育児短歌_20首

2022年2月20日から2023年3月1日までに詠んだ育児短歌

吐き寝込みこれが人体錬成だ。等価交換して母になる

クリオネを水族館で見たときの感覚のまま胎動がある

水通ししてひとつずつ干してゆく わたしを母にしてくれるひと

「まだ寝てていいよ」とラジオ体操の音で目覚めた胎児を撫でる

終わらないドミノを並べ続けてるように泣く子と暗闇にいる

出産を終えて虫歯が欠けてゆく 我が子に見えるちいさな前歯

清純派アイドルの顔作りつつティッシュ出し続ける子を見てる

出産も育児も知らぬ頃の顔 本人として提示している

注意事項ばかり書かれたチューハイで誤魔化していく育児の夜を

分身ができたらもっと寝ていたい9時にブランコ押してるわたし

ポピー咲き走り続ける子の遊び相手を鳩に任せて座る

船の絵が描いてあるねと子は名画見上げるように持つアルフォート

まだ喋ることのできない頃の子の動画ラジオの音がきこえる

ひとつずつ音符をおいてゆくように冬の夜空へ吹くしゃぼん玉

パティシエにお礼を言って子が渡すいちばんきれいなハートのイチョウ

お年玉を渡すみたいに山茶花のひとひらひとりひとりへくばる

去年まで雪と呼んでた子がくれるきれいな花になった白梅

母親を上手くできない夜に子は労うように抱きしめてくる

牛乳にカルピスすこし足すように娘の眠る布団に朝日

一人なら通り過ぎてた脇道を子が走り抜け見つけた桜