見出し画像

地底人 その1 “蒸し暑い夏の日”

私が地底人に初めて会ったのは、今からおよそ35年前の朝から蒸し暑い夏の日のことでした。その日は最初に9時から市ヶ谷でお客さまと仕事の打ち合わせがあって、その後、九段下に移動して次のお客さまと11時から打ち合わせをする予定でした。ところが、最初の打ち合わせが思ったよりもスムーズに終わってしまったために、九段下のお客さまとのアポイントメントの時間まで、1時間程度の空き時間が出来てしまったのです。だからといって、九段下のお客さまのところへ1時間近くも早くお邪魔するわけにも行かず、かといって喫茶店に入って涼む程の余裕もありませんでした。


そこでこの炎天下の中で余った時間を如何に過ごすかを考えた時に、出した結論が次のお客さまの近くまで行き、風通しの良い日陰を探して、そこで缶コーヒーでも飲みながら待つことでした。そしてその場所として最適に思えたのが、緑が多ければ涼しいだろうという単純きわまりない発想で、都内でも緑の多い靖国神社でした。


そんな思いで行った靖国神社でしたが、思っていたほど風が通ることはなく、熱い日差しが容赦なく照りつける中で、汗だけが止めどもなく流れ落ちました。そこで少しでも涼しい場所を!と思い、これも単純な発想で、水のあるところなら少しは涼しいのでは?と考え、ふらっと大手水舎の処に行ってしまったのです。しかし結果は同じで、ただ暑いだけなので、諦めてそこに腰を下ろし時間が過ぎるのを待つことにしました。

それからどのくらいの時間が過ぎたのかは覚えていませんが、二之鳥居から神門に向かって歩く奇妙な人?が目に入ったのです。大きなつばのついた黒い帽子(ストローハット?)をかぶり、映画『マトリックス』の中でネオ(キアヌ・リーブス)が着ていた薄手の黒いロングコート?それを着た“美輪明宏さん”という雰囲気の男性と思われる方で、何より変だったのは体全体が緑色の光を帯びていたことです。


そして無意識のうちにその方を目で追っていましたが、それに気付いたのか?その方が神門のところで急に立ち止まり、いきなりこちらへ振り向いたのです。そこで思わず目が合ってしまったので、「これは不味い!」と思い私は直ぐに視線を外しましたが、時遅くその方は私に向かって歩み寄って来たのです。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?