第5話 みぃちゃんに相談する

 ホームで快速電車を待っていた。列の一番前で。すると高校生くらいの女の人が僕に聞いてくる。

 「次の快速電車なんですけど、H駅に停まりますか?」

 僕は少し考えたけど、H駅は快速電車が停まるような気もするし、停まらないような気もする、何とも判断しにくい駅だった。それで、

 「わからないです。」

 と答えた。女の人は一瞬固まり、そして僕を不信の目で見据えた。あわてて僕は隣に立つ人にH駅に停まるか聞こうと思ったけれど、緊張して、できないままでいた。

 その内、女の人は離れた所に立っている駅員さんに聞きに言って、乗るべき電車を理解したようだった。

 僕は胸が苦しくなった。みぃちゃんに聞いてもらおうと思った。みぃちゃんは今日もマリリンモンローのトレーナーを着ているのかな。

 ピンポーン、チャイムを鳴らして、僕は待った。みぃちゃんの実家は快速電車でひと駅の少しにぎやかな所にある。みぃちゃんは僕の家から徒歩30分よ、って言ってたけれど、僕の足では1時間はかかる。みぃちゃんだと2時間くらいかかると思う。寄り道とか、休憩とか、のら猫とじゃれたりとか。

 みぃちゃんが出てきた。入って、と言う。みぃちゃんは白いTシャツを着ている。そうだ、もう夏が来ているのだ。みぃちゃんにも夏がくるんだな、と僕は思う。ひきこも姉さんなのに。

 僕はみぃちゃんの部屋でいつものコーラを飲みながらホームでのことを話した。

 「あっそ」

 みぃちゃんはただそう言っただけだった。そして、ゆっくり僕を抱き締めてくれた。

 「私もね、今日はボランティアに行ったの。話し合いだったんだけど、いろんな人が集まるから、まるで何にも決まらなくて、それなのに、どんどん、どんどん話が広がって、永遠に続くみたいだったの。みんな、ずっーと、ずっーと、話していたいのかしらね。白猫になっちゃったらどうしよう。」

 「しろねこ?」

「白猫はいいの。そのH駅の女の人もお話したかったのかな。結局、すれ違いよね。完全に互いを見失って、どうしていいやらわからなくて、どぎまぎして、固まって、ハムスターと一緒よ。」

 「ハ、ハムスター?」

 僕がちんぷんかんぷんで煙に巻かれていたのに、みぃちゃんはきつく僕を抱き締めた。僕はもう何でもいいような気がした。みぃちゃんの話はよくわからないけれど、みぃちゃんに抱き締められて、僕はとてもうれしかった。

 「みぃちゃんとはすれ違ってないよね。」

僕が呟くと、みぃちゃんは言う。

 「あんたとはすれ違いすぎてぶつかってるだけよ。」

そして、みぃちゃんは僕を強く抱き締めたのだった。

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