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資源としてのナマズ

ナマズの養殖

近年、内水面の養殖で生産量を伸ばしている魚種の一つにナマズがあります。全世界における養殖ナマズの生産量は1999年の54万トンから2008年には278万トンに増加し、特に東南アジアにおいて著しい伸びを見せています。2008年の養殖ナマズの生産量の内訳は、第1位 パンガシウス138万トン、第2位 チャネルキャットフィッシュ(アメリカナマズ)47万トン、第3位 マナマズ 32万トンでした。国内の養殖ナマズの生産量に目を向けると、2005年における霞ケ浦の養殖アメリカナマズの生産量は212トン、2000年頃における国内の養殖マナマズの生産量は23トンでした。

持続可能な経済社会を目指す潮流のなかで、資源管理の観点から魚の養殖は注目を集めています。しかしながら、魚の養殖は環境負荷という視点では必ずしもメリットばかりではありません。例えば、マグロやブリなどの肉食魚類の養殖では、養殖魚1 kgを生産するために約5 kgの魚粉(イワシなどを採取して製造される)が必要となり、魚粉の原料となる小魚の漁獲量にその生産量が左右されるためです。

さて、養殖ナマズに目を向けると、パンガシウスは魚粉の含有量を抑えたエサで畜養され、その他にも環境負荷に関する様々な条件を満たすためサスティナブルフード認証(ASC認証)が与えられています。日本におけるアメリカナマズの養殖でも魚粉の含有量を抑えたコイのエサで畜養するため、環境負荷が低く養殖できる魚種なのでしょう。ただ、アメリカナマズの悪食な性質は野生に逸出した時に大問題に発展してしまいました。

ASC認証
ティラピア、パンガシウス、アワビ、二枚貝、エビ、淡水マス、サケ、ブリ類に対し基準を設けています。

原則
法令順守(許認可等を含む)
自然環境および生物多様性への影響の低減
・ 底質および水質をモニタリングし、一定基準を上回らないよう管理する
・ 絶滅危惧種や脆弱な生態系への悪影響が及ばないよう管理する
・ 食害防止のための駆除作業は所定の手順に従う
天然個体群への影響の軽減
・ 養殖を通じた寄生虫や病原体の野生個体への感染拡大を防ぐ
・ 養殖個体の野外への逃げ出しを防止する
・ 外来種や人工種苗の養殖は一定の条件を満たさない限り認めない
飼料、廃棄物、化学薬品等の適切な管理
・ 飼料はトレーサビリティーを確保し、絶滅危惧種由来の原料は用いない
・ 魚粉魚油の配合比率は一定の基準値以下とすること
・ 廃棄物のリサイクルを進め適正に処理すること
・ 生態系に影響を与える化学薬品を使用してはならない
病害虫の適切な管理
・ 有資格者による定期検診や病害虫の管理計画を実施する
・ 人の健康に影響を与える恐れのある化学薬品は使用しない
・ 病害虫の発生および処方を記録し、監督機関に報告すること
責任ある管理運営
・ 公平で衛生的な職場環境、賃金体系で運営すること
地域社会との調和
・ 地域社会との定期的な情報交換を行い、問題の解決に努めること
           https://www.wwf.or.jp/activities/addinfo/1766.html

霞ケ浦の外来魚資源

霞ケ浦にはアメリカナマズの他にハクレン、ソウギョ、アオウオ、ブルーギル、ラージマウスバスなどの外来魚が生息しています。2012年現在、資源水準が高い外来魚はアメリカナマズだけだそうです。さらに、在来種を含めてもアメリカナマズは霞ヶ浦の優占種であり、定置網や延縄で捕獲される魚のほとんどがアメリカナマズといいます。そのため、外来魚駆除事業によって年間200~300トンのアメリカナマズが処分されていますが、その生息数の顕著な減少には至っていないようです。

アメリカナマズは食用として移入した品種ですが、食用として出荷されるのは養殖物だけで天然物は現在のところ市場価値が見いだされていません。これは、携わる漁師が少ないこと、市場が要求するサイズの個体の漁獲量にばらつきが大きいことから安定供給が見込まれないため販売業者が取り扱わないのだそうです。さらに悪いことに、アメリカナマズによってハゼやエビ類が捕食されていること、漁の際はその鰭にある棘によって網を破壊したり怪我をさせるなどの被害を与えるそうです。また、佃煮の中にアメリカナマズの稚魚が混入すると鰭の棘と硬い骨のために不良品となるので、食品加工業者では魚種の選別に手間がかかっているといいます。

漁業関係者は、市場価値がある魚がない魚に捕食され、収入が減少するから憤慨しているわけです。もし、市場価値がない魚に何かしらの価値を見出すことができれば一つの解決案になりそうです。駆除事業によってその個体数が減少しないなら、逆手にとれば、この年間駆除量は恒常的な資源になりえるといえるのではないでしょうか。

かつて、アメリカナマズを含む霞ヶ浦で駆除された外来魚はフィッシュミールとして肥料に活用されていたようです(福島第一原子力発電所の事故の後に利用を中止していますが、2014年以降は、天然アメリカナマズの放射性セシウムは国の基準値100ベクレル/kgを下回っています)。淡水魚の魚粉は窒素やリンを豊富に含むものの塩分が少ないため肥料して優秀だそうです。霞ヶ浦の水産物の利用することは、湖から窒素やリンを回収することになり湖の富栄養化の抑制につながります。

食資源としてのアメリカナマズ

現在は、人口増加から食糧難が懸念され、昆虫食などが開発されつつあります。新しい食糧資源を開発することも大切なことですが、身近な未活用の資源を見つめなおすことも同時に必要なのではないでしょうか。特に、外来魚の多くは食用として国内に移入されたものの様々な理由で利用されなかった生物種であり再考の余地があると考えています。ただ、在来淡水魚の食文化も廃れてしまった現在において、いきなり「外来淡水魚を食べましょう」というのはハードルが高いかもしれません。そのため、外来のみならず淡水魚の食文化を再興することもはじめたいところです。

霞ケ浦において年間に駆除されるアメリカナマズ200~300トン(2019年のワカサギの年間漁獲量の2~3倍に相当)を食資源として試算してみます。そのために以下の条件を仮定しました。

仮定条件
日本人1人当たりの年間蛋白質摂取量 50 kg
アメリカナマズ1匹の平均重量    1 kg
アメリカナマズの歩留まり率     40%

アメリカナマズだけで日本人に必要な蛋白質を補うとすると、1人当たり年間125匹が必要となります。年間のアメリカナマズの駆除量200~300トンは1600~2400人分の年間蛋白質摂取量に相当します。アメリカナマズ以外の蛋白質を摂らないのは現実的ではないので、必要な蛋白質量の50%を置き換えたとすると3200~4800人分に相当します。

天然のアメリカナマズがビジネスとして成立しなかったのは、出荷規格を満たすに個体を安定的に捕獲することが難しかったためで、個人レベルで食利用することはなんら問題がないと言えるでしょう。ハイシーズンなら数時間の釣行で10匹以上確保できるので年間100匹以上の捕獲は現時点で難しくないでしょう。ただし、冬は数が釣れないしハイシーズンの釣果を貯蔵するには大型保冷庫を家庭に用意する必要があります。

一方で、下記のような意見もあります。

外来魚も下処理をきちんとすれば美味しいし、食べることは個人の勝手です。ただそれを資源とみなしプロモーションすることは、後々枯渇してきた際に資源保護を容認することに繋がります。

霞ケ浦におけるアメリカナマズの養殖は、野生から採取した個体を畜養しているので(逸出前は卵からの完全養殖だった)、天然のアメリカナマズが激減したら養殖業も成り立たなくなってしまいます。

私は、栄養学的には必要な蛋白質量さえ摂取できれば良いと考えているので、在来、外来に問わずその時豊富な資源を利用する柔軟性が必要ではないかと思います。仮に霞ケ浦からアメリカナマズが激減した時、何が優占種になるのか見当がつきませんが、その種の利用すれば良いのではないでしょうか。



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イカノフ
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