そのうえで、現在の米軍が考える作戦術の手法として作戦デザインや作戦アプローチという概念があるようです
これらの定義は先程確認しましたが、何を言っているのかよくわかりませんでした。
これらを真に理解するためには「デザイン思考」についての知識が必要であるようです。

「新しい」思考法で考える

おさらい。

作戦デザイン operational design
The conception and construction of the framework that underpins planning.
計画立案作業においてフレームワークの概念化と構築を下支えするもの。
作戦アプローチ operational approach
A broad description of the mission, operational concepts, tasks, and actions required to accomplish the mission.
任務の完遂のために必要とされる、任務、作戦コンセプト、タスク、そして
行動に関する幅広い説明。
(作戦デザインにおける最初のプロダクト)

???

デザイン思考、アート思考とは…

VUCA時代において「正解のない問いに答えを出す能力、つまり、不確実性の高い状況において、その問題の本質を突き止めて、納得感ある回答を導き出すこと」が能力として求められている、というのはビジネス分野においても同様のようです。
そのような不確実性が高く厳しい「戦場」である社会を渡り歩くためには、既存の思考法では対応できません。そこで現在提唱されているのが以下の2つの思考法です。

デザイン思考(デザインシンキング)とは

発生した問題や課題に対し、デザインを行う際に必要な考え方と手法で解決策を見出すこと。2005年にスタンフォード大学によって創設されたd.school(正式名:The Hasso Plattner Institute of Design)が提唱したことにより世に広まった。

デザイン思考は、以下の5つのプロセスを経る。
(1)観察・共感(Empathize)
(2)定義(Define)
(3)概念化(Ideate)
(4)試作(Prototype)
(5)テスト(Test)

簡単にいうと、人々のニーズを観察した上で課題を定義し、アイデアを出し、そのアイデアを元にプロトタイプを作成し、実際に顧客やユーザーにテストを行いながら試行錯誤を繰り返すことで、新たな製品やサービスを生み出し、課題解決につなげるというプロセスである。

デザイン思考は、単に表面化した問題や課題を解くのではなく、製品やサービスを使うユーザーの立場から考え、根本的な解決策を探るのが特長。またプロジェクトにかかわるすべてのスタッフがそのプロセスに参加することで、スタッフのモチベーションが向上するといわれている。デザイン思考の代表的な事例として挙げられるのは、AppleのiPod。社内のデベロッパーと社外のデザイナー、心理学者や人間工学の専門家など30数名が集結し、わずか11カ月で開発されたといわれている。

https://mypage.otsuka-shokai.co.jp/contents/business-oyakudachi/words/design-thinking.html

しかし、デザイン思考には弱点もあるようです。
それはすなわち、「0から1をつくる」ことができないということです。
観察するニーズがなければデザインを進めることができないからです。
この問題に対し、アート思考は新たな切り口から解決策を見出します。

「アート思考」は、アーティストの自己や価値観の表現を基にした考え方で、自分起点、自分軸の考えかたを重視しています。

https://udemy.benesse.co.jp/business/skills/art-thinking.html

アート思考とは、アーティストが作品を創造するときと同じプロセスを用いた思考法のことです。アーティストは、自己の内部にある感情や感覚を起点として、湧き上がってくる想いを表現することによって作品を生み出していきます。そして、作品を通じて社会に問題提起し、人々の感情を動かします。
自由に発想を追求していくアーティストの思考法をビジネスに応用し、これまでにない革新的な商品やサービスを生み出していくのに有効だと考えられています。

https://www.hr-doctor.com/news/management/engagement/news-10447?content=news-10447

アート思考は、全く新しいものを0から生み出す思考法ですが、これを自然に生み出す「天才」を待つのではなく、誰でも実行可能とするためのフレームワークも提唱されています。

京都大学と凸版印刷が提唱する「アートイノベーションフレームワーク(TM)」

凸版印刷と京都大学は、アートと先端技術を融合させて社会に新たな価値を生み出す研究を進めており、そこで提唱されたのが「アートイノベーションフレームワーク(TM)」です。

アーティストの思考ロジックをフレームワーク化し、それをビジネスシーンにおける新たな発想に結びつける思考法が「アートイノベーションフレームワーク(TM)」です。

「アートイノベーションフレームワーク(TM)」は、以下5つのプロセスで実践されます。

(1)発見
自分が「面白い」「美しい」「もっと知りたい」と感じるものを発見していく。顧客などの他者ではなく、あくまでも自分の主観を追求する。
(2)調査
発見した対象について、他に類似の物がないかを調査確認していく。これまでにないユニークであることが重要とされる。
(3)開発
対象となるものを自分のオリジナルなものにして、ビジネスに応用する手法や表現を検討していく。
(4)創出
イメージを膨らませて、これまでにない新しいビジネスプランになるようにアウトプットをしていく。
(5)意味づけ
アウトプットされたものを、他の人にも理解してもらえるように、背景や意図などを言語化し、他者からの評価を受ける。

5つのプロセスに基づいてアート思考を実践し、ビジネスに応用していこうとする試みです。

https://www.hr-doctor.com/news/management/engagement/news-10447?content=news-10447

ちなみに、アート思考のデメリットは
・思考についての共通認識を得ることが難しくチームプレーに適さない
・論理的な説明がしにくく、周囲の理解を得づらい

が挙げられています。

このほか、ロジカル思考(論理的思考)とかがあるようです。クリティカル・シンキングはそのための方策だとか。おそらく従来の思考法がこれに相当するはず?(要出典)
今後もこのような「新しい思考法」はいろいろ出てきそうな気がしますね。
この分野のウォッチも軍事における新機軸を得るためには必要なのかもしれません。

あとがき

とんでもねえプロジェクトになってきたので一旦JP 5-0部分はお蔵入りとしてまとめとします。
本稿で作戦術に関する理解が深まることを願います。
ただし半分くらい自己解釈が入っているので注意。
(できる限りJPに寄せたつもり)
デザイン思考やアート思考については全然理解していないのでより詳しく調べたものを書いていきたいです。

雑感
いちいち訳して2重で単語を記憶するから余計な脳のリソースを取られる
そもそも「定義は何?」って思う発想がしょぼい
コンセプトそのものを脳に正しくインプットするほうが大事

参考文献

Joint Publication 5-0 Joint Planning
https://irp.fas.org/doddir/dod/jp5_0.pdf

CAMPAIGN PLANNING HANDBOOK Academic Year 2020
https://publications.armywarcollege.edu/wp-content/uploads/2022/11/3706.pdf

作戦術による戦史分析―日本陸海軍の協同作戦を事例として―
https://www.mod.go.jp/msdf/navcol/assets/pdf/ssg2020_12_06.pdf

作戦とデザイン思考・アート思考
https://www.mod.go.jp/msdf/navcol/assets/pdf/column208_01.pdf

今後の日本防衛に求められる新思考-米軍の「作戦デザイン」と「競争継続」に学ぶ-
http://anpokon.or.jp/pdf/kaishi_781.pdf

「作戦術」に見るイノベーション技法-軍事における「作戦デザイン」と経営における「デザイン技法」の比較-
https://www.mod.go.jp/msdf/navcol/assets/pdf/ssg2020_12_03.pdf

A History of Operational Art
https://www.armyupress.army.mil/Portals/7/military-review/Archives/English/ND-18/Blythe-Operational-Art.pdf

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