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将棋トピックあれこれ 7/9

また最近の将棋界のニュースを振り返りながら、あれこれ感想を述べていきます。

伊藤匠叡王誕生

第9期叡王戦をフルセットで制し、伊藤匠七段がタイトルを奪取、伊藤叡王となりました。
正直な話、ここ2~3年の藤井竜王名人はあまりにも強すぎて、このまま無傷で永世八冠を達成してもおかしくないと思っていたのですが、こんなに早く彼の牙城を崩す人が出てきて驚いています。

ちょっと気になったのはマスコミの報じ方。
絶対王者を破った若者がどんな棋士なのかということを紹介するために、こぞって「かつて藤井を泣かせた子供時代からのライバル」という像を押し出してきたことです。
伊藤叡王自身が認めているように、2人は子供時代に大会で当たった以降はさほど接点はなく、藤井竜王名人の歩みがあまりにも早かったために、伊藤叡王はしばらくの間ライバルにもなれていなかったというのが実際のところ。
また「藤井を泣かせた」という点もそれ自体は事実ではあるものの、子供時代の藤井少年が将棋に負ける度に大泣きしていたのは、マスコミも散々報じていたことです。
それを今になって「子供時代からのライバルで、大天才藤井聡太もかつて泣かされた相手」みたいなストーリーを作っても白けますねぇ。

大橋七段連勝

私の推し棋士である大橋七段が叡王戦の七段予選で1日2勝を挙げ、久しぶりに連勝しました。
昨年度は初めて年度勝率を5割台に落とし、今期も黒星スタートとなかなか結果が出なくてファンとしては苦しい日々を送っていたのですが、久々にホッとしたというところです。
七段予選は層が厚く、本戦に上がるのはかなり大変な道ですが、勢いに乗ってこのまま突き進んでほしいと思います。

またABEMAトーナメントでもチーム稲葉と対戦し、試合には負けたものの、個人としては上野四段と稲葉八段に続けて快勝していいところを見せてくれたので割と満足です。井出五段のトークも最高でした。
どちらかというと寡黙な大橋七段も、井出五段と一緒の控え室では心なしか口数が増えていたような気がします。
地域対抗戦みたいに、控え室動画を全部公開してくれないものでしょうか?

藤井棋聖が永世棋聖資格を獲得

山崎八段が挑戦者になった今期の棋聖戦はそれだけで心が踊りました。ABEMAが製作した煽りVの出来も大変素晴らしく、本当に楽しみになシリーズでした。

ただ藤井棋聖はあまりにも強すぎました。シリーズ中に叡王を失冠し、「これはもしかしたら?」と感じた人もいたかと思いますが、そんなことはなかった。
いつも感心するのは藤井棋聖の「最低点」の高さです。競技において自己ベストと同じパフォーマンスをコンスタントに出せる人はそうそういません。スポーツがいい例だと思います。
だからある意味でその人の実力を図るのなら、ベストよりも最低のパフォーマンスがどれくらいなのかを見た方がわかりやすいでしょう。
藤井棋聖は安定して90台半ばをキープ、低くても90を割ることはまずないという印象。
私は山崎八段の100が藤井棋聖の90に及ばないとは思っていなくて、一発入れることは十分あると思っていたし、入れて欲しかったのですが、現実の勝負は厳しい。

今回の防衛で藤井棋聖は連続5期で永世棋聖の資格を獲得。これでもう全てのタイトルを失冠しても(何十年先の話でしょう?)日本将棋連盟のホームページ上では「タイトル保持者」より下に行くことはありません。すご。


西山女流三冠棋士編入試験へ

7月4日に行われた朝日杯一次予選で勝利した西山朋佳女流三冠が、規定により棋士編入試験の資格を獲得しました。
その日行われたインタビューで意向を聞かれると、即答で受験の意思を示されて大変盛り上がっております。
福間さんの時はかなり決断に時間がかかりましたし、私もどうするんだろうなぁと思っていたのですが、まさかの即決。かっこいい。
福間さんもそうですが、棋力的に西山さんが四段相当のものを持っていることはもはや疑いようがないですが、勝負の世界というのは実力を証明した人だけが上に行けるものです。
先程のパフォーマンスの最低値の話とも被りますが、ベストが出せればプロ並みの将棋を指せるというのであれば、大抵の三段はそれくらいの力を持っているわけです。
毎局ベストコンディションとはなかなか行かないと思いますが、とにかく良い将棋を期待したいです。

個人的には晴れてプロになった暁には、ABEMAトーナメントでの指名被りが見たいところです。


王位戦開幕

棋聖戦が終わったのも束の間、王位戦がスタートしました。挑戦者は意外にも初めての王位挑戦という渡辺九段。
過去の対戦成績では大差なものの、途中までは互角かむしろ優勢だった対局も多く、当然この対戦に向けて入念に準備されてきた渡辺九段のこと、激戦が期待できます。

そして予想通りと言いますか、1局目からものすごい戦いでした。互いに自分からは絶対に隙を見せないというじりじりした駆け引きの末に千日手。
指し直し局では時間を多く残した渡辺九段が優勢を築き、最後は詰みまであったものの見逃してしまい、急転直下の大逆転劇となりました。
これがあるから藤井将棋は怖い・・・

SNSでは藤井先生の諦めない姿勢に痺れたといった声もちらほら見かけましたが、個人的にはあの時の藤井王位はほとんど諦めていたんじゃないかと思います。
彼は比較的態度に出やすいというのもありますが、渡辺九段が詰み手順を間違えた後に方針を変えて龍で再び王手をかけた時、藤井王位は対応を間違えて渡辺九段にもう1度チャンスが来ます。(残念ながら生かされませんでしたが)
これは集中している時の藤井王位だったらまずありえないことで、一旦読みを打ち切ってしまっていたところで再度別の順で寄せに来られたため、1分で対応しきれなかったのではないでしょうか?
勝ちが確定してからも終始浮かない表情で、粘り勝ちした人の顔には見えませんでした。
言ってみれば藤井王位の人間らしい部分が垣間見れた瞬間とも言えます。

盤勝負における藤井先勝は、他の棋士の2~3勝分の重みがありますが、今回の将棋で渡辺九段がやはり藤井王位と互角に戦える棋士であることがハッキリしました。
願わくばフルセットまで行ってほしいというのが個人的な想いです。

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