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湖東記念病院人工呼吸器事件(2)

なぜ冤罪になったのか

湖東記念病院人工呼吸器事件(1)では、事件の時系列を追って全体像を
見たが、ここでは、西山さんの特性や供述内容等を見ていく。

【西山さんの特性】
軽度知的障害、発達障害(注意欠如多動症)、気分循環性障害を併存。
知的障害者は、権威者に依存する傾向があるほか、回答方法や範囲が限定された質問に対して誘導されやすい特性があり、西山さんにも同様の特性が認められる。
また、性格的な特徴として、愛着障害がある。生来の知的・発達障害のために目の前の出来事に捉われ、自分の言動がどのような結果を招来するのかに考えが及びにくい中、長年持ち続けていた劣等感と表裏一体をなす愛着障害に
基づく強い承認欲求と相まって、迎合的な供述をする傾向がある。

【西山さんの供述等一覧】
(1)2003年7月
2003年7月8日 調書(1)
Aの発見時、管が外れていたのを見た。アラームは鳴っていなかったが
赤ランプは点灯していた。ランプの意味はわからない。
B看護師は居眠りをしており、そのことを口止めされていた。
2003年7月9日 調書(2)
Aの発見時、管が外れていたのは見ていないし、B看護師が繋げたのも
見ていない。アラームは鳴っていなかったが、赤ランプは点灯していた。
ランプは抜けた管を繋いだことを意味する。

(2)2004年5月
2004年5月11日 供述書(1) ※取り調べ担当がF警察官に変る
Aのおむつ交換をした際にアラームが鳴り出したので、消音ボタンを押して
アラームを消した。管が外れていたかどうかは見ていない。
その後、再度アラームが鳴りだしたが、B看護師が対応すると思った。
2004年5月22日 調書(3)
Aのおむつ交換をした際にアラームが鳴り出した。仕事に追われていたので
人工呼吸器を確認せずに部屋を離れた。アラームにはB看護師が対応すると
思った。事件後、B看護師から「アラームは鳴っていなかったよね」と言われ続けていた。

(3)2004年6月
2004年6月19日 供述書(2)
実はアラームは鳴っていなかった。アラームが鳴っていたと言えば取調べが
なくなると思い嘘をついていた。
2004年6月21日 調書(4)
アラームは鳴っていなかったと言ったのは嘘で、本当は以前話していた通りアラームは鳴っていた。
2004年6月29日 供述書(3)
Aのおむつ交換時、布団をめくった際に管が外れてアラームが鳴ったので繋ぎなおした。その後、布団をかけた際に管が外れたように思ったが確認しなかった。部屋を離れた後アラームが鳴ったが無視した。
2004年6月30日 供述書(4)
Aのおむつ交換時、布団をめくった際に管が外れてアラームが鳴ったので繋ぎなおした。その後、やけくそになって布団を掛けた際に管が外れたように思ったが確認しなかった。アラームが鳴っていたが無視した。しばらくしてAの部屋に
戻るとAは亡くなっていた。消音ボタンを押し、B看護師を呼びに行った。

(4)2004年7月 ※7月6日 逮捕
2004年7月2日 調書(5)
事故ではなく、私が管を引っ張り上げて外してAを殺した。その後、部屋を出た
が、アラームは鳴り続けていた。約10分後、B看護師が気付いてAの部屋に向
かったので付いていくとAは死んでいた。B看護師が外れていた管を繋ぎ、私は
アラームが鳴っていたことを示す赤ランプを消すために消音ボタンを押した。
2004年7月2日 供述書(5)
Aの人工呼吸器の管を引っ張って外した。当然、アラームは鳴り続けていた。
アラームに気付いて起きたB看護師とAの部屋に行くと、Aが急変していた。
B看護師が管を触ったりしているうちに、私が消音ボタンを押した。
2004年7月2日 供述書(6)
Aのおむつ交換時、荒っぽく布団をめくった際に管が外れてアラームが鳴ったの
で繋ぎなおした。その後、布団をかける際も荒っぽくやると何かに触った気がしたが放っておいた。部屋を離れた後アラームが鳴ったが無視した。
2004年7月5日 調書(6)
Aの管を外した後、別の部屋でおむつ交換をしていた。アラームは鳴り続けてい
た。B看護師が起きてこないので、管を繋ぎ直してナースステーションに戻った。B看護師が起きたので一緒におむつ交換に行くと、Aが死んでいたことに気付い
た。
2004年7月5日 供述書(7)
Aの管を故意に外した。動機は病院への不満等である。 
2004年7月5日 供述書(8)
Aの管を外した後、別の部屋でおむつ交換をしていた。アラームは鳴り続けてい
たのでAの部屋に行くと、Aは死んでいた。
2004年7月6日 調書(7)
Aの管を故意に外し、そのまま放置して殺した。刑事さんは私を見捨てずに真剣になって私の話を聞き、私のことを考えてくれて、嬉しかった。
2004年7月6日 供述書(9)
Aの管を外した後、別の部屋のおむつ交換をしている間、アラームは鳴り続けて
いた。Aの部屋に戻ると、管は外れており、その顔面が青白くなっていた。
2004年7月6日 供述書(10)
Aが亡くなっていたので、B看護師に報告しようとしたができなかった。
その後、B看護師とおむつ交換のためにAの部屋に行くと、B看護師はAの急変に気付き慌てていた。このとき、人工呼吸器の赤ランプが点灯していたので
B看護師に気付かれないうちに消音ボタンを押してランプを消した。
B看護師はアラームが鳴っていたことは知らないと思う。
2004年7月6日 供述書(11)
動機として、病院への不満があった。本当に私の話を真剣に聞いてくれる人がいるんだと思い、すごくうれしかった。
2004年7月7日 弁解録取書
管を外したまま病室を出た。アラームが鳴り続けていたがBが気付いてくれると
思って放置し、5分後くらいに戻ると、死んでいたので管をつないだ。
2004年7月7日 検察官調書(1)
Aの管を外した後、すぐに別の部屋に行った。5分間くらいアラームが鳴り続けて
おり、怖くなってAの様子を見に行くと死んでいた。自分の行為がばれないよう
に、管を繋ぎ直した。
警察での取調べの間、少しでも私のことを分かって欲しいという気持ちがあった。F警察官は親身になって事情を聴いてくれた。初めて私のことを理解しようとしてくれる人がいると思った。

2004年7月8日 勾留、接見等禁止決定

2004年7月9日 調書(8)
Aの管を外して殺したことは間違いない。警察官や、検事、裁判官には正直に話
したが、父母が私のために頼んでくれた弁護士には、故意に外していない、ミス
だったと嘘をついた。
2004年7月9日 調書(9)
Aの管を外した後、B看護師らに気付かれないよう、消音ボタンを押し続けて
Aが死んでいくのを待っていた。アラームは鳴っていない。
刑事さん、こんな悪い私を見捨てないでくださいね。
2004年7月11日 調書(10)
Aの管を引っ張り上げて外した後、消音ボタンを押し続けてAが死んでいくのを
待っていた。消音ボタンを押せば1分間アラームの音が消えるので、その度に消
音ボタンを押し続けていた。
2004年7月11日 供述書(12)
Aの管を外し、音が鳴ったら見つかると思い、消音ボタンを押し続けた。
Aが亡くなった後に管を元に戻して放置した。
2004年7月12日 調書(11)
Aの管を外した後、アラームが鳴る1分経過前に消音ボタンを押して死んでいく様子を見届けた。Aは眉間にしわを寄せ、口をはぐはぐして苦しそうにしていた。最後に、Aは目を大きく見開いて瞳が上の方に行って白目をむき、口を縦に大きく開いて本当に苦しそうに死んだ。アラームが鳴っていたという話をしていたは
B看護師を道連れにするための嘘である。
2004年7月12日 供述書(13)
Aの管を外した後すぐに消音ボタンを押した後、また鳴ると困ると思いボタンを押
すことを繰り返していた。Aを見ると眉間にしわを寄せ苦しそうにもがいているように見えた。次にAを見たときには目が上を向いて口を大きく開いて顔面が青白くなって死んでいた。その後、管を繋ぎ直して放置した。
2004年7月17日 調書(12)
Aの管を外した後、消音ボタンを押し続けてアラーム音を消しながらAの死んでいく姿を見ていた。その後、管を繋ぎ直し、管が外れていたことを示す点灯ランプを消すために消音ボタンを押した。
(自白に至った心境に関し)刑事さんはこんな私に、お前を信じている、俺がお前
の不安を取り除いてやると言ってくれました。本当に本当に嬉しかった。私のこと
でこんな真剣になってくれる人は初めてでした。刑事さん、私を見捨てないでくだ
さい。こんな私を最後まで見守っていてください。
2004年7月17日 供述書(14)
なんでこんな私の為に一生懸命してくれるのだろう。本当にうれしい。
こんな人は、はじめてや。私はどうしたらいいんでしょう。
2004年7月18日 供述書(15)
Aの管を外そうと思ったが、詰所のB看護師が気になり、止めた。
その後、B看護師と詰所で話をした後、一人でAの部屋に戻って管を抜いた。
2004年7月19日 供述書(16)
いじめの対象になるなどして病院への不満が溜まっていた。
2004年7月20日 調書(13)
おむつ交換時に管が外れてアラームが鳴っても消音ボタンを押せば消え
外れたままだと1分後に再び鳴り出すことがあって、このアラームの仕組みは自然と覚えていた。事故に見せかけて殺すにはどうしたらよいか考え、人工呼吸器の管を外して消音ボタンを押しながら死んでいくのを見届けた後、管を元通り
はめ直し、事故に見せかけることとした。
2004年7月20日 調書(14)
Aの管を引っ張って外した。この管が簡単に外れること、管を外すとアラームが鳴り、赤ランプが点滅すること、消音ボタンを押すとアラームが止まり、赤ランプが点灯状態になること、管を繋ぎ直した後、再度消音ボタンを押すと赤ランプが消えることは今までの経験から知っていた。
Aの管を外し、ピッと1回鳴ったアラーム音を消音ボタンで消し、次にアラームが
鳴るまでの時間を数えて1分になる前に消音ボタンを押した。Aは前同様の顔の
動きをさせて死んでいった。消音ボタンを押したのは合計3回。その後、管を繋ぎ直し、消音ボタンを押して赤ランプを消した。

※ この日の午前の取調べで西山さんは「私の書いたもん全部返して」と泣き叫び、F警察官の腕を掴んだり、勝手に退出しようとしたりして、供述調書の作成を阻害したことがあった。

2004年7月21日 病院にて、西山さんの指示・説明に基づく再現見分を行う

2004年7月22日 調書(15)
Aの管は、繋ぎ目を持って、真っすぐ引っ張ると簡単に外せた。人工呼吸器の
アラームの仕組みについては、別の患者を車いすに乗せる際、管を外せばアラームが鳴り、消音ボタンで消すと1分後にまたアラームが鳴るが、1分経過前に消音ボタンを押せばアラームは鳴らないようになっていることを自然に覚えた。
Aの管を外して最初のアラームが鳴った後、1、2、3と数え続けて1分になる前に消音ボタンを押し、Aが前同様の動きをさせた後、表情もなくなり青白い顔になって死んだのを確認した。
2004年7月23日 調書(16)
前同様の人工呼吸器のアラームの仕組みについては、自然に覚えた。
Aの管を一気に手前に引っ張って外し、死んでいく姿を見届けながら殺した。 
2004年7月23日 検察官調書(2)
人工呼吸器の操作方法等については、看護師の操作を見たり、看護師から聞い
たりして覚えた。 
2004年7月24日 調書(17)
Aの管を真っすぐ手前に引っ張って外した。管を外して最初のアラームを消し
1、2、3と指折り数えて時間を数え続け、1分経過する前に消音ボタンを押すことを繰り返した。Aが前同様の顔の動きをさせ、顔色も段々青白くなっていった。そのまま消音ボタンを押し続け、Aが死んでいく姿を見届けた。
2004年7月24日 調書(18)
Aの管を外して最初のアラームを消し、1、2、3と指折り数えて時間を数え続け、1分経過する前に消音ボタンを押すことを繰り返した。Aが前同様の顔の動きをさせ、顔色も段々青白くなっていったほか、目を大きく開け瞳をギョロギョロさせていた。3回目の消音ボタンを押したところ、Aは死んでいた。
2004年7月24日 供述書(17)
病院に対する不満が溜まっており、事故に見せかけて患者を殺そうと考えるようになった。

2004年7月25日 検察官調書(3)
1分経過した頃に再びアラームが鳴り、その後消音ボタンを押せば消えることは
知っていた。1分という時間は、看護婦の誰かから聞いた記憶がある。頭の中で
1秒、2秒と時間を数え、1分たった頃再び消音ボタンを押した。アラームが鳴らない状態が続いた。1分経過後に消音ボタンを押すとアラームが鳴らない状態が続くことは知らなかったが、たまたま鳴る前に消音ボタンを押すと、アラームが鳴らない状態が続いた。3回目の消音ボタンを押した後で、Aは前同様の顔の動きをした後、目を上向きにして白目をむいた状態で、青白い顔になり、目も口も動かなくなって死んだと思った。管をつないで赤ランプを消した。
2004年7月25日 検察官調書(4)
F警察官は、私がどんなことを言っても、一生懸命私の言うことを聞いて信じてく
れようとしていた。私のために何とかしてくれようとしていることが分かり、初めて
信用できる人に会ったという気持ちだった。私のことを一生懸命考えてくれるF警
察官の言葉を信用し、正直にありのままを話した。
2004年7月26日 調書(19)
正直に本当のことを話せず、わざと気が狂ったふりをしたりしていたが、刑事さんはそんな私を見捨てようとはせず、一生懸命に私の話を聞いてくれた。
24年間でこんなに私のことを思って話を聞いてくれる人は初めて。

(5)2004年8月
2004年8月1日 検事宛手紙(1)
両親が公判では殺意はなかったと言うよう勧めるので迷っている。
2004年8月2日 F警察官の取調べ
留置施設の記録「西山さんは、両親の面会により供述をくつがえせ等言われ
精神的に動揺している」
2004年8月4日 F警察官の取調べ
検事宛手紙「Aを殺したことは間違いない。弁護士の話を聞いて否認した方がよいと思うときもあるが、ありのままを話して罪を償いたい」
2004年8月4日 調書(20)
私が弁護士さんの言葉に従って否認してしまっても,それは私の本当の気持ちではない。
2004年8月10日 F警察官の取調べ(理由:余罪取調べ)
2004年8月23日 検事宛手紙(2)
弁護士に渡された被疑者ノートには酷い取調べをされている旨の嘘を書いてい
た。8月18日には、弁護士に「今の気持ちとして、殺意はなかったし、初めから殺すつもりはなかった」と言ってしまった。こんな私なので、裁判の時にAを殺していないと言ってしまっても嘘なので、どうか分かってほしい。
2004年8月23日 調書(21)
起訴後、弁護士や父母が否認を勧めるので戸惑っている。もし裁判の時にAを殺していないということを言ってしまっても、それは本当の私の気持ちではない。
2004年8月25日 検事宛手紙(3)
弁護士に被疑者ノートの内容は嘘だと伝えても取り合ってもらえなかった。私の気持ちになって裁判で弁護してくれるか、不安だ。
2004年9月21日 検事宛手紙(4)
もし罪状認否で否認してもそれは本当の私の気持ちではない。

【アラームの消音状態維持機能をいつ、知ったのか】
(1)人工呼吸器の操作を知る者
◆看護師の中に、アラームの消音時間が1分間であることを正確に認識して
いた者は居なかった。
◆アラームの消音を維持する機能を利用していた者はおろか、その存在を
知っていた者も居なかった。
◆西山さんは看護助手であり、人工呼吸器の操作は禁止されており、使用方法の講義を受けることもない。

(2)変遷する供述内容
2004年7月20日 調書(13)より、仕事を通じて自然に覚えたと供述。
2004年7月21日の再現見分を経た、2004年7月22日 調書(15)より
「消音ボタンを押して1分を経過する前に、再度消音ボタンを押せば、アラームが鳴らないようになっていることも自然に覚えた」と供述。
さらに、2004年7月23日 調書(16)、2004年7月24日 調書(17)にも
同旨の供述をするなど、予め、消音状態維持機能の存在を知っていたという
内容を述べていた。

そうであるにもかかわらず、2004年7月25日 検察官調書(3)では
「アラームの消音時間が1分であることは看護師の誰かから聞いた記憶がある。この1分が経過する前に再度消音ボタンを押すとアラームが鳴らない状態が続くことは知らなかったが、大体1分が経過するのを数えて、たまたまアラームが鳴る前に再び消音ボタンを押すと、アラームが鳴らない状態が続いた」などと
前日までの供述と異なり、消音状態維持機能の存在は知らなかったとの
内容に変遷している。

(3)犯行現場はバレやすく、アラーム音に関して事前に考えるはずだが・・・
病室の真向いには、ナースステーションがあり、Aと同じ病室には他の患者も
入院しており、犯行発覚を免れるためには、アラームをなるべく鳴らさないことに思い至るはず。
管を外して殺害したことを認めているにもかかわらず、消音状態を維持する方法を事前に知っていたのか、犯行時に、しかもたまたま知ったのかについて虚偽を述べる理由とは? 実体験に基づいているのなら、虚偽を述べる必要性がない。

【医学的知見に照らせば、不合理】
(1)死亡に至る際のAの表情変化等
西山さんは、「Aが眉間にしわを寄せて苦しそうにし、口をはぐはぐさせ、口を縦に大きく開け目を上向きにして白目になった」「Aの顔色は蒼白であった」と供述するが、弁護士の新証拠によると、看護記録等に照らし、Aの顔面神経は機能を失っており、表情筋が動くことはない。
2003年1月10日に、JCSⅢ-300で固定化したと考えられるため、当時Aが苦悶の表情をすることはあり得ない。
解剖所見によれば、Aには広範な大脳皮質の壊死が認められ、Aは当時、顔面神経が機能を失っていたと認められる。

(2)医学的知見に照らせば、不合理
西山さんの供述通り、Aが窒息死したのであれば、顔色はチアノーゼとなり
黒ないし赤黒い色になるものと認められるが、これに反し、死亡時の顔面は
蒼白であったとする西山さんの供述は不合理。

【西山さんとF警察官の関係性】
(1)F警察官による取調べ
取調べ担当がF警察官に変わり、アラームが鳴ったことを認めないと、厳しい
追求を受け、認めると、態度が軟化している。
取調べが重ねられる中で、西山さんの身の上話等にも耳を貸してくれるF警察官に対して、次第に信頼と好意を寄せるようになる。

(2)西山さんの行動変化
◆呼出しを受けてもいないのに、何度も警察署に出頭。
◆F警察官に宛てて書いた手紙を他の警察官に預けた。
◆F警察官の気を惹こうと考え、自殺未遂を装って手首に包帯を巻いて
 警察署を訪れることもあった。

【F警察官の認識】
(1)F警察官の証言〔1〕
2004年6月下旬までには、西山さんの迎合的な供述態度を認識するとともに
西山さんが自身に好意と信頼を寄せ、その関心を惹くためにいくつもの嘘をついたことにも気付いていた。

F警察官の証言〔2〕
起訴前に行われたF警察官の取調べの際に、「F警察官が離れていくのが寂しい」と口にしながら、F警察官の左手を撫でるように触ることがあった。

F警察官の証言〔3〕
西山さんが、滋賀刑務所への移監を控えた2004年8月25日、F警察官の取調べを受けた際、「寂しくなる」と言ってF警察官に抱きついた。
F警察官は、拒絶することはせず、頑張れよと言いながら肩を叩いた。

(2)捜査状況
捜査機関は、遅くとも2004年7月10日までには、Aの入院していた病棟の
他の入院患者やその家族等からの事情聴取などの結果、Aの死亡した頃には
アラームが鳴っていなかった事実を把握していた。
その後の捜査は、人工呼吸器の管が外されたのに、アラームが鳴らなかった
理由・原因
に焦点を当てて進められた。

【何が問題だったのか】
問題点(1)長時間に及ぶ取調べ
F警察官は、連日にわたり、ときに深夜近くにまで及ぶ長時間の取調べをして
西山さんから弁護人との接見内容を聞き出すとともに、そんな弁護士は信用できないなどと繰り返し述べて、弁護人との信頼関係を損ねるような発言を繰り返した。これは、実質的な秘密交通権の侵害といえる。

問題点(2)否認調書を意図的に作成しなかった
F警察官は、西山さんから、弁護人との接見や検察官の取調べで殺害を否認
した旨を聞いたり、自身に対して否認供述を続けても「逃げるな」などと言って
聞き入れようとせず、西山さんが、再び自白に転じるまで供述調書を作成することはなかった。

問題点(3)否認を撤回させる
F警察官は、多数の自白調書を作成するとともに、西山さんに指示して、同内容の多数の供述書を作成させたほか、接見時等における否認供述について、弁護人や検察官に嘘をついた旨の供述調書等を作成した。
西山さんの否認供述は、証拠化することもなく、否認調書は一通も作成され
なかった。

問題点(4)警察のストーリー沿った供述書の作成
F警察官は、捜査の過程で判明した具体的事実等を西山さんに伝えつつ、これと整合する捜査機関側のストーリーを示唆するなどした。
自白供述は、捜査の進展に連動して、捜査機関側の見立てやストーリーに沿うように変遷しており、消音状態維持機能については、Aの死亡当時、西山さんが知り得ず、およそ創作することもできない内容の供述を含んでいる。
知的障害や愛着障害等から迎合的な供述をする傾向が顕著である西山さんに対し、誘導的な取調べを行うことは虚偽供述を誘発するおそれの高い不当なものであるといえる。

問題点(5)F警察官の不適切な取り調べ
◆遅くとも2004年6月下旬頃までには、西山さんの迎合的な態度や自身に対する恋愛感情を認識していた。
◆事件に関する供述以外に、西山さんの自身に対する恋愛感情を記載した供述調書を多数作成した。
◆取調べ中、毎日のように、ジュースを差し入れた
◆本来、立ち会わせるべき女性警察官を取調べ室外に待機させて、2人きりの状態にした。
◆起訴後にも関わらず、幾度も取調べを行った。
◆西山さんが、公判期日において否認をしようと考えていることを知ると公判でも事実を認める旨の検察官宛の手紙等を複数作成させた。

以上より、F警察官が逮捕後の取調べを通じて、西山さんの特性や恋愛感情に乗じて、西山さんに対する強い影響力を独占し、その供述をコントロールして、自白供述を維持させようとする意図を有していたことが推認される。

【まとめ】
(1)警察
◆早い段階から、アラームが鳴っていなかったことを把握。
◆アラームの消音維持機能を西山さんが自白する前から把握。
◆その他の死因の可能性があるにも関わらず、その報告書を検察に送致せず。
◆未送致の捜査資料117点。

(2)人工呼吸器の仕様
◆アラームの消音維持機能を知っている看護師はいなかった。
◆西山さんにはアラームの消音維持機能を知る術がなかった。
◆アラームの消音維持機能の自白は、誘導されたと考えられる。

(3)F警察官の取調べ
◆西山さんの特性や恋愛感情を認識していた。
◆否認供述に耳を貸さず、自白に転じるまで、その姿勢を堅持した。
◆弁護士を信用しないようコントロールしていた。
◆否認に転じないように、検事宛に手紙を書くよう指示した。

警察は多角的な捜査はせず、最初から犯人ありきのストーリーに固執していたように思う。今回のケースは自白ありきのもので、その自白供述ですら不審な
点が多かった。有罪を示す捜査資料のみを検察に送致していたことからも
犯人ありきだったのは間違いない。私は捜査手法に疑問を呈したい。

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