第24話 みぃちゃんと龍の民
「ねえ、ねえ、ちょっと、前の人。」
みぃちゃんは相変わらず失礼である。
「うむ、それは私のことかね。だがね女の子よ、私は人ではないのだよ。」
おじさんは振り返らずに答える。
「はいはい、非・人間ね、わかったよ。それじゃあ、おじさんはどうして、顔に変なマーク描いてるの?」
みぃちゃんは両手を壁につけて、ゆっくり進む。
「マークか。これはじゃな、我々龍の民のシンボルみたいなものなんだ。成長して龍の心とテレパシーできるようになると、このマークを額に印すのじゃよ。」
「りゅうのたみ?なんだかよくわかんないだけど、刺青って痛そうね。それでも、龍とテレパシーだとか言っちゃう人より痛くないわよねっ。」
そう言ってみぃちゃんは舌を出してふざけている。
失礼だらけなみぃちゃんを気にもせずに、おじさんは明かりのついた部屋に入っていった。みぃちゃんが続く、
「わあ、洞窟の中にこんな部屋があるなんて。すごいわ。って、ひきこもりの私がこんな映画みたいなセリフを言うなんて、人生って本当にわからない。」
みぃちゃんは一人で驚いて一人で話している。やっぱりひきこもりなんだね。かわいいね。
「それに、とーっても広いのね。ここなら、何年ひきこもってても飽きないわ。」
みぃちゃんはそう言って、妙なところに感心している。だけど、その時はみぃちゃんが気づいていないだけで、よく見るとここにはたくさん人がいて、とてもひきこもれそうもない。
その中に知った顔があった。
「あっ、みぃちゃーん。やっと会えたね。大丈夫だった。」
みぃちゃんと再開した僕は感激して、みぃちゃんにがしっとしがみついた。
「ハル、痛いよ、どうしたの。大袈裟だなー。」
「うん、ごめん。だけど、ここは広くて涼しいね。僕、ここで暮らしたいな。」
(みぃちゃんと)と言う言葉を呑み込んだけど、僕の感想もある意味みぃちゃんと同じレベルだった。
僕はトマトを受け取ったあの後、洞窟の入口であたふたしていた。その時、額に変な二等辺三角形みたいな化粧?をした女の子が現れて、ここまで連れてきてもらったのだ。
後でみぃちゃんに「その女の子が可愛いからついてきたんでしょ」って言われたから、「全然違うよ、そんなんじゃないよ。」って、言ったけど、同じクラスのアイドルの子に似て可愛い女の子だったんだ。みぃちゃんにはそんなこと言えないよ。僕の天使はみぃちゃんだけだからね。
それはともかく、僕はいつの間にかみぃちゃんを追い越していたみたい。
「そうだね、すごく面白いところね。私は大丈夫だよ。ちょっと穴に落っこっちゃってお尻が痛かったけどね。平気なのよ。強いでしょ。うふふ。」
みぃちゃんは目を細めて笑った。輝いている。やっぱりみぃちゃんは僕の天使さんなのだ。
「あっ、トマトだっ。私に会いに来てくれたのー。」
僕の手元からゲージを奪い取って、みぃちゃんはトマトを突っつく。
「みぃちゃん、本当にトマトを可愛がってるの。お父さんがもってきてくれたけど。」
「うん、ちゃんとかわいがってるよ。ねえ、トマト。」
トマトはみぃちゃんの指から逃げるようにもぞもぞ左右へ頭を動かしている。僕はそんな不器用なみぃちゃんを見ながら、かわいいだけじゃ大変だと悟ったのだった。でも、それでも僕はみぃちゃんが好きなのだった。
「あの、どうしてみなさん洞窟の中にいるんですか?あれですか、宇宙線から逃げてきたとか。」
僕はみぃちゃんを見ながら、周りにいる人に誰とも言わず聞いてみた。結局、みぃちゃんを連れてきたおじさんが答えてくれた。
「我々はな昔からずっとこの山で暮らしてきたのだよ。龍と共にね。」
僕にはとても理解できない。龍だとか。それに、だって、ここはみんなが山登りに来たりランニングをしに来たりするんだ。こんなふうに額に同じペイントをした原住民の人がいるなんて話は聞いたことがない。
「うむ。私たちがここにいるのが不思議なんだろうね。当然だよ。我々の世界は800年以上前に君たち人間の世界と次元を別ち、本来なら互いに存在は見えないはずなんじゃ。しかし、何かの理由で世界が繋がってしもうたようじゃ。」
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?