第18話 みぃちゃんと雨

 傘を忘れたので、僕はみぃちゃん家に雨宿りに行くのだ。みぃちゃんに会うためじゃなくて、雨宿りをしに行くのだ。

 学校を早めに切り上げて、僕はみぃちゃん家に向かって、雨の中を歩いた。

 「私なんていなければ良かったんだー!!!」

 みぃちゃんが叫んでいた。家の中にいるみたいだ。だけど、何があったのかな。

 「わーわーわー。生まれてこなければよかったーーー!私さえいなければ良かったのにーーー!」

 みぃちゃんの声がまた聞こえてくる。今日もみぃちゃんは一人ぼっちでお留守番みたいだ。かわいそうだね。やっぱりみぃちゃんには僕がいないとダメだ。

 ピンポーン

 「みぃちゃん、遊ぼー。」

 ガチャガチャ。しばらくして、玄関の鍵が開く音がする。ゆっくり扉が開いてみぃちゃんの顔が見えた。ボサボサだ。髪がボサボサだ。でもみぃちゃんだから、かわいいね。

 「こんにちは、みぃちゃん。雨が降ってきたから家に入れてよ。」

 「嫌だね。」

 がちゃん。扉が閉まった。みぃちゃん、どうして。

 トントントットトン、扉をノックして、みぃちゃんを呼んでみる。

 「うるさいっ!」

 「そんなこと言わないで、ぼくとハムスターと遊ぼうよー。」

 「嫌だよ。帰ってよ。あんたも私といると不幸になるよ。私さえいなければ、世の中全部うまくいくんだから。」

 しとしとしとしとしと、なまぬるい雨が降って僕の肩に掛かる。なんだか、みぃちゃんの被害妄想が激しくなっているみたい。大丈夫かな。

 「ねえねえ、みぃちゃん。過去の不幸の中には今の力につながるものがあるんだよ。『素晴らしき哉人生』でもそういってたよ。」

 「知らない。どうせ私はダメ人間なのよ。リア充にはなれないんだよ。いくら努力したって、他の人みたいにリア充にはなれないんだよっ。私、頭わるいんだから。リア充は小さいときからリア充なんだよっ。リア充は小さいときから頭がまともなのっ。」

 ぐすん。

 かわいそうな、みぃちゃん。リア充になりたかったんだね。小さいときから、輪の中に入りたかったんだよね。つらいね。みぃちゃん。僕はドアの前で立ち尽くした。

 僕がいても何にもならないのかな。天使はどこにいるのかな。雨がたくさん降っている。僕はもうびしょびしょだ。みぃちゃんの心ももうずぶ濡れだ。

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