見出し画像

将棋トピックあれこれ

最近の将棋界での出来事について思ったことをとりとめもなく書き連ねていきます。

地域対抗戦終了

ABEMAの新企画「地域対抗戦」が終了しました。
大方の予想通り(?)、中部と関東Bの決勝となり、藤井竜王名人の大活躍により中部の優勝という結末に。

・出場棋士を各地域に振り分けて
・5対5で
・勝ち抜き戦
という新たな試みはABEMAトーナメントとの差別化を図ったものかと思われますが、実際にやってみるとかなり欠陥のあるシステムになってしまっていたように感じます。

1番大きいのは勝ち抜き戦でありながら1番手と2番手は負けてももう1度出られるというルール。もうこれにより中部の優勝は既に決定づけられていたと言っても過言ではないでしょう。
実際に中部チームのオーダーを見てみると、予選1回戦から決勝まで全ての試合で藤井竜王名人を2番手に入れています。
最強かつ最も人気の棋士である藤井竜王名人を2回戦える位置に置くのは、勝負の面でもファンサービスの面でも必然であり、杉本監督には初めから選択肢はなかったと思います。
現実に藤井竜王名人の無双ぶりは凄まじく、大会通じて15勝1敗という鬼のような成績を残しましたし、このルールにより絶体絶命だった九州チームとの試合も逆転勝利しました。
その反面、監督の杉本八段と八代七段は0勝、服部六段は1勝、比較的勝った豊島九段すら4勝で、意地悪な見方をすれば藤井竜王名人だけでも優勝していた可能性すらあり、チーム戦の意義が見出せない内容になってしまいました。
チーム北海道・東北が4連敗の状況から広瀬九段1人で5連勝を達成しての大逆転などは心震える展開でしたが、総じて1人の棋士の活躍頼りになる試合が多く、折角5人でチームを組んだのに何もしないで終わる人が出てくる展開には首をかしげざるを得ません。

良かった点を挙げると、チームメンバーが5人いると普段はなかなか見ないような組み合わせでのやり取りが見られて、作戦会議室の様子が毎回楽しかったです。個人的にはチーム中国・四国の作戦会議室が最高でした。

前述したように「チーム戦」としては課題の残る企画だったものの、個々の対局は熱戦続きで毎局手に汗を握りました。
特に小山怜央四段や古森悠太五段はこの企画でかなり名前を売れたんじゃないでしょうか?

大橋七段連敗

私の推し棋士である大橋貴洸七段が今年度に入ってから3連敗と(その前の対局から数えると4連敗)、まだ初日が出ていません。
大橋七段はデビュー以来ずっと通算勝率7割台を維持してきた高勝率の棋士でしたが、昨シーズンから勝率を落とし始めてついに7割を割っています。
将棋は一部の早指し棋戦を除いて基本的に長い時間をかけて戦うものなので、1日かけて戦い抜いた挙句の結果が敗戦だと、全てが水泡に帰したような気がしてファンとしてもがっくりしてしまいます。(勿論1番悔しいのはご本人だと思いますが)

ただご本人のXでのポストでは最近手応えを感じていると仰られていたり、最近出演されたラジオ(https://audee.jp/voice/show/80773)でも一歩一歩前進しているというお話があったりと、今は結果に結びついていないものの、これから躍進のタイミングがあると信じたいです。
昨年も例年に比べて低迷したとはいえ、順位戦では初参加のB1で最終戦まで昇級争いを演じるなど、全く冴えなかったわけではありません。
将棋の勝敗は常に紙一重で、そこを勝ち切ってトップ棋士の仲間入りをできるかどうかという瀬戸際にあるのだと、信じたい・・・

ABEMAトーナメント開幕

今年もこの季節がやってきました。
例年15チームだったのが、リーダーを単純にタイトルホルダーとA級棋士だけにして、エントリーチームを含めた12チームに絞りました。個人的には賛成です。
渡辺九段などはもうドラフトは手詰まりになってきていて、いっそクジ引きでもいいのではないかと提案されていましたが、確かに観ている側としてもそれは感じているところで、来年以降はドラフト制にもなんらかのメスが入るかもしれません。とはいえ、新リーダーに選ぶ側をやらせてあげたい気持ちもありますが。佐々木勇気八段などはドラフトもかなり堪能していたように見えました。

チーム藤井が羽生九段を獲得して、またしても大本命になってしまった感じがありますが、こちらは地域対抗戦と違って全員が活躍しないと勝ち上がれない方式。何が起こるかはわかりません。

とりあえず個人的には大橋七段がいるエントリーチームを応援します。先程やや低迷していると書いたばかりですが、6連勝してのメンバー入りは立派。やっぱり地力は高いと言えるでしょう。是非予選突破を!

叡王戦第3局

現在進行中の叡王戦第3局を挑戦者の伊藤匠七段が勝利し、叡王奪取に王手をかけました。
藤井叡王はこれまでタイトル戦を21回戦って負けなし。フルセットになったのも1回だけという驚異的な勝率。先に王手をかけられるのも、タイトル戦で連敗するの今回が初となりました。
まだ負けたわけではありませんが、藤井叡王はこれまでがあまりにも強すぎただけに将棋ファンの間には少なからず動揺が走っているように見えます。

ただ今局に関しては、藤井叡王が悪かったというより、単純に伊藤七段が強かったという風に自分には見えました。勿論直接の敗因は勝負所で悪手を指してしまったからなのですが、将棋というのはもう少しトータルの流れで見る必要があります。
劣勢だった局面から強く敵玉正面に馬を成り込んでプレッシャーをかけ、正しく受けなければ逆転するという状況を作り出し、正解手が1手のみ(しかも難しい)の局面を突きつけて悪手を誘い、形勢逆転してからは相手の勝負手をことごとく正確にかわし切る。これはまるで藤井叡王が逆転勝ちする時のパターンを見ているようではありませんか。
負かされる方は精神的にも堪える負け方だと思いますし、自分がそれを食らう方になってしまった藤井叡王の様子も相当に悔しそうでした。

単純な勝ち負けで見た時、藤井聡太という棋士にとっての最大のアドバンテージは藤井聡太と対戦しなくて済むことです。
故に一手のミスも許されないギリギリの戦いを迫られることがこれまではあまりなく(そういう対局がなかったわけではない)、ある時期から彼はほぼ無双状態になっていたわけですが、ここ1~2年ほどはいわゆる「藤井曲線」があまり見られなくなり、彼に引っ張られるように他の棋士が猛追をしている印象があります。(それでも最後はほとんど勝つんだけど)

伊藤七段は対戦成績こそこのシリーズが始まるまで対藤井戦0勝の状態が続いていたわけですが、彼はそこで独自路線にシフトチェンジすることなく、ずっと真っ向勝負を続けてきました。
渡辺九段や広瀬九段によれば、現在将棋界の研究家トップ3が藤井、永瀬、伊藤の3名で、他の棋士は特に対藤井戦においては研究勝負を外した戦い方を志向する傾向にありました。
そんな中で負けても負けても真っ向から研究勝負でぶつかっていく伊藤七段の姿勢は、目の前の1勝よりも、もっと長い目で戦っていくことを見据えたものとして私の目には映っていたわけですが、それが段々と結実しつつあるのかなという風に見えています。
考えてみれば彼はまだ21歳で、既にタイトル戦に3回登場。そして今や絶対王者と互角の戦いを繰り広げられるまでになっている。恐るべきスピードで成長しているのが窺えます。

現時点で勝ち越しているとはいえ、まだタイトルを奪取したわけではなく、レーティングやこれまでの実績から考えれば、なお藤井叡王が防衛する「確率」の方がやや高いと見なさざるを得ないわけですが、それでも1つの神話を破った伊藤七段にはつい期待をしてしまいます。

谷川十七世名人が「藤井さんを孤独にしてはならない」と仰られていたように、私は藤井さんが急速に棋界で無敵の状態になっていくことに、どちらかといえば不安を抱いていた方なのですが、(そして彼を孤独にさせない存在に大橋七段がなってくれればいいなと期待していたわけですが)ついに同世代の俊英が彼の待つ高みに手を伸ばしてきました。
今後の展開に目が離せません。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?