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思想で読み解く企業経営

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単なるビジネス書ではなく、企業や事業の構想や理念など、上流にある思想的な部分を、人文学における思想などと絡めて読める本を紹介した記事を集めます
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#ビジネス

道理と中庸の経営哲学~渋沢栄一『論語と算盤』

やや古めかしく晦渋な本だが、資本主義の虚しさと手元業務の虚しさの狭間でグルグルしてしまうビジネスパーソンは、本書が1つよすがとなるかもしれない。 まず、著者の渋沢栄一(1840-1931)は、日本経済の父とも日本の近代資本主義の父とも言われている人物である。日本初の民間銀行である第一国立銀行(現みずほ銀行)や東京証券取引所、理化学研究所などを始め、帝国ホテル、キリンビール、東急、東京海上、王子/日本製紙などなど、渋沢が設立に携わった企業は500社以上に登る。青年時代にフラン

雑感:『種の起源』で考える、VUCA時代の市場競争

昨日の書評記事で書いた種の起源について色々と思考が巡ったので、論旨ぐちゃぐちゃな雑感だけど文字に残しておくことにする。 本書の主な仮説を再掲すると、以下。 『種の起源』における著者の仮説を一文でまとめると、生物の「個体差」と、激しい生存競争による「淘汰圧」が自然選択(=生存に有利なものが生き残ること)を生み、その積み上がりとしての個体差の選択的拡張が進化を生む、となる。 この話を、わりとポピュラーなネタとしての、ビジネスの競争原理/競争戦略へのアナロジーとしても考えてみ

大衆文化を生む経営~『セゾン 堤清二が見た未来』

「セゾン」という単語は知っていた。ただ、たった1代で、200社-4兆円にも届く巨大企業グループを築きあげた異能の経営者堤清二については、本書を読むまで寡聞にして全く知らなかった。 著者の日経記者時代の取材と、豊富なリファレンスに基づくセゾングループの社史であり、堤清二の解剖記録でもある本書。ビジネス書としてはまぁまぁな出来であるが、財界/民間から国と社会の文化をどう睨み、どう導いていくかを示す文化論としては打って変わって相当面白く読めた。そして、”ビジョナリー”堤清二のスケ