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根源を問う~哲学のススメ

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哲学書のレビュー集です。自身、専門家ではないので、比較的読みやすい本の紹介や、読みにくいものであっても非専門家の言葉で噛み砕いていきます
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2020年7月の記事一覧

やっぱり正義はこの一冊から~『これからの「正義」の話をしよう』

ハーバードのサンデル教授の人気講義が書籍化されたもので、日本でも随分と昔に大きく話題になっていたのだけれど、読むタイミングが無かったので、今さら読んでみた。 サンデルの講義といえば、学生との掛け合いの中で正義にまつわる重要な問いや本質を引き出していく問答法のようなイメージを持っていたが、本書はそういった類の対話篇的な構成ではなく、普通にしっかりした講義資料のようなもの。 正義にまつわる主要学説と議論を丁寧に拾ってゆき、身近な例での思考実験や、現代社会における重要テーマと結

【書評】『宮下草薙の不毛なやりとり』・ベルクソン・道<タオ>

不毛なやりとりが引き起こす"笑い"には、いのちあるものの優美さが、そして、そのささやかな抵抗が、照らし返されているのかもしれない。 本書は、人気お笑いコンビ「宮下草薙」の二人が雑誌『TV LIFE』上で定期連載しているコーナー『宮下草薙の不毛なやりとり』を、同名で書籍化したものである。本人たちのインタビューや先輩芸人との対談を併せて収録しているが、全25話にわたって繰り広げられる不毛なやりとりが、とても面白い。 そのすべてが例外なく、宮下と草薙の何気ない日常会話の1シーン

文庫クセジュで読む決定的入門書~『ベルクソン』J・L・ヴィエイヤール=バロン

ベルクソン入門書はさまざま調べたが、本書が最良との声が多く、手にとった。この孤高の哲学者の思考の足跡を丹念に追い、主著で展開される淀みなく明晰な思想を順を追って紐解く。 たしかに、これはとても良くまとまっている。 この文庫クセジュ、フランスの著名な叢書シリーズで、一般大衆向けの歯ごたえのある入門書を沢山出しているかなり歴史があるシリーズである。近現代のフランス思想に強く、白水社による日本語版も累計1000点を超える。新書ながら専門書としての読みにもちゃんと耐えうる本格的な

哲学史の不滅の金字塔~アリストテレス『形而上学<上>』

哲学史に燦然と輝く大著で、「存在」「実体」「本質」を扱う形而上学の学問としての始まりの書。バラバラな論文や講義ノートを一冊にまとめた、全14巻から成るもので、岩波版上巻には、1-8巻までが収録されている。 精読/写経しつつ1日平均2pずつ読んで、上巻が終わるのに8ヶ月ほどかかった。概説書や入門書の類は特に読まずに、いきなり原著に当たったのだけど、これまで読んだ本の中で一番じっくり読んだ本になった。ズブの素人で本書を一字一句漏らさず精読した人、自分以外に過去ほとんどいないん