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三田と中東

 先日、在京クウェート大使館に呼ばれて、三田にいってきました。クウェート大使館にいくのは30年以上ぶりです。現在のクウェート大使館の建物は、著名な建築家の丹下健三により設計され、1970年に完成したもので、文化財としても貴重なものといわれています。

 日本に現存する丹下健三の作品としては、クウェート大使館は希少なものでしたが、老朽化や耐震の問題で取り壊して建て替えるという報道が出たのを覚えていて、もしかしたら、もう全然違うかたちになっているのではないかと思っていました。幸いそれは杞憂に終わりました。宇宙基地のような不思議な姿の建物は記憶のままに残っていたのです。

 このときお会いしたクウェートのザマーン大使は、建て替える予定であったが、文化的に貴重な建築物ということを配慮し、建て替えを中止して耐震補強で対処することにしたと仰っていたので、ほっとしました。日本にとっても貴重な文化財であり、この決断は正しかったと思います。

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 実はこのとき大使館にいくまえに少し時間があったので、三田を散策してみました。一つ探していたものがあったからでです。下の写真がそれ。港区立三田図書館の横に陳列されている「タツノ式ガソリン計量機」です。1929年に製造された手動式ガソリン・スタンドだそうです。すでにこのころにはイランから石油が輸入されており、もしかしたら、中東の石油もガソリンとして使われていたかもしれません。

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 今回はもう一つ、三田にある喫茶店「白十字」の写真も撮ってきました。ここは三田でも非常に古くからある喫茶店です。ふつうの人は知る由もないでしょうが、実は、ここは中東とも縁が深いところです。その昔、今は亡き牧野信也さん(東京外国語大学教授(当時))にアラビア語を習っていたころ、予習を忘れたときなど、授業をつぶすために、喫茶店に誘って、ごまかしたものでした。そのときよく使ったのが、この白十字です。

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 そこで牧野さんから、牧野さんも学生時代に哲学者、イスラーム研究者として有名な井筒俊彦さんとよくこの白十字で議論を交わしたことをうかがい、驚いた記憶があります。すでにそのころ別の中東やイスラーム関係の先生がたとこの白十字で頻繁に「授業」をしていたからです。

 なお、井筒さんの師である詩人で英文学者の西脇順三郎の関連著作を読むと、ときおり「白十字」の名前が登場します。西脇順三郎も学生や詩人仲間たちと白十字でよく議論を展開していたそうです。おそらくその井筒さんもそのなかにいたのでしょう。そして、井筒さんも弟子である牧野さんたち、牧野さんもまたその弟子たちというぐあいに中東研究、イスラーム研究の伝統が、メインストリームではないにしろ、白十字という場で受け継がれていったといえるかもしれません。

 かといって、別に白十字そのものが中東やイスラームと直接的なつながりがあるわけではありません。私が通っていたことから、すでにここは中国語がよく聞こえるところで、どうやらそれは今もかわらないようです。

 ちなみに、上述のタツノ式ガソリン計量機のそばに「アジアン・ケバブ」屋さんもありました。三田と中東のつながりとしてはちょっと弱いですか?

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(保坂修司)

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