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書肆神保堂
2018年10月14日 05:19
くらき室へ入らんと火をすりし時、ただ一本の燐寸の消えたるかなしさ。燐寸の火のシユウと燃えて消えし白きすり殻の指先きに残れるかなしさ。室はくらし、その入口にたたずみて指にもてる燐寸の白き殻のかなしさ。夜もおそければ眠らんと帰りし心のただ一本の燐寸の火の消えたる室の前。室へは入(い)らず、またもくらき心を抱きて、賑へる町へ酒飲みに行くそのかなしさ。底本:『獄中哀歌』南北社
2018年10月2日 11:10
赤い提灯が河岸の家の二階の窓から川のうへにおりゆきて水にうかべり。青い水のうすぐらき川のおもてに何をするにや提灯のかげが来れり。流るる水のうへにぢつと止まりて赤く燃ゆる提灯のあかりが薫る。流るる水の心をすひとりて赤い光が次第にふくれつつ。流るる水のつぶやきを聞きにゆきしか河岸の家の提灯が水にうかべり。何をするにや水のうへに提灯の火はぢつと止まれり。底本:『獄中哀