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なぜ保険証をマイナンバーカードに変えるのか?元厚生労働省室長が、その先の医療DXを解説

みなさんも、ニュースなどで、紙やプラスチックの保険証がマイナンバーカードに変わる、保険証の代わりとなる資格確認書、などというのを聞いたことがあるのではと思います。
では、なぜ今まで慣れ親しんだ保険証を、これだけの手間とお金をかけてマイナバーカードに変える必要があるのでしょうか?紙を無くすことがその目的でしょうか?
実は、その先にある医療DXにとって、マイナンバー(カード)は、文字通り、「鍵」の役割を果たします。


現状の保険証の課題から見ていきましょう。

保険証の課題

不正利用:

保険証が他人に利用されるケースがあり、これにより不正な医療費請求が行われるリスクがあります。特に紛失や盗難にあった場合は、悪用される可能性が高まります。古い情報ですが、保険情報の誤りや不正使用は、全国で年間600万件にも上っており、その処理のための経費は1000億円を越えると推定されています(厚生労働省科学研究成果データベース)。

情報の正確性:

保険証は紙媒体であるため、住所変更や就職・退職などで保険者が変わると、新しい保険証が届くまで時間がかかり、医療機関での資格確認が困難になることがあります。これが患者の負担となり、医療の提供に遅れが生じる場合もあります。

データ共有の制限:

保険証自体には患者の医療履歴や過去の処方情報が含まれていません。そのため、医療機関で診療を受けるたびに患者情報を医療者が個別に聞き出す必要があり、診療が効率的でない場合があります。

事務手続きの煩雑さ:

保険証の確認は各医療機関の事務作業に依存しており、資格確認が非効率になることがあります。マイナンバーカードを保険証として利用するオンライン資格確認システムの導入は、こうした手続きを効率化することが期待されています。

マイナンバーカードのメリット

それでは、マイナンバーカードの保険証として使うとどのようなメリットがあるか見ていきましょう。

利便性の向上:

マイナンバーカードを保険証として利用することで、診療のたびに異なる保険証を持ち歩く必要がなくなります。また、全国の医療機関で共通して使えるため、患者がよりスムーズに診療を受けられるようになります​ 。

医療の効率化:

オンライン資格確認システムを導入することで、医療機関側も保険の有効性を迅速に確認できます。これにより、手続きが簡素化され、医療機関の事務作業が効率化されます。

医療データの共有:

電子カルテや診療情報のデータ共有が進み、患者の過去の診療歴や薬の情報を把握しやすくなることで、医師が適切な治療を提供できるようになります​

不正防止:

マイナンバーカードの利用により、他人の保険証を使った不正利用を防ぎ、セキュリティを強化します。
このように、マイナンバーカードの保険証利用は、患者の利便性と医療の効率化を両立し、医療全体の質の向上を目指しています。

マイナンバーは、ネット空間上での身分証明書でありハンコ!

あなたが実生活で自分の身分を証明する時、例えば銀行口座を開く時に、これまで何を持っていっていましたか?多くの人は、運転免許証などの身分証明書と印鑑ではなかったでしょうか。
もし自分の身分証明のために、近所のクリーニング店の会員証を提示して、受け入れてくれるでしょうか?ほとんどの場合、断られますよね。つまり、自らの身分を証明する場合、これまでも公的機関が発行する証明書と、同意や意思の確認として物理的な印鑑(による押印)を用いてきました。

ではネット・サイバー空間上ではどうでしょうか?ネット空間では、実際に顔が見えない分、よりなりすましが容易にできてしまいます。押印のような物理的な行為は難しかいいですよね。実は、これまで、ネット空間上で、「自分を自分だと証明し、自分の意思や同意を確実に伝える」ことは大変難しかったのです。

公的個人認証サービスとは?

マイナンバーは、ネット空間で、公的な身分証として使うことができます。公的個人認証サービスは、マイナンバーカードのICチップに内蔵された電子証明書を使用し(マイナンバー自体は使いません)、オンライン上で利用者本人の確認や文書の改ざんがないことを認証するための、安全で確実な本人確認サービスです。行政機関だけでなく、民間事業者のサービスでも導入されています。

また、この電子証明書を利用して電子署名を生成します。電子署名を使うことで、オンラインでの文書が改ざんされていないことや本人がその文書に同意していることを証明できます。つまり、ネット空間上で、ハンコが押せる、署名ができるということです。

実際、個人事業主の方などは、確定申告でeTaxでマイナンバーカードを使われて、その便利さを実感した人もいるのではと思います。

このサービスを使うと、顧客サービスの向上や事務コストの削減などの効果が期待できます。たとえば、顧客は本人確認書類の記入や郵送にかかる手間と費用を削減でき、民間事業者は書類の受付や審査の作業を軽減できます。

現在、公的個人認証サービスを利用する民間事業者は447社(2023年6月1日時点)あり、銀行口座の開設やローン契約など、多様な場面で利用されています。

マイナンバーで、医療がどう変わるか?

政府は、紙の保険証を廃止するためだけのために、わざわざマイナンバーを保険証にしたいのでしょうか?答えは、Noです。
上記のように、マイナンバー(カード、正確には公的個人認証サービス)により、公的個人認証サービス、すなわちネット空間上での身分証が使えることになります。
このネット空間での身分証であるマイナンバー(カード)を鍵として、マイナンバーポータルをアクセスすることにより、自分の医療に関するデータを見られるようになります。これを、政府は「医療DX」と呼んでいます。

引用:厚生労働省

実は、すでにいくつかの医療情報は、すでにマイナポータル上で見ることができます。ぜひ、一度、マイナンバーカードをスマホにかざして見てください!医療DXが、こんなに身近なところで始まっていることに驚くかもしれません。

マイナポータル

私は、ただ情報が見られるだけではなく、このデータを活用して、誰もが望む健康という新しい価値をイノベーションを通じて創出したいと考えています。このお話は、また今度。。。

デジタル化の真の価値

もちろん、まだまだ政府側のシステムは改良が必要ですが、何事も、システムが導入された際は不都合や不便さがあるものです。私たちが世界に誇る医療を次世代にわたり繋いでいくためには、医療DXによる医療・社会保障の持続可能性の確保が急務です。今、我々の世代が、失敗を恐れ、手間をかけることを嫌がり、システムを変えずにいれば、確実に、私たちが受けた医療制度は確実に崩壊してしまいます。
私個人としては、子や孫の世代に良い社会をバトンタッチするために、少しくらいの不便は受け入れて、より良い医療を残すことに貢献したいと思っています。

医療機関にとっても、デジタル化は設備投資や業務フローの変更など、さまざまなコストや課題が生じることとなります。これらについては、追って解説したいと思います。

次回以降、この医療DXについて、解説していきたいと思います。

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