ある起業譚

(この物語は、個人の起業体験を元にしたセミフィクション(半分はフィクション)です。登場人物、固有名詞は実在の人物や名称とは異なります)

■個人事業スタートアップ
1995年7月某日
 昨日、11年間勤めた会社を辞めた。会社に大きな不満があったわけではない。むしろ自分をここまで育ててくれた会社にはとても感謝している。おそらく会社を辞めて起業するという人生の選択が出来たのも、この会社にいたからだと思う。
 起業の理由は、自分が興味を持ったビジネスが、今までの会社のドメイン(事業領域)から外れるので会社ではできないこと。その興味を持った事業とは、「インターネットを使った個人向けの情報サービス業」。
 もちろん、会社時代にも先輩や上司にも、新規事業の可能性を相談したが、やっとプロバイダー事業が出現したばかりの業界で、サービスで儲けられるわけない。パソコン通信と同じで個人の趣味程度にしか発展しないという意見ばかりだった。

 私とインターネットとの出会いは、会社内にあった研究所でのインターネットメールの利用。それまでのパソコン通信でのメールのやり取りと違って、実に使いやすい。特に感激したのが、ワープロ文書などを添付して送ることができる点。これがあれば、会社に行かなくても研究職の自分は家で仕事ができると直感した。それ以来、このインターネットの可能性に魅了されていった。そして何とかこれでビジネスができないかと考えて起業したというわけである。

私は東京郊外のニュータウンに住んでいる。会社に勤めていたときは、毎朝1時間半近くをかけて通勤していた。始発駅が近いので、運が良ければ座れるのだが、片道1時間半、往復で3時間の通勤はやはり大きな負担だった。このことも会社を辞める一つの理由でもあった。しかし、今日からはもう通勤をしなくていい。自由だか、ちょっとだけ寂しいような不思議な感覚につつまれた。



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