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加藤介春『夕焼』

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加藤介春未刊詩稿『夕焼』「悪魔創世」(四)悪魔に見える

人間の顔が悪魔に見える事について
しづかに考へよ、
林の中の高い木が悪魔に見えることについて
林に入りてその木を抱け、
太陽が悪魔に見えることについて
はるかなる空をあふぎ見よ。

我々の為めにうつくしい世界はどこへ行った
 か、
我々の為めに幸福な世界はどこへ行つたか、
太陽はくらくさびしくなり、
木はくらくつめたくなり
あらゆるものが悪魔に見える。

さまざまの悪と不幸が来て、
うれひとかなし

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加藤介春未刊詩稿『夕焼』「悪魔創世」(三)人間動物園

さまざまの人種がゐる
白い顔黄色い顔
南蛮人の銅(あかがね)色
おそろしい尖つたくちびる
豚の如き尻尾のある者、

―そこに不思議の動物がゐる
―そこに人間の動物園がある

黒ん坊の子はだだひろき砂浜に走り出て
幾度も幾度も蜻蛉返りをなし、
砂浜に腹匍ひてふくれ上りし腹の跡をつけ
それを又足で踏み消して逃ぐ

高き山の頂によぢのぼり
ゆけどもゆけども限りなき森の中をさまよひ
或は遠き曠野を横切りて

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加藤介春未刊詩稿『夕焼』「悪魔創世」(二)悪魔出現

何かしらぬが深い地の底にかくれてゐる
うすぐらい空を飛んでゐる
又ははるかの地平の上に
けぶれる夢の如く立つてゐる―

何か知らぬが靴の鼻に立つ、靴は光る
ステツキの銀環にとまる、環は光る―
ポケツトのくらい底へ
不意に手をさし入るるおそろしさよ
何か知らぬか
すみつこにかくれてゐる

たましひの前にかげの如く佇み
鳥の如く風に乗りて経廻り
甘い眠りが深くしみ入れば
夢の中にもフヰルムの如く現はれ

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加藤介春未刊詩稿『夕焼』「悪魔創世」(一)『悪魔創世』の始めに

神さま
空のまんなかにさんらんとしてかがやく神さま
私が今高く高くさしあげようとする
まつくろい人間の手に
そのしづかなる動かざる変らざる
空のまんなかの光りを握らせて被下いませ
私は世界の未来を考へます
おそろしい人間の過去に仍つて
おそろしい未来のそのまた未来の
空々たる人間の世界を考へます
そうして神さま
そのおそろしさに堪へられずなりますと
私はまつくろいけだもののような手を
しづかなる空

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